第24話 無い物ねだり、一滴の雫を拭くものはいない

俺は光秀先生につれられながら校長室と書かれた扉の前に着く。


「お待たせしました」

光秀先生がドアを開けるとそこには校長先生、それに向き合うようにスーツ姿の40歳程の男女2人がいる。時間さんの面影があり、恐らく両親なのだろう。なんでこんなことになったんだ……あの時話してれば……いやもう過ぎたことだと思い直す。

「君が鉄心くんか」

校長先生が俺に聞く、面と向かって会ったのは初めてだが、校長先生の少し強い口調が場の緊張感を高める。

「はい……」

「そうですか……彼が」

時間さんの父親だろう、眉間に少し皺を寄せながらこっちを見ているが、口調はとても礼儀正しく感じた。

「事実確認は今いたします、先程話した通り公明高校学生懲戒処分規程に乗っ取って対応させて頂きます」

と校長先生が呟く

「光秀先生それは……」

「校長先生、腰をかけた後に彼にも説明してもよろしいですか?」

「生徒手帳にも書いてあるが……とりあえずかけなさい」

美歌さんの両親と対面するように座り、失礼しますと隣に座った光秀先生が説明してくれる。

光秀先生の話によると高校生でも、近年セクハラや女性保護の意味を込めて、公明高校には学生を懲戒処分にする手続きなどを定めた「公明高校、学生懲戒処分規程」という規則があり、その中でセクハラも退学および停学といった懲戒処分の対象になりうる行為に挙げられている。

相談があった場合には相談者の意向に添って、加害者に対する事実認定や注意勧告などの対応をしていると言う。

「退学ですか……」

何もしていないが、それを証明できない、あの日確かに彼女と待ち合わせをしていたことは事実だがクラスの話だけだとどう言う状況か簡単にしか把握できていない。

「まだ決まったわけじゃないとりあえず話を聞くので答えなさい」

「はい……」

「それでは時間さん、お話をお願いします」

それから話を時間さんのお父さんから聞いた。相談内容は……先週娘から「「ごめんね突然今日鉄心くんに告白してこっ酷く振られて……もう立ち直れないの相談に乗ってくれない」」とレインが届き、すぐに「違います事実じゃないです」と送られてきた、友達に送る内容を間違えたのだろうと思ったが内容も内容で娘の学生生活について相談と、加害者の生徒に話をしたいと言う理由で本人に内緒できたらしい。

ようは事実確認と釘を刺しにきたと言うところだろうか……。しかも帰ってきた娘の顔は今まで見たことがないくらいひどい顔をしており、食事もすぐ済ませ、部屋からはごめんなさい、ごめんなさいと昼夜関係なく聞かれており、あんな姿を見たことがなく心配で仕方ないと母親の方が涙ながらに語っていた。

「それでどうなんだ?時間さんと会っていたのは間違いないんだな」

「はい、会っていたのは間違いないです」

「では事実なのかな?」

「そんなことはしていません」

「正直に言って欲しいんだ私は正直若い人通しのことだからと思ったが娘が心配で仕方ないんだ」

「していないです」

その大人の圧力から段々と萎縮してくる。

「それで彼の親はいつくるんだ?」

「彼の親は今施設にいまして未成年後見人制度を使っていますので担当の人に連絡しました……」

それからも質問に俺はしてないと言い続け、周りは信用している様子はなく、そういっちゃんがいないことが本当に悔やまれた……。

結果は……

「彼は2週間の停学処分」

とすると決まった。否定していたが、圧力に負け、処分は受け入れてしまったそれが時間さんのためになるならと……心が本当に弱っているのを感じた。暴力などは3週間と決まっているらしく妥当かどうかは分からない……セクハラは新しくできた規則らしく被害者の感じ方からも内容は変わるらしく曖昧な部分もあるのだろう、もう繰り返さないようにと2週間となっているのだろうと思った。

それから頬の傷のことなど聞かれたが全く頭の中に会話が入ってこなかった、手は出していないがこれ以上冤罪で伸びるのはごめんだからだ。詳しく聞くと4回目は退学とのことだった……。

「身の振り方は考えろよ鉄心…退学したくないだろう」

光秀先生が帰り際俺に声をかける。

胃がキリキリと痛く、涙は不思議と出ないが心の中で何かが壊れ溢れているのを感じた……。


それからどうやって帰ったか覚えていないが家についた。


自分の部屋に入り初恋の子と、親友の写真、そういっちゃんの写真を机の上に並べて1人静かに泣いた。途中で着信でケータイが鳴っていたが出る気にはなれなかった、誰からのレインか見るために開いた時唯一入っているグループ……クラスレインが目に入り恐る恐る開くと俺と真昼、美歌、翔太以外全員退会しており、匿名掲示板と、動画のURLが貼られていたのが最後のコメントだった……これ以上何も見たくないとその日は電源を落とした。

その日は机の上で疲れるまで泣き続けいつのまにか眠っていた。

「葵、詩音、そういっちゃん、お母さん……会いたいよ……」

寝言で彼はそう呟き頬から一滴の雫が溢れた。


――――――――――――――――――――

作者余談欄

いつも読んでくださりありがとうございます!

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ゆとり世代が終わり、イジメは見えない形で増えてくる気がします。昔はもっと近所付き合いとか学校でも先生が家に来てくれたことも多かったのに今は全てネットになっていて時代の流れを感じます。

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