第30話 最初から孤独なら、孤独に耐えられた。

早乙女ユウミ視点


「はっはっはっ」

「もうなんでお姉ちゃんアラーム止めちゃうの完全に遅刻じゃん」


朝起きた時に姉エリカの姿はなく、ケータイのアラームは全てご丁寧に止められていた。朝が弱いからたくさんかけておいたのに。

高校に入学して数ヶ月はじめての遅刻にユウミは走りながら姉に対する文句を言い学校に急いだ。


職員室に遅刻したことを伝え、一限が終わるまで待つ……途中で参加しても単位はもらえず、気まずいのもあるので一限の終了の鐘が鳴るとともに教室に向かう……。


心なしかどこのクラスもいつもより騒がしい気がする……。


お姉ちゃんのクラスの前を通りすぎたとき、立ち止まる。

鉄心くんに会うついでに、お姉ちゃんに文句を言ってやろうと今のこの思いをぶつけようと、教室のドアを開ける。

最初はお姉ちゃんに会うために来ていたのに今では鉄心くんと話す口実を探している自分がいた……。


「失礼しますお姉ちゃんいる?」

……教室に入るとみんなの視線が私に向く、いつもは少し見た後逸れるのにその視線は私に向いたままで居心地が悪い。周りを見渡すと鉄心くんはおらず、それどころか美歌ちゃんも真昼ちゃんもいない……。


「えーと?」

何が起きてるのか分からないが何かおかしいことはわかった。


困惑していると1人私に近寄ってくる気配がする。

「ユウミ……もうここにはくるな」


お姉ちゃんが開口一番私に伝えてくる。


「お姉ちゃん……どういうこと?」

私は困惑しながらお姉ちゃんに聞く。


「今度からは私がお前のクラスに行くから」

…………何を言ってるのか分からないが鉄心くんがおらず何故か遠ざけようとしていることは理解できた。


「ねぇ?鉄心くんは?美歌ちゃんと真昼ちゃんもどこ?」

いない人たちのことを尋ねてみる。


「…………いいかユウミよく聞け」

お姉ちゃんは私の肩を掴みそう私に言ってくる。


「…………」

その迫力に私は、言葉を待つ。


「うまく言えねぇが鉄心はクズ野郎……いやそれどころか人殺しだったんだよ……」


「は?何言ってるのお姉ちゃん?嘘でも私怒るよ」


お姉ちゃんはつまらない嘘はよく付くが、今回のはつまらないを超えて怒りが湧いてきた。


「これ見ろよ、ユウミを遅刻させたのは謝るけどそれはこれを見ればわかるから」


お姉ちゃんはケータイを私に差し出し匿名掲示板を私に見せてくる。内容を見ると、そのことは鉄心くんのことだとわかった。


「は?」

困惑のまま画面に釘付けになる。お姉ちゃんはそんな私を見たままケータイを手から取り、操作してまた渡してくる。


「それだけじゃねぇ動画もあるんだよこの14分の所から……」

その動画のことはさっきの掲示板と合わせて鉄心くんのことだとわかった。すごい数のコメントと誹謗中傷に私は自分が言われているようにも感じ、見るのが気持ち悪くなり途中で見るのをやめる。


「わかっただろ?ユウミ……それもだけど美歌相手にもよ」


それから美歌ちゃんの告白に対して酷い仕打ちをしたこと、朝の私が寝ている間に起こった出来事を聞いた。


「ねぇお姉ちゃん」

「わかっただろユウミ?」

「ねぇお姉ちゃん……」

「……なんだユウミ?」

「なんで私の邪魔ばっかりするの?」

なんでそこに私はいなかったのか……不思議と怒りが湧いてくる。


「え?わたしはお前のことを守りたくて……」

「そんなのお願いしてないよ!守る守るって!なんでその場に私をいさせなかったの!」

守る?何から?それより大切な友達が酷いことになっているのに、なんでそこにいなかったんだという怒りが湧いてくる。


「は?……だってお前がいたって」

お姉ちゃんは私の怒りに当てられたのか易怒的にそう返してくる。


「居たら……居たら……何もできなかったかも知れない」

それでも負け時と言葉をつむぐ周りの視線も気になるけど、それでも居ても何もできなくても彼の側にいることはできたはずだ!


「でも……それでも!彼の側にはいることができた!」


「それじゃお前も噂にされるし、ハブられるぞ?」

呆れるようにそうお姉ちゃんは言う。


「それがどうしたの?お姉ちゃんは私のクラスでの立場知らないの?友達らしい友達がいたらお姉ちゃん達と毎回ご飯なんて食べないよ!」

自分で言ってて悲しくなるが、事実なのは変わりない。


「…………」

お姉ちゃんは申し訳なさそうに下を向いて何も言わない。自分のせいだと思っているかもしれないけどそれは違う。


だって……

「……クラスの孤独には耐えられるよでもね、それは鉄心くん達がいたから、私に他の居場所があったから耐えられたのに、一度大切なものができたのに、それがなくなっちゃたら私もう孤独には耐えらないよ」

瞳に涙を蓄えながらもそう思いを打ち明ける。


「…………」

お姉ちゃんは沈黙を守ったまま私の話を聞いている。


「私の高校最初の友達、彼が私を導いてくれていた彼が私の居場所をくれた……彼は私に看病の時に恩を感じてるって言ってたけどそれ以上にわたしは彼に感謝してる」

彼が居たから、今の私はいる。それなのに彼がいなきゃ……私はどこにいればいいの……?


