第28話 黒百合の香り、輪の外にいて初めて気づくこと

とある日の鉄心の家

時雨さんはあれから10日経っても居座り続けていた。


「時雨さん?俺のケータイ知りません?引き出しに入れた気がしたんですけどいつのまにかなくて……」

記憶が正しければケータイを見たくない俺は引き出しに入れたと思ったのだが……、停学解除まであと4日であり、その前から先生や……友達……ではもうないかも知れないが連絡は来ていたのは事実のため返信はしようと数日前から探していたが見つからない。


「うん?電源入ってたら鳴らすか?」


「いえ電源切っていたので」

電源はきっていたので時雨さんが鳴らしてくれても見つからないだろう。


「あー俺もあるよ妖精さんが隠してあきたら返してくれるんだよ」

そう笑いながら時雨さんは答える。時雨さんが隠す理由もないためどこかに置いて忘れてしまったんだろう……大事にしているものほどわからない所に置いてしまうことは今までもあったからと探すのを一旦諦める。


「なぁー俺も聞いていいか鉄心?……なんか最近時折強烈な臭いがしねぇ?」


たしかに数日前より時折異臭がする気がする……

「たしかにちょっと刺激的な匂いが……動物的な……野良猫でも近くで死んでるんですかね……?ここ山の中ですし」

ハクビシンだってタヌキだっているくらいの山だ、猫や野生の動物が家の近くで死んでいてもおかしくないと俺は考えて答えてみる。


「あーなんというかな黒百合の匂いに近いんだよなあのやばい匂いにそっくり」


鼻をつまみながら時雨さんはそう答える。


「ロマンチストだと匂いも分かるんですね?黒百合て見たこともないし……どんな匂いなんですか?」

お金のない時雨さんは女性へのプレゼントは花をあげていると言っていたからロマンチストなんだなと聞いてみる。すると思い出すように険しい顔をし始める。


「……ちげえよ俺を狂ったように……想って死んだ女が……どこで手に入れたから黒百合の花束を持って来やがったんだよ……」

よく聞くと小さくて黒い見たことない可愛い花だと思ったが、動物的なとても嫌な臭いがしたと言う。

その後のことは話したくない様子なので聞がなかった。


「なんか嫌な予感がするからいたけど、俺もそろそろさ彼女から仲直りしようって連絡がさっき来て」

レインで連絡だけは取ってたからさと時雨さんは続けて言う。

「そうだったんですね?もしかしていてくれたのも……?」

嫌な予感がするからいてくれたのだろうか、そう尋ねるとニャっとした笑顔で何も答えない。時雨さんの性格を考えるとどちらとも取れないのがずるいと思うが、彼女さんとの仲直りもタイミングが大事だと思い引き留めない。これで彼はまたヒモ生活に戻るのだろう……ここでもヒモのような生活はしていたが……


「それじゃな鉄心!花はいいぞ好きなやつできたら100本の白いバラでも送ってやれっ」


そんなにどこで集めるのか、注文された花屋さんも、貰った相手も困る気がするが……女性に詳しい彼が言うなら女性はそう言うものに憧れがあるんだろう。時雨さんはやっぱりロマンチストだなと思いつつ手を振り彼を見送る。


そして、この10日間が嘘だったかのように静かになった自室に戻る。


そんな中おれは静寂の中、10日ほど時雨さんと話す中で気づいたことがある。


なんで今までの関係が継続出来ていたか、輪の中に入れていたか、輪の外にいて初めて気付いた‥‥‥

みんな優しかったからだ、周りにいる人達が。

でも人の本質は悪、いや利益か自分にメリットがあるかどうか、人によってはそれが自己満足、周りからの評価、安定しているか、陽キャかどうか細かく言えばキリがない。

考えすぎだろうと時雨さんは笑った、でもそんなことは頭でわかっていても、考えてしまう自分がいる。人として、時雨さんのようには生きれないことをこの10日で感じた部分もあった。

時雨さんの言うことは間違ってない、こんなこと考えてそれの思考が心地よくも感じる自分は、自己意識が高いんだろうか……周りはそんなに自分を見ていない、優しさとは利益のための嘘そんなのは分かってるけど…………。

けど……?


「………………」

自己意識が高い…………、どこかで、昔、誰かと話したような……。

そうだと思い出す確か……中学の時の教室で……


「人に話さなきゃ理解されない、壁を作り続けて、本心を話さない鉄心にとって、それは相手に求めすぎているんじゃないかい?」

中性的な顔のショートカットが似合う美少女が俺の座っている席の前にある、行儀が悪いが机の上に座りながら足をぶらぶらさせてそう答える。


「相手はねどのくらい自分を見せたかで、相手の奥底も見せてくれるんだよ?例えばね今の僕と鉄心とで証明してみようか?」

トウといい今度は見事に着地し、おれに迫り、顔と顔が近く触れ合う寸前になった時彼女は言った


「それじゃ僕からね……」


中学校の誰もいない放課後の教室親友との会話。あの時はそういっちゃんが施設に入ってすぐのこと、周りとの関係でどう、付き合ったらわからず落ち込んでいる時だった。

俺の変化に気づいた親友が相談に乗ってくれた。

彼女の口から出た言葉はとても重い話だったのは覚えている……だからこそ俺も心の内を見せようと、お互い人に話せないことを話し合いさらに中が深まったのを覚えている。


そんな親友とのやりとりを思い出し自分の中で中学と高校で何が違うかを1人考えていた。


親友の詩音、そういっちゃんがいないこと、今はいない3年間で培ってきた沢山の友達……新、翔太?

そうじゃない俺自身の話だ、あの時と今で何が変わったか‥‥‥

「そうか」

1人呟く…………。


誰にも相談していないんだ自分のことを、信じて欲しい気持ちがあるのに、結局壁を作って俺は誰にも本気で相談していなかったことに気づく……

あぁ自己意識とかの話しではないな詩音…………

今は亡き親友の名前を呟き俺の現状についての答えを導き出す。


「これは……これはそう‥‥‥自業自得だな」

誰のせいでもない……結局は身から出た錆だと言うことに今更ながら気づいたのだった。


なんでも考え自分の所為だと考えること自体、鉄心自身の心を蝕み、自分を追い込んでいることに彼自身気づくことはなく、また指摘してくれる人は彼の周りにはいなかった。


――――――――――――――――――――

作者余談欄

いつも読んでくださりありがとうございます!

よければハート等貰えると嬉しいですっ



作者はポンコツで、メモを消してしまい大変焦っていますが残り数話で終わりの予定です。

優しい人は本当に心が病んでいつの間にかその人らしさを失っていることが多いですよね。

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