第31話 最悪の再会

時雨さんが帰った後、家の食料が底をつきかけていることに気づく、別にお腹が空いているわけじゃないが今日は何も食べていない。1日昔は3食取っていたが2月14日親友が死んだ後から味覚がおかしく食事への意欲が湧かなくなった。


しかもここ最近の出来事のせいで胃が物凄くキリキリとして胃液が逆流し、夜には時雨さんに隠れるように嘔吐もした。

このどこかからする時雨さん曰く黒百合に似た匂いの、異臭のせいか悪夢にもうなされる。

冷蔵庫の中身を確認しようと台所に向かう。


やはり冷蔵庫に食料は殆どなかった、時雨さんは料理も作ってくれたが、2人分は想像以上の消費だったなと考えつつ視線が冷凍庫に向く。

…………昔の記憶を思いだし変わらないと思いつつも冷凍庫を開く。

手に取ったのは、花がついているリボンの箱。

その中からいくつか入っている茶色く丸いものを取り口に入れる。

……それは手作りのトリュフだった。

詩音が死んだ後、母親から連絡が来て始めて、娘が私にお願いして作ったものだと渡された。

本当はハートのものを作ろうとしていたが手が滑り割れてしまい仕方なく簡単なトリュフになったとのことだった。それをなんでこんなことにと泣きながら俺に渡した後も泣き続けていた。

「やっぱり味がしない……」

どろどろとした感触と口に張り付く気持ち悪さは残っているがそれだけだった……。

残りを冷凍庫にしまい、家に鍵をかけて買い物に向かう、停学中だが買い物はいいだろうと久しぶりに家を出たマスクと深く帽子を被って近く……といっても歩いて往復40分くらいはかかるが、コンビニに向かい歩いた。

朝の天気予報ではこれから1週間は晴れで最高気温を本日も更新したと言っていた。


「…………お兄ちゃん行ったみたいだねそれにしても……暑い」

私は、数日前から家に来てお兄ちゃんに会おうとしたが先客がいた……あの女達かと思ったがそれはホスト風の男性だった。日が悪いと手に持った黒百合の花束を持ち日を改めるが彼は変わらずいた。

苛立ちながらもただ帰るだけではと聞き耳を立てては帰ることを繰り返えしていた。

ある時2人が台所に向かい何かを作っている。お兄ちゃんの部屋と台所は少し離れていて、ご飯も居間で食べるならと、立て付けが悪く閉じられない窓から入り目的の一つだったお兄ちゃんの携帯を探す……。

それはすぐに見つかった、机の引き出しの中にあったからだ……。すぐに出ようとする。入る時はあそこしかないが出るなら他の窓から出ればいいからだ、そう考えているとわたしは視線を感じそっちを向く。

そこには3つの写真が並べられていた。

「葵ねぇさん」……

何故だかお姉ちゃんに見られているような錯覚に陥るも一緒に隣で写っているお兄ちゃんを見て、笑いながら、もうあなた達じゃないの……お兄ちゃん隣にいるのは……私だけ……。

そう心の中で呟き、家を後にした。


それからお兄ちゃんと一緒にいた男は数日してやっと帰るらしく、停学解除まで後4日……間に合った。お兄ちゃんのことを思いながら1人、窓の下で黒百合の花束を手に持ちながら喜んだ。


あの男が帰った後すぐに会いたかったが、詳しく話を聞いてるわけじゃなく帰ってくることも考えじっと待つ、その間もこれからのことを考えていた。

黒百合を置いてから……布団の準備もして……後これもと自分のお気に入りのナイフを握りしめて待つ。


するとお兄ちゃんはやっと午後になってどこかに出かけていった。見るからに怪しい格好をして……私の事前準備の効果だと喜びながら私は縁側の窓から入る。

そして準備を始めた……黒百合を玄関……は逃げられたら嫌だから部屋の前に置いてと、布団を押し入れから出して敷く……。これからのことを考え、自分のアソコが濡れてきているのが分かる。

だがどこかからまた視線を感じそちらに向く……


そこには……やはりお姉ちゃんの写真……。何?お兄ちゃんを守って死んでくれたのは感謝はしてるけど……なんか私に文句があるの……笑顔の写真に1人呟く。

見つめていると途中でいいことを思いつく……見られながらもいいけど初めては恥ずかしいし、お姉ちゃんと……その隣の詩音という女性……お兄ちゃんに抱きついている写真でムカムカする。