続けるように彼への思いを伝える。


「彼はそんなことしてないってわたしはわかる。こんなネットの人たちよりも今の彼を知ってる!過去のことが本当でも一緒に誹謗中傷だって受けるよ、孤独よりもそっちの方がいい……」


「なんでそんなに……」

お姉ちゃんの問いに私は一旦冷静になり考える……この想いは……自分でも、最初に廊下で抱きしめられた時にもう気付いていた……彼を見た時から恋に落ちていた。……そう一目惚れだった


「わたしこの感情の名前分かるよ……」


「お姉ちゃんも生まれてからずっと私のこと見てたからわかるでしょ?」

そうお姉ちゃんに伝える。


「なぁユウミそれでもわたしはお前をあいつに近づけたくない」

お姉ちゃんは歯を食い縛りながら言う、お姉ちゃんも私と付き合いは誰よりも長いから、この想いに気づいていたのだろう。今回のことがなければ、応援してくれていたかも知れない。


「そうだよユウミちゃん悪いことは言わないから縁切りなよ私たちと友達になろうよ?助けになるよ」

クラスの女子生徒からそう声をかけられる。挨拶する程度の中でわたしは向こうの名前なんて知らない。


「気持ちはありがたいですけど結構です、わたし友達は間に合ってますから」

鉄心くん、真昼ちゃん、美歌ちゃん、お姉ちゃんわたしには私の大切な友達がいる。


「お姉ちゃんがいってるのは間違いじゃないよ?ユウミちゃん優しそうだからきっと酷いことされて傷つくよ?」

他の人も声をかけてくれる、優しさからだろうが余計なお世話だ、恋は盲目というが彼の心情を考えれば私は何を言われても差し出す覚悟がある。それで彼を癒せるなら、そう傷ついてるのは彼の方だ。


「………もう傷ついてますよ」

「もう!これ以上となく1人の友達も救えないで傷ついてますよ……、彼は1人でいちゃいけない人なんです、あのときの風邪の時みたいに自分のことは後回しにする人だから……そんな優しい人だから私たちを守ってくれようとする……」


お姉ちゃんから聞いた彼は……、自分をなんだと思ってるのか……認めるような行動をしたらしい……鉄心くんはバカです本当に……生き方が不器用過ぎる。

いくら強い人でも無敵なわけじゃないのに……彼の行動を見て周りは何も感じなかったのか……そんな空気だったのか……なんだか洗脳に近いものも感じ身震いする。


その後も顔しか知らない人たちに声をかけられる。

「ユウミちゃん騙されてるよ」

「そうですか、ごめんなさいほかのクラスで騒いじゃって「でも私は一緒にいた彼を信じます」」

最後の言葉を強調して伝える、私は彼の味方だとその覚悟を姉にも伝える。

「お姉ちゃん……止めても会いに行くから……」


そう伝え廊下に出て、わたしは歩みを進める。

彼はもう家にいるだろうか……家の場所は分かると昇降口に向かう。もう遅刻もして怖いものもない、早退もしてやるという気持ちで歩みを進めていると、見知った顔の2人が目の前から歩いてくる。


