第50話「お揃い」

 時計を見ると、お昼の十四時過ぎ。

 家を出た俺と有栖川さんは、一緒に駅前へ向かって歩く。


 何て言うか、改めてこうして一緒に歩いていると緊張するというか、これはもしかしなくてもデートってやつなんだよなという実感が俺のドキドキを加速させていくのであった。

 それでも、隣を歩く有栖川さんはあまり気にしていないのか、楽しそうにニコニコと笑みを浮かべていた。


 だから俺も、そんな有栖川さんを見ながらしっかりしなきゃと気持ちを引き締める。

 これまでこうして誰かと一緒に出掛けるとかいう経験も無かったであろう有栖川さんのためにも、今日はこれから漫画の二人のように楽しんで欲しいと思いながら――。


 そして、俺達は駅前の繁華街へと到着する。

 休日のお昼過ぎという事もあって、当然人通りは多かった。


 そのため、やはりその容姿からあり得ない程の注目を浴びてしまう有栖川さん。

 すれ違う人の多くが、有栖川さんの姿を見て思わず二度見をしてしまっている光景は、隣で見ていて本当に凄いなと思うしかなかった。

 有栖川さんは別に芸能人とかそういうわけではないから、それは純粋にその容姿だけでその反応をされているわけで、やはりそんな通常あり得ない状況に特別なんだよなという事を再認識させられる。


 そして、それと同時に俺は一つの不安に駆られる。

 それは、やっぱりこれだけ人だかりが出来ているのだから、また同級生に会ってしまったりするのではないだろうかという不安――。


 しかしそれでも、隣でこうして一緒に出かけている事に楽しそうに微笑んでいる有栖川さんの姿を見てしまっては、それも覚悟というか織り込み済みで考えないとだよなと俺は状況を再認識する。

 ここまできて、見られたく無いからやっぱりやめるなんて出来るわけが無いし、俺自身そんな事はしたくない。

 だったらもう、そんな外野の目なんて気にするだけ無駄なのだ。



「行こっか」


 そう思い直した俺は、そう言って有栖川さんに微笑みかける。

 するお有栖川さんも、嬉しそうに「うん!」と元気よく返事をしてくれて、もう一歩隣へと近付いて来てくれたのであった。


 こうして、有栖川さんとやってきた駅前のショッピングモール。

 昼過ぎという事もあり、モール内も人でいっぱいだった。



「人多いですね! 私、普段こういう場所へは滅多に来ないので」


 そしてモールへと入った有栖川さんは、そんな賑わう環境を前に楽しそうに微笑んでいた。

 その姿はまるでテーマパークへやってきた子供のようでもあり、そんなに嬉しいのかと微笑ましい気持ちになってくる。

 しかし、普段はこういう場所へ来ないというのは少し意外だった。

 意外というのは、イメージに合わないとかそういう意味ではなく、同年代の女の子がこういう場所へ遊びに来ないという点においてだ。

 それもやっぱり、これまで友達の居なかった有栖川さんだからと言えばそうなのかもしれないが、本人はこれ程までに楽しそうにしてくれている分、何だか残念というか悲しいような気持ちになってくる。



「あ、健斗くん健斗くんっ! 私あのお店見てみたいです!」


 俺がそんな事を考えていると、有栖川さんは早速一つのお店を指さしてそのまま向かって行ってしまった。

 まぁ色々思うところはあるけれど、今はこんな風に子供のように今を楽しんでいる有栖川さんと一緒に楽しむ事に専念しようと、俺はそんな有栖川さんのあとを追った。



 ◇



「これ、可愛いです!」


 有栖川さんの入ったお店は、雑貨屋さんだった。

 一緒に色々見ながら回ったのだが、有栖川さんはキャラクターの描かれたマグカップを手にすると楽しそうに微笑む。

 だから俺は、こういうのが趣味なんだなと思いながら、やっぱり中身は普通の女の子な有栖川さんとのそんなショッピングを楽しんだ。



「健斗くんは、どういうのが好きですか?」

「え、俺? そうだな――こういうのとか」


 急に話を振られた俺は、好きな漫画の有名キャラクターが描かれたマグカップを一つ手に取る。

 すると有栖川さんは、興味津々といった様子でそのマグカップを見つめてくる。



「あ、私もこのキャラ知ってます!」

「はは、有名だからね」

「それじゃあ、私はこっちのキャラにします!」


 そう言うと有栖川さんは、そのキャラと同じ作品に出てくるマスコット的なキャラの描かれたマグカップを手にする。

 しかし、こっちにするのは良いけれど、それを選んで一体どうしようと言うのだろうか……。



「600円……それ程高いわけじゃありませんし、健斗くんさえ良ければ一緒に買っちゃいませんか?」

「え? これを?」

「……はい、その、これでお揃いになれるかなって、えへへ」


 そう言って照れ笑いをする有栖川さんに、俺はただ無言で頷いた。

 確かにこのぐらいの値段なら、高校生の自分でも全然買える値段だからそれはいい。


 しかし、こうして実際にモノとして有栖川さんとお揃いのモノを一緒に買うというのは、なんて言うか物凄く恥ずかしくて、そして嬉しかった――。


 こうして俺は、買い物に来て早速有栖川さんとお揃いのモノを手に入れる事が出来たのであった。


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