第17話「変化」

「じゃ、改めて宜しくね! 有栖川さん! それから、一色くんも」


 お昼を食べ終えると、そう言って橘さんは友達の元へと行ってしまった。

 何て言うか、橘さんってやっぱり物凄く良い人だなって思った。


 そして、そんな神対応な橘さんのおかげで早速一つの変化が起きていた。

 それは、周囲の有栖川さんへの目が変わっている事だ。


 先程教室内で橘さんと普通に会話をし、笑ったり頬を赤らめたり様々な表情を見せていた有栖川さん。

 そんな、これまでの完全無表情でクールな印象とは異なり、有栖川さんも普通の一人の女の子だというのがいよいよ周囲に知れ渡ってしまったのであった。


 それは、ある意味これまでクールを装い作り上げてきた有栖川玲という人物像を壊す事になる。

 だから、今後の影響とかを考えると、もしかしたら有栖川さんにとって悪い方向に働いてしまう可能性は拭えなかった。

 それこそ、また異性から告白される事が増えてしまう事も当然考え得る話だ。


 それでも俺は、今ではこうして知れ渡った事は良かったと思っている。

 今後、有栖川さんの苦労が増してしまうような事もあるかもしれないが、それでもこうして橘さんという頼もしい理解者が出来たのだ。


 これまで勉強についていけなかったのもそうだけど、やはり一人で過ごすというのはどうしてもそういう問題が常に付き纏ってしまう。

 だからやっぱり、一人よりもクラスに友達と呼べる人がいる環境の方がどう考えても健全だし、それは有栖川さんにとってきっといい方向に変わっていくはずだと思えるのだ。


 その証拠に、その生じている変化は何も悪い事ばかりでは無さそうだった。

 どうやらクラスの女子達も、これまでずっと距離を置いていた有栖川さんに対して抱いていた印象とは違うんじゃないか? という事に気が付き始めているのが伝わってきた。


 橘さんが加わったクラスの中心女子の輪では、「私も有栖川さんと仲良くなりたい!」なんて会話まで漏れ聞こえてきたから、女子達の認識が変わってきているのは間違いないだろう。


 ちなみに当の有栖川さんはというと、そんな状況に少し居心地を悪さを感じているようで、鞄から取り出した念願の漫画を読んで自分の世界に閉じこもっていた。



「ぷふっ! ――コホン!」


 そしてまた、ツボが浅い事で漫画を読みながら一人吹き出しているのであった。


 まぁそんな緩い所も含めて、以前の近寄りがたい有栖川さんより今の方が良いよなと、俺は残りの昼休みそんな有栖川さんの事を隣で見守ったのであった。



 ◇



 午後の授業が終わり、今日も下校時間となった。

 どうやら今日も有栖川さんは橘さんと帰るようなので、俺はもう気にせずさっさと一人帰る事にした。


 そうして一人家に向かって歩いていると、



「待ってよ! 一色くん!!」


 そんな呼び止める声が、背後から突然聞こえてくるのであった。

 驚いて後ろを振り返ると、そこにはこっちに向かって大きく手を振る橘さんの姿があった。


 有栖川さんもそうだが、橘さんみたいな美人系ギャルに名前を呼ばれて手を振られるというのも、平凡な俺には中々刺激が強いというか何と言うか、今呼んだのは本当に俺だろうか? なんて気がしてきてしまう。


 そして橘さんの隣には、同じく小さく手を振る有栖川さんの姿があった。



「ちょっと一色くんも付き合ってよ!」


 そんな美少女二人が一体何の用だろうと思っていると、追い付いてきた橘さんに背中をポンと叩かれる。



「よし! じゃあ行こう!」

「え、行こうってどこに?」

「これから有栖川さんと友達の三人で、仲を深めに行こうと思ってさ! 寄り道ってやつ?」


 そう言って橘さんは、俺に向かってニッと微笑みながらウインクしてきた。

 これから一体どこへ向かおうというのかは教えてくれなかったが、どうやら断れる雰囲気でもないため俺はそんな橘さんに従ってついていく事にしたのであった。


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