「ユウミちゃん……」

「美歌ちゃんに真昼ちゃん……」

2人の顔を見て安堵していると……


「ユウミちゃんごめんなさい……」

美歌ちゃんは頭を下げ、鉄心くんのセクハラの事実、背後に御幸という少女がいることを聞く。


だがそれ以上に開き直って鉄心くんのために戦う告白して思いを伝えている彼女に頭がきて胸ぐらを掴む。こんなこと初めてだが、考えるより先に行動に出てた。


「謝って済むと思ってるんですか?」

俯きながら顔を上げて彼女の瞳を覗き込むように怒鳴りつける。

「鉄心くんにひどいことをしてそれで開き直って!自分だけ勝手に解決して!」

そして先ほど伝えわせれたと私の頭を悩ませるような事実を突きつけてくる。彼女の両親が勝手に動き鉄心くんは2週間の停学になったという状況に力が抜け彼女から手を離す。


「停学……ですが、でも会いに行かないと」

呟くようにいう、彼を1人にしてはいけない。


「ダメですよ?今は、2週間だけど待ちましょうその間にみんな説得しましょう!」

真昼ちゃんはそう私を止めに入る。


その話を詳しく聞くが私はその行動は酷く自分によっていて、父親の説得に成功したことが拍車をかけていると感じた。だからこそ伝える。


「逆効果ですよ?冷静になって下さいそれで彼が喜びますか?一度壊れた人間関係はそう簡単に治らないんですよ?それこそ今回は壊れてるてレベルじゃない」

そうもう、そんなクラスないだけで済むレベルではなく噂はまるで病気のように人から人へと伝染していく。それこそ形を変えて有る事無い事……

もう、誰にもこの先を予測は出来ない。鎮火するなら火がつく前にしないといけなかった……。

焼けた後が、その前に戻るなんてあり得ないのだから。

「でも時間をかければ……」

その通りだがどれくらいの時間がかかる?1年、3年ううんそれ以上かも知れない。だからこそ現実を伝える。


「美歌ちゃん達はクラスの中心だからその場だけ自分が納得できる優しい空間は作れるでしょう」

自己満足に伝えて自己満足に作り替えられる。それも時間がかかるし、甘いものじゃない。しかもそこに彼の居場所はあるのだろうか……だからこそ伝える。


「そんな偽りの安定の中に鉄心くんの居場所はあるんですか」

「それで掲示板も動画も消えて、噂も無くなりますか?」

彼女達は何も答えない、そうだろうそんなところに彼の居場所はない、そんな偽りの場所に……だからこそ私も想いを伝える。


「……私も鉄心くんが好きです、こんな私がおこがましいですがこの気持ちに嘘はないです」

「彼のためなら綺麗にだってなります……この前髪だってきって彼をちゃんと見ます、孤独な私なら彼の孤独を理解できる誹謗中傷だって耐えて見せる」

最初から失うものなんてない……、彼の孤独は、孤独に過ごしていたボッチの私にしか理解できない。


「言い方悪いですけどあなた達みたいに眩しい人には理解できないと思います」

「一つ忠告します、守られてる人が余計なことした方がひどいことになりますよ?もう私たちの問題どころじゃないんです……」

それとと、彼女の話に出てきた御幸という少女の話を聞くとこれからも何か確実に仕掛けてくるのは目に見えている。


「あなた達の甘く考えてるほど、相手の悪意は上ですよ」

何もしない方がいいと再度忠告を重ねていう、蜂の巣を刺激するのと、刺激しないで見ているのとでは近くにいてもリスクが違う……。


「じゃあ指でもしゃぶって見てろと?」

「何もしなきゃ何も始まらないです」

美歌ちゃんと真昼ちゃんがそう答える。


そのまま彼女の言葉を借りて答える。


「指でもしゃぶって何もしない方がましですよ」

「火に油いや、また新しい火を作るだけ……」

燃えているのにまた新しい火を作るなんて今の状況を考えてリスクが高すぎる。

「あなた達が動いたらさらに状況は悪くなる」

そう彼女達に伝えつつ、私が彼に会ったとしてその時のリスクのことも頭に浮かぶ……。

「私も少し冷静になります……私も動いたらきっと状況は……」

悪化するだろう、私たちが想っているように彼女も彼を苦しめて手に入れようと策略している。逆に利用される可能性の方が高い……。


「会うのはやめます、2週間後ですね」

2人に同意し、彼女の監視がない学校で今はあったほうが良いと考える。


「2人だけじゃ心配です、私たちでグループ作りましょう、まずは相手のことを教えて下さい」

この2人だけじゃお互いの暴走が重なって……大変なことになる気がする。


とりあえず場所を移そうとベンチに座り話を聞く。

「学校の場所くらいですか……」

そう彼女は言い、分かるのは年齢、学校、また間の垣間見れた思考、そして彼への病的な思いだけ。


とりあえずはこの後の生活をどうするかをまず先に彼女達に伝える。

「このまま、少しずつ関係を修復する形で……その想いは秘めたまま気丈に振る舞って下さい」

「うんっ」

「そうですね……」

2人とも同意する。早めに彼女の件は解決して置いた方が良い、悲劇のヒロインのような状況じゃ周りはいらない誤解をするだけだからそれなら彼のように気丈に振る舞って……大したことがないと思わせることが先決だ。


とりあえず彼に早めに誤解を解かないと


「鉄心くんと停学中は連絡はとってみましょう……出てくれるかわからないですけど……」

相手は心理を読み取ることにも長けていて、人を傷つけるのも躊躇わない、利用できるものは利用する……はっきりいって狂っている。何がそうさせたのか……わからないけど……


付け入るすべはまだ幼いこと……きっと私たちが想像してる以上に……そこに甘さがあるはず…………。

 

結果的に御幸が自由に動ける状態にしてしまったのが誤算であり、

幼いからこそ彼への想いを我慢できず……今の会話も美歌のケータイから御幸には伝わっていることに最後まで誰も気づけなかった。




――――――――――――――――――――

作者余談欄

いつも読んでくださりありがとうございます!

よければハート等貰えると嬉しいですっ


ユウミちゃんのことは忘れていたわけじゃないです。そう忘れていたわけじゃ‥‥

そんなこんなで後3話の予定です。

最後まで描き切ります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る