第15話「漫画と国語と禁止令」
朝のホームルームを終えると、有栖川さんはそれから一限が始まるまでの間を早速漫画を読んで潰していた。
しっかりとしたカバーが付けられているため、傍から見たら漫画を読んでいるようには思えないだろう。
それに、澄ました表情で静かに本を読む有栖川さんの姿は、読書美女とでも言うのだろうかとても絵になっていた。
そんな姿に、クラスの何人か見惚れてしまっているぐらいに。
でも俺は知っているのだ、そのカバーの下にある本は、俺が昨日貸したラブコメ漫画であるという事を。
そんな、堂々と教室内で漫画を読む有栖川さんの大胆さとギャップに、俺は笑ってしまいそうになる。
――朝から有栖川さんが有栖川さんしてるな
本当に、俺は多分一生飽きる事なんて無いと思う。
それ程までに、隣の席の有栖川さんは色んなギャップを無自覚に見せてくれるのであった。
そうして、まるで一般小説を読んでいる雰囲気で、ポンコツヒロインの登場するラブコメ作品を読みだす有栖川さん。
しかし、それは小説ではなくラブコメなのだ。
ラブコメディー。そう、それはラブだけでなくコメディーでもあるのだ。
だから当然、序盤のあのシーンが――。
「ぷふっ! ――コホン!」
そんな事を思いながら隣でそっと見守っていると、案の定有栖川さんは恐らくそのシーン読んで吹き出してしまう。
咄嗟に咳ばらいをして、今のは笑ったのではなく咳をしただけだと誤魔化す。
その結果、普通に本を読んでいるだけだと思っている周囲は、まさか有栖川さんが笑って吹き出したなんて思うはずもなく気付かれなかった。
そんなわけで、教室内でギリギリの状況でありつつも、有栖川さんは早速一生懸命漫画を楽しんでいるのであった。
「ぷふっ! ――コホン!」
◇
そして授業が始まる。
ちなみに一限は国語だった。
国語なだけあり、他の科目に比べて黒板に文字が書かれる頻度が高い。
そのため隣の席の有栖川さんは、それを一生懸命ノートに書き写していた。
しかしそのスピードは速く、淡々と説明を続ける先生な事もあり次第に様子がおかしくなっていく有栖川さん。
――あー、ついていけなくなったな
その様子にそんな事を思っていると、そっと横目で助けを求め来るような視線を向けてくる有栖川さん。
相変わらずの勉強の出来なさに、俺は思わず笑ってしまいそうになる。
いや、それは別に勉強出来ない事を笑ったわけではない。俺だって勉強は得意ではないのだ。
じゃあ何かと言うと、そうしてすぐに躓いてはこっちに助けを求めてくる有栖川さんが、ポンコツ可愛いよなと思ってしまったからだ。
一生懸命やってはいるけれど中々上手く行かない有栖川さんを見ていると、つい俺は可愛いと思ってしまうし、口角も上がってくるのだ。
しかし、こんな風に頼られてしまっては助けないわけにもいかなかった。
――しかし、助けようにも今回はどうフォローしたものか
淡々と進んでいく授業についていけなくなってしまった有栖川さんを、どうやってフォローしたら良いのかが俺にも分からなかった。
例えば数学なら、計算式をフォローしてあげれば済むが、国語はそうもいかない。
それこそ、一緒に勉強でもすればフォロー出来るとは思うが、それはまだ早いというか――俺が持ちそうにもないからまだ無理だ。
だから俺は、代替案を模索する。
しかし、中々そう簡単に答えなんて出て来ない。
困った俺は、そっと横目で隣の様子を確認する。
すると有栖川さんは、中々俺から反応が返ってこない事に不安そうな表情を浮かべていた。
いや、どれだけ俺を頼りにしてるんだよと思ったが、確かにこれでは赤点ギリギリな事も頷けた。
しかし、確かにペースは速いものの、別についていけない内容でも無かったはずだ。
それなのに、どうして有栖川さんはこんな事になってしまっているのだろうか――。
ブブブ――
すると、ポケットにいれたスマホのバイブが鳴る。
そっとスマホを確認すると、それは有栖川さんから送られてきたメッセージの通知だった。
『どうしましょう、ついさっきの漫画の事をぼーっと考えていたら、全く授業についていけなくなってしまいました!!』
成る程ね、それで話をすっ飛ばしてしまったんだね。
有栖川さんから、そんな授業についていけなくなってしまった理由を聞かされた俺は、だったらと有栖川さんへすぐに返信する。
『そっか、じゃあ漫画は昼休み以外禁止ね』
要は、休み時間に漫画を読んでいるから悪いのだ。
だから俺は、昼休み以外漫画禁止令を出した。
俺は漫画を貸しているスポンサーであり、有栖川さんのアドバイザーでもあるのだから、このぐらい許されるはずだ。
そんな俺の返信を見た有栖川さんは、それはもう見事にショックを受けていた。
それは漫画を読めない事に対してなのか、はたまたそれが原因だと気付けたからなのか――まぁ、両方だろうな。
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