第25話 もう一つの月、ありのままの月

もう一つの月理論

1900年代後半バブルの時期に一つの理論が生まれた 

月の石が手に入りました……と言う連絡があり、この小石だけしか手に入らなかったなど巧みに言葉を使って売る詐欺が流行った。それは日本だけでなく世界各地で、その売られた小石を合計すると本物の月よりも大きかったと言う話し……。


今回一つ一つの噂は大したことがないが、合計すると本物を超える。いつのまにか噂が嘘か本当かなどと言う真実なんて打ち消してしまう。

人に言う前に考えれば分かるでも、それができる人がどれだけいるだろう、知ってる人もしかり、知らない誰かに対してもしかり。


後でわかっても大体その時には後の祭り状態……

月は一つしかないうさぎが餅をついているようにも、女性の横顔のようにも、誰かへの愛を厳かにも伝えた月は一つしかないのに、知ってるだけで次の表現はたくさんある、もともとどれが本物の月なのかは、月に意思があったら月にしか分からないのかも知れない。


2週間の停学処分を受けた翌日、気分は優れないここ最近のことを思い出すと胸の奥の奥が痛く感じる。でも勉強には遅れないようにと、ある程度予習して、そういっちゃんの本棚にあったもう一つの月の石理論を読みそんなことを考えていた。

ケータイは開くのも怖く、その存在を認知すらしたくないため、逃げるように机の引き出しの中に入れていた。そんな時だった

「ピンポンー」

「……………」

「ピンポンー」

誰だか分からないがインターホンがなる。親しい人なら縁側の窓の立て付けが悪く空いていることを知ってるはず……

「ピンポン、ピンポン、ピンポンー」

古い平家のため、映像など見れず玄関に恐る恐る足を運ぶ。

曇りガラスの前には1人の人影……男の人のようだった。普通ならいない時間のため居留守を使おうか考えていると……

「いるんだろう鉄心ー俺だよ俺時雨だよー」

「いるのはわかってるぞー光秀が一応と連絡してくれたからなー入れてくれートイレ行きたいんだよ頼まいー!」

「カチャ、ガラガラ」

「おー久しぶり長野以来だな鉄心!それよりもトイレどこー漏れちゃう、」

「そこ真っ直ぐ行ったところです」

「ありがとうっ」

どこぞのホストの私服のようなものを着ている時雨さんはトイレに走っていった。


ドアの戸締りをし部屋へ戻る。


「ふぁー部屋教えてくれよな少しだけ迷ったぞー」

なんやかんやで時雨さんが家に来るのは初めてだそういっちゃんが元気な時も、集まりとかは店の時しかこなかった、理由は持参するものがないし、店では毎回奢ってくれるからと言うクズのような、ある一種の哲学のようなものを持っているらしい。