そしてあの男……宗一…たくさん私とお兄ちゃんの邪魔をしてきた根源……。


「今はいなくてもお兄ちゃんの支えになってる人たち……」

ただの写真だが、もしこれを……と考えて一つ一つ手に取り……それを叩きつけた、割れたガラスから写真を抜き取りお兄ちゃんは残して残りを切り刻み……また宗一の顔は串刺すように何回も畳の上で刺した……。

「はぁはぁ……お兄ちゃんもっとこわれてくれるかな?もっと素敵な顔してくれるかな……」

さらに下着が湿っているのを感じながら呟き……鉄心の帰りを待った。



「ただいま……てもう時雨さんもいないのか」

そのまま自室ではなく買ってきたお肉などを入れに台所へ向かう……。

……なんだかとても臭い匂いがすることに気がつく……今までの残りがのような匂いじゃなくてもっと強い匂いが……。

その匂いが気になり確認すべく手に持っていた袋は冷蔵庫に入らずシンクに起き匂いが強くするところに向かう。すると自分の部屋の前には黒い花が置いてあり、ドアは閉めていたはずだが空いている……。

遠目でも嫌な予感がし、一度台所に戻り包丁を手に取り自分の部屋へと向かう……。

物入りにしては、花なんて置くはずがない……

そう考えつつも悪臭のする花を手に取り、その手で開かれてるドアをゆっくり開ける……。


「………なんだよこれ。」

そこには自分のお守りのように、辛い時は並べて返答はないが相談に乗ってくれていた。初恋の相手、親友、恩人の写真が無残な姿で散らばっていた……。

そういっちゃんの写真なんか限界もないくらいに……。

「酷い……酷すぎるなんでこんなこと」

そう涙を流しながら顔を伏せていると

「おかえり鉄心お兄ちゃんっ私のプレゼント気に入った?」

振り向くとそこには葵が成長した姿のような御幸がいた。違うのは黒いゴスロリのような服を着ている葵はそんな服は着ない。

数年ぶりに彼女を見て、胃から何か込み上げ小学生の時の記憶が溢れ出しその場で震えながら嘔吐する。

「おぅええ、がぁははぁはぁ」


「あらら大丈夫お兄ちゃん?」

優しく背中をさする彼女……

「そ、そんなにおべがうえぇー憎いのかはぁはぁ」

吐きながら、震えながら彼女にそう伝える。


「うんっ憎いよ?憎くて憎くて仕方がないの」

そう彼女は俺の口から垂れている胃液を拭い匂いを嗅ぎながら、酔いしれた様子を見せる。

それが気持ち悪く恨まれていることを感じ呼吸が早くなる。鼓動がうるさいくらいにドクドクと鳴っているのが分かる。


「だから頑張ったんだよ?いっぱいね」

頑張ったとは、今の俺の現状のこと……、誰が匿名掲示板や動画などを使い噂を流したのは御幸ではないかとは疑っていたが黒幕が彼女だと次の言葉で確信した。

「あー疑問かな?お兄ちゃんっ匿名掲示板も動画も私だよ?」

「うぅ、時間さんのはぁはぁことは?」

彼女は鉄心の言葉を聞いて、嘘をつくことを決める。

やっぱり知らないんだ……そうだよねケータイも回収したし、そういう風に追い込んだから心の中で微笑みながら鉄心に伝える。


「美歌ちゃんは私の友達なのっ大切な人をお兄ちゃんに殺されたらしくて……相談に乗ってあげてたんだよ、彼女優しい人なのに、すごくすごくお兄ちゃんのこと恨んでたよ?私以上に」


