第51話「ワンピース」
早速買い物を済ませた俺達は、モールの二階のフロアへと移動する。
二階は女性ものの服屋が並んでおり、様々なテイストの服が並んでいた。
「えっと、玲さんは普段どんな服買うの?」
「そうですね、今着ているみたいなあまり派手じゃないシンプルなものが好きなので――あ、あそこの服屋さんとかですかね」
そう言って、有栖川さんの指さす先にあるのは、確かにシンプルなデザインの服が多く並べられた服屋さんだった。
そして有栖川さんは、「ちょっと見て行ってもいいでしょうか」と聞きながらも、既にそのお店へと向かって行ってしまっていた。
まぁ断る理由も無い俺は、仕方なくそんな有栖川さんについて行く。
店内へ入ると、周りを見回しても当然女性ものの服が並べられており、なんて言うかそのアウェーな雰囲気に少したじろいでしまう。
「いらっしゃいま――」
そして、そんな俺達のもとへとやってきた女性の店員さんは、有栖川さんの姿を見て固まってしまっていた。
それは勿論、有栖川さんの浮世離れした、まるで異世界な容姿に驚いたからだろう。
まぁそれにしても、話している言葉を失ってしまう程の容姿というのは、やっぱり普通じゃないし正しく異世界レベルに違いなかった。
「色々見させて下さいっ!」
「あ、は、はい、お好きなだけどうぞ……」
「ありがとうございますっ!」
買い物を楽しむ有栖川さんと、呆気にとられる店員さん。
そんな光景に思わず笑ってしまいながらも、俺は俺で有栖川さんがどんな服を選ぶのか気になりつつも付き添うことにした。
「あ、これ可愛いです! どうでしょう?」
すると有栖川さんは、そう言って一つの服を手にして見せてきた。
それは白地にドット柄のワンピースで、確かに見た瞬間似合うに違いないと思えた。
「うん、可愛いと思う」
「健斗くんもそう思います? じゃ、じゃあ試着してみちゃいましょうか、ね……」
俺が素直に答えると、有栖川さんは恥ずかしそうにそれを試着してみると言い出した。
つまりは、たった今自分が良いと言った服を、有栖川さんが実際に着てくれようとしているのだ。
そんな夢のような現実を前に、俺はただ首を縦に振って応えるしか出来なかった。
◇
「ど、どうでしょう……」
更衣室から出てきた有栖川さんの姿に、俺は思わず言葉を失ってしまう……。
たった今選んだ服を着て、少し恥ずかしそうにもじもじとしている有栖川さんの姿は、控えめに言って神がかっていた。
「……うん、凄く似合ってるよ」
「そ、そうですか? ふぅ、なら良かったです」
俺が感想を告げると、安心したように微笑む有栖川さん。
その頬はほんのりと赤く染まっており、その姿に俺はまたしても言葉を失ってしまう。
――いくらなんでも、可愛すぎでしょこれ……。
そんな破壊力抜群すぎる有栖川さんに、俺はここでもドキドキとさせられてしまうのであった。
「――うん、良い感じですね。じゃあこれ、買っちゃおうと思います」
そして有栖川さんはというと、本人的にもそのワンピースが気に入ったようで購入を決めていた。
「あ、それ買うんだね」
「はい! だって――」
「だって?」
「――だって、その……健斗くんが褒めてくれたものですし」
恥ずかしそうに、理由を教えてくれる有栖川さん。
しかしその言葉は、俺の心臓を大きく跳ね上がらせるのには十分過ぎた。
きっと本人は無自覚なのだろうが、それでも俺を理由にしてくれている事が嬉しかった。
こうして、無事そのワンピースを買った有栖川さんは、ホクホクと嬉しそうな表情でそれはもうご機嫌な様子だった。
「えっと、何か行きたいところとかある?」
「え? そ、そうですね」
そう言うと、突然辺りをキョロキョロと見回す有栖川さん。
それは一見どこへ行こうか迷っているようで、実際は次はどこへ行こうかワクワクしているようであった。
そんな、全開で楽しそうにしている有栖川さんに、俺は思わず笑ってしまう。
こんな風に楽しんでくれている事が、純粋に嬉しかったのだ。
しかし、モールの通路で楽しそうにしている有栖川さんの姿はかなり目立ってしまっているようで、すれ違う人達のほとんどがその容姿に目を引かれているのが分かった。
そして、ここは街でも中心のショッピングモール。
つまりは、この街に住む全ての人がやってくる場所であり、そうなると――、
「あ、有栖川さん……と、一色……?」
当初の不安通り、やっぱりこうして同じ学校の人に見つかってしまうのであった。
その声に恐る恐る振り返ると、そこには同じクラスの王子様こと、矢田とその友達たちの姿があった――。
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