「時雨さんどうして今日は?」

「あー?青春してるかと思ったら停学になってるからさまぁそれも青春か……」

「…………」

「別に説教とかしにきたわけじゃないぞ!俺は怒られる側の人間だからなヒモだし今も彼女の家追い出されて人妻の由美さん家で修羅をくぐり抜けて来たところだよ」

「…………」

自分よりも修羅場を乗り越えてきたのに何事もないように語る時雨さん……本当はここに逃げてきただけなのかも知れない。

「え?何か言ってくれよ鉄心っ」

「えーとそれじゃ隠れ蓑としてきたんですか?」

「そうとも言うし、人によっては遊びに来たとも言う」

間違いなく逃げて来て隠れ蓑にする気なのだろう。

「大の大人が……」

「大人ってのはな、鉄心は変なところで達観している節があるから言うけどとても冷たいんだ」

その冷たさは先日この身でよく感じた。

「だから俺はあったかい女性がいるところか、まだ大人になってない学生の所にくるしかなかった……」

ようは逃げる場所がなくなって、学生の俺しか頼れないと……どうやって生きてきたんだろうこの人


「まぁ、鉄心も大人になればわかるよ年齢にその精神がついてくれば楽になるよ俺みたいにね」

「だからクヨクヨすんなよ?停学くらいでよ」

不思議と言ってることは間違っていない、生き方は褒められるものじゃないが今までヒモとして生きてきた経験なのか他の大人よりも言葉が入ってくる

「で?」

途端に話を変え、何かを聞こうとしている、セクハラのことだろうか…誰かに話した方が楽になるそう思い伝える。

「…………、俺いつのまにか告白されて、断って体の関係迫ったていう嘘が出回ってそれで停学になったんです。それだけじゃなくてネットの方じゃ……」

「ストップストップ!そんな重い話し聞いたわけじゃないのよ停学になった理由は知らんかったけど別に話さなくていいよ相談乗れなさそうだしっ」

「え?それじゃ……」

何を聞きたいのか、尚更分からなくなり聞き返す

「ズバリ!……いい女いる?」

「…………は?」

いい女?もしかして学生も守備範囲?そんなことを考えていると、先程の発言に対し否定の言葉が聞かれる。

「あー俺が狙うとかじゃないぞ?流石にそれは捕まるし……」

「えーと」

「鉄心の周りの女の子の話し聞かせてよっ嫌なこと忘れるなら女だろう?」

続けるように

「いいか青春にはな女性が必要なんだよっさらに女で痛い目を見たら女に癒してもらうのが男ってもんなのよ」

それは時雨さんの青春なのでは?と思うが口には出さない。

「それでさっきの修羅になるなら嫌です」

「あー違う違うあれは向こうもリスクを承知で付き合ってるんだから、俺も一応ね……。人間ていうのはギャンブルとかもそうだけど一度覚えた快感ていうのは忘れられなくて中毒になるんだよ」

「怖いんで嫌ですねそれ……」

確かに言っていることは分かる、一度覚えた大きな快感は忘れられることなく記憶と感情に残るのだろう。

「はぁーこれだから童貞は……いいか?今鉄心も辛そうにしてるけど大人になるともっとだぞ……?1人で抱え込む奴はタバコとかお酒に逃げる、最終的には全員とは言わなくても男は耐えきれず女にも手を出すわかるか?」 

「なんとなく……」

「あーようはリスクを恐れてたら何もできないし問題は解決出来なくて抱えて潰れる、優しい奴ほど早く死ぬて言うだろう?あれはストレスで早死にするのもあるけど生きていたとしても心が死んじまうだ抱え込み過ぎてな」

「…………」

「俺はそういう奴らを沢山見てきた、大抵不器用な奴が多くてな…鉄心はそいつらと同じ顔してる」

「…………」

きっと会った時も今もひどい顔をしていたんだろう……

「まぁ、つまんなぇ大人になるなよって話し」

「あとな優しいのは美徳とも捉えられるが、ようは使い方だよ俺は女には優しいからな」

そう言いつつ遠い目をする時雨さん。するとこっちを振り向き笑顔で聞いてくる。

「それで話は戻るがどう?彼女にしたい子できた?」

「優しいんですね時雨さん……」

「うん?まぁ今日からしばらく泊めてもらうし女の子の相談くらい」

「あーそうやって懐に入るんですね……」

優しさとは使い方……優しさは利益のための嘘……だけど嘘は時には人間関係を潤滑油のようにもする必要なもの……。しかも時雨さんの嘘は彼の人間性も関係してから気楽であり心地が良い……。

「難しく考えてたのかも知れないですありがとうございます」

「あー人間の脳は答えが出ないこと考えると疲弊するて言うからなあまりこん詰めるのは良くない、うん良くない」

今修羅場のことを思い出し、考えるのをやめたのだろう……意外と学ぶことも多い……年齢の分だけ経験と知識があるというが時雨さんからはそれをすごく感じる。年上には敬意を払えと口うるさく言われてきたがその理由も今は分かる。そして彼をヒモにする女性の気持ちも……嫌だが少しわかってしまった。


「えーそんな奴友達じゃねぇよ」

「そうわかってるな鉄心!可愛いっていうのはな見ていて幸せてことなんだよっ本当に癒されるよな」

「あー女はやっぱりこええな、俺もさ……あんたを殺して私も死ぬて言う夢を見てな……それが正夢で……」

それからも時雨さんはその気はなくても、俺にとっては相談に乗ってくれた、代わりに泊まる家と食事お風呂を提供し久しぶりに男2人暮らしに戻った。


いつのまにか笑顔も出てきて少し心が軽くなった気がした。


――――――――――――――――――――

作者余談欄

いつも読んでくださりありがとうございます!

よければハート等貰えると嬉しいですっ


作者は主人公が嫌いなわけじゃなく、自分で書いてて心苦しいのと、今の現状を説明するべく少し停学中の様子を書いてみました。

あと‥‥‥時雨さんはこの話し以降そんなに出番はないです。

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