その言葉を聞いてズーンと体が重くなるのがわかる……御幸以上にその言葉を聞いてもう人がわからなくなった……。涙が溢れ出て嗚咽が止まらなかった。

だけどこの時これ以上の地獄があることを知らなかった。


「私お兄ちゃんにお願いがあってきたの」

そう彼女は俺の髪を掴み、顔を覗き込んでくる、お願い?死ねって言うんだろうか……そう考えて口からか細い声を出す。

「死ねばいいのか……」

「うんうんっ違うよそんなんで許されると思ってるの?一緒私の下僕になって私のために生きるの」

死ぬなんて甘い、一生彼女に尽くせと言ってくる。ふと俺に優しくしてくれたクラスメイトの顔が浮かぶ……

「返答はお兄ちゃん?そうしてくれないとお兄ちゃんの周りにいる虫……いや友達さん殺しちゃうよ?」

胃液が喉を荒らし、発作のせいで声がままならない状態の俺を見ながら彼女は残酷にもそう言う。

ポケットから刃渡り10センチは超えているナイフを出しながら。ケータイを操作して見せてくる。


「えーとね真昼ちゃんにユウミちゃんだっけか可愛いいし、綺麗だよね」

そういい俺に彼女達の下校中の写真を見せてくる。もちろん美歌にも近寄るなと付け加えて


「お兄ちゃんが私に忠誠……いや、今私に告白して、そして私だけのものになるのっ言うことを聞いてくれないとどうなっちゃうか分かるよね?」

告白?御幸は俺を殺したいほど憎んでるはずなのに思考が追いつかない。


「ねぇ?返事は……」

「なんでぇ……はぁはぁ御幸は俺のこと、恨んでるはず」

苦しい、気持ち悪い、胃が痛いそれでも疑問を気力もない声で伝える。

「あーそう言うこと」 

そういうと彼女は俺の吐物がついている口に遠慮もなくディープキスをしてくる。

「うーぅーんっぱっわかった?」

キスが終わると同時に彼女が頬を少し赤くしながら聞いてくる。……わけが分からず混乱していると


「はぁー鈍感というかまぁ、私が考えられないようにしたのか……」


彼女はため息をつきながら想いを伝えてくる。


「お兄ちゃんっ憎くて、毎日呪うくらい大好きだよっ愛してるっ!」

…………その言動と内容が合わず笑顔で伝えてくる彼女に恐怖する。狂ってる……本当に真昼もユウミも美歌ですら手にかけるかも知れない、震える体を起こし手元に持った包丁を掴み彼女に覆い被さる。


「…………へぇー動けるのは意外」

彼女は今の状況を見ながらも冷静にそう呟く。

「はぁはぁはぁ」

彼女を殺せば……俺の友達は助かる……生きている以上時間さんは分からなくてもあの2人は近づいてきてしまう気がする。


「いいよ?刺せば?それでお兄ちゃんの永遠になれるなら姉妹揃って殺せばいいよ」

こっちの目を見ながらそういう御幸……とても大きな青い瞳に見つめられ……

自分がしようと思っていることに気づく……葵がいれば2人とも笑いながら……今この家にいたのかも知れない。

俺が亡くなったとしてもこんなことには少なからずならずに姉妹で墓参りぐらい来てくれていたのかも知れない……俺を助けたから、俺が殺したから

涙が溢れ出て手に持っていた包丁が力なく畳に落ちる。


「やっぱり優しいねお兄ちゃん……でもね逆らった罰だよ」

「イッ」

「刺す覚悟もないのに脅さないでよっまぁキュンキュンしたけど」

そういい彼女はナイフで俺の太腿を刺す、深くはないがとても痛い。俺は出来なかったが彼女は逆らったら遠慮なく刺すことを行動で証明した。


「ウゥウウ」

痛みにうずくまっていると頭を今度は踏みつけながら少しして満足したのか靴下を脱ぎ生足を俺に差し出してくる。


「舐めて?喋れなくてもそれぐらいできるでしょ」

土下座はしたことがあるが、最大限の侮辱する行為……逆らったら彼女は俺だけじゃなく優しい人たちにも危害が加わる。震える手で彼女の足を持ちながら足背にキスをした……。


「やっぱり告白されないとな……お兄ちゃん?私のこと好き?彼女にしたい?」


足のキスだけで満足しなかったのか彼女はそう聞いてくる。逆らったら……正直この場からいなくなりたい……でもどこに行く?……どこにも行けないことに気づく……。

「好きだよ御幸……付き合って欲しい」

意識が朦朧とし、涙ながらなんでこんなことにそう思いながら彼女に答えた。


「一生忠誠を誓います、下僕として生きますは?」

もういいや頭も考えられないぐらい疲弊しているもうこれ以上心がもたない……いいやもういいや。意識を手放して楽になりたい。そう考えながら伝える。


「一生忠誠を……ちがいまず、げぼぐどしていぎまず……」


最後に声を振り絞り涙を流しながら彼女に答えた。その時心が壊れた音がした。脳が限界だと指令を出したのか視界が暗くなり意識を手放した。


――――――――――――――――――――

作者余談欄

いつも読んでくださりありがとうございます!

よければハート等貰えると嬉しいですっ


もう終わりも近いです、次の話は刺激が強いので性的表現が苦手な方は飛ばして下さい

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る