第3話 大切な人たちの思いで

それから高校入学を待つ現在に至る。

今は大きな平家の家で1人暮らしをしている。


今思い返すと母親が亡くなったことを知り泣き喚いたり、その後もたくさん悲しいことがあったが自暴自棄にならなかったのは全て宗一さんのおかげだ。本当に無力だった俺をここまで育ててくれた。


「そういっちゃん本当にありがとうな」

誰に告げるわけでもなく、宗一さんの写真を眺める。そういっちゃんは宗一さんがユーモアは大事だとあだ名で呼べといいそれからかれこれ数年ですっかり定着してる。

すぐその隣には葵ちゃんと2人で仲良くピースして写っている写真、それを見ると未だに涙が出そうになる。


「葵ちゃん俺見つけるからね」

1人で呟く彼女との短かかった初恋の記憶を思い出しながら。


先の話に戻るが宗一さんは別に死んだわけじゃなく歳もあり物忘れがひどくなったと、自分で気づき病院に行き認知症の診断を受けてまだ動ける時に自分で介護調査など全てやりお金を払って施設に入った。

それが1年前それから認知症は進み、今では俺の名前も覚えていない。

80を過ぎて引き取ってくれここまで育ててくれ、緊急時などは延命は希望せず、お金に関しても葬式代は残せと、お金と、葬式先の電話番号、手続きの仕方、呼ぶ親戚の電話番号もろもろPCにデータとして入れてくれている。


「パソコンも脳の延長だ、皮膚の延長で服ができたように進化するジジイなんだよははは」 

今でも豪快な笑いが耳に残っている。本当に尊敬できる父親のような人だった。

  

認知症とわかった時も俺を心配させないようにと


「認知症はな神様が作った病気なんだよ鉄心。今まで苦労してきたから最後は忘れて苦しまず死ねるようにな、威厳を保てるかまではわからんだがそんなもの母親の腹の中に最初から忘れてきたわい!」


葵ちゃんは生きてれば同い年の15歳だか、彼女の年齢は10歳で止まったままだ。


「必ず見つけるからね葵ちゃんのような人を」

あの時のことは未だに鮮明に覚えている。


彼女は今から4年前、下校途中俺を庇って車に轢かれて死んだ。居眠り運転だった。


赤いランドセルよりも赤くなった彼女。そんな彼女が最後に……痛いだろうにわめきたいだろうに……その言葉を振り絞って俺に伝えてくれた。


「ねえ鉄心くん、好きだよ…だ、だからそんな顔しないで、約束しよ、うん約束かくれんぼだよ?いつか私以上に素敵な人を見つけてね」


約束をした後ことぎれたかのように大きく青い瞳は生気を失い瞼は閉じ、全く痛みを感じさせないかのように‥‥その死に顔は穏やかで口元は少し笑っていた。 


今になっても常々思う、どれだけの配慮ができればあんな顔で死ねるのか。女は度胸、そういっちゃんの言葉が頭をよぎる。


俺に漢字の覚え方を教えてくれた時。


「長い三の友と書いて髪て覚えると記憶のタンスが増えて覚えやすいんじゃぞ、後なこれは人生でも大切なことだから漢字と一緒に覚えておけ」


「女に土台の台と書いて始まり、女はな人生の土台のようなもの男が大黒柱とは言うが台安定してなければすぐに倒れる」


そのまま続けるような小さい俺に対し優しくも厳しい口調で


「女性を軽視するなよ、そして選ぶなら自分の人生の土台として度胸のある女を嫁にもらえ、女には尻に敷かれるくらいが良いし、尻で敷かれるのは気持ちええのじゃ」

大黒柱踏まれてんじゃんとその時はツッコミを入れてお互い笑い合ったのを覚えている。


本当葵ちゃんと結ばれたかった美化されている面もあるかも知れないが彼女には自分があり、大人顔負けの度胸と、そして小学生ながら自分がいなくなった時のことを考えられる配慮があった


中学の時にも少し触れるが彼女は出来なかったが1人だけ親友がいた。

いたと定義するのは彼女もこの世にはもういないからだ。

中学3年の2月14日彼女は自殺した‥‥。

今から1ヶ月と少し前のこと


原因はいじめで理解者と呼び合っていた俺たちだが彼女の変化に飛び降りるまで気づいてあげられなかった。


「理解者くん」


中性的なショートカットがよく似合うやつだった。はっきり言って美少女と呼んでも差し支えのない容姿。

変な口調だが、誰にでも気さくに話し、

女子には「媚び売り女」などと言われても動じず口論するような男勝りな奴だった。

俺にはそこにいるだけで暖かくなるような、まるで太陽に照らされているような錯覚になる不思議な親友だった。


恋心がないと言えば嘘になるが、1番しっくりくる言葉が親友だった。


そんな彼女が3年生の時、死ぬ直前さえ出会った頃と変わらない笑顔で‥‥

目の前で飛び降りて死ぬなんて考えられなかった。


「私ね色鬼は嫌いなんだー」

「なんの話しだ?詩音?危ないからこっちに来いよ」 

「誰かの指示で誰かの色になんて染まりたくないじゃん。だからハブられて虐められちゃうんだ。誰も悪くないんだよ‥でも私は耐えられない私を染めようとしたやつらには痛い目見てもらうことになるけどね。」

 

「私ねあなたのこと好きだったよ」

親友としてか、異性としてかその真意はもう永遠にはわからない。


「それじゃね私の最後の理解者くん。」

目に涙を溜めているのがわかる。はじめて見る彼女の涙を見て俺は駆け出す。


「‥‥‥」

「やっぱり未練は消しきれないんだね」

「いいから一緒に生きてくれ詩音!!」

体を乗り出し、傘立てに足をかけながら彼女の手を握らながら叫ぶ。このままじゃあ2人とも落ちてしまう。でも彼女の手を離すわけにはいかない。

「イッ何するんだ」

詩音は何を思ったか俺の手を思いっきり噛んでくる。力が入らずそこから血が出て滑るように彼女の手は離れ重力にさかわらず落ちていく。


俺は無心で、右手を抱えながら彼女が落ちた先へと階段を降りながら思考を巡らせる。


彼女の言葉で誰が鬼かわかった、詩音でもなくて、ここまで追い詰めたあいつらでもない。この空気こそ、人をおかしくする鬼なんだと。


生きている限りずっと色鬼をし続けなきゃならない‥‥。


それに詩音は自分を貫いて生きている中で気づいた、後で聞いた話だがその時にはいじめもヒートアップし、俺に好意を持っている女子が詩音がバレンタインチョコを作っていることを知り、最後のやがらせに裸の写真を2人で撮っていた。

いつも強いと思っていた、何を考えているかわからない彼女も人間で、人間としての弱さが出てしまった。

絶対に自殺するような性格ではなく不思議とクラスの中心にいるような人だった


そして自惚れでなければ…俺の気持ちと同じなら。


階段を降り彼女の下はたどり着いた先の光景。


白いシャツが赤い薔薇のように染まり周りに赤い池を作ってる‥‥

腕は曲がり、頭は潰れている笑顔が素敵な彼女には相応しくない最後だった。

その場に駆け寄り、羽織っていた上着をかけた。

それから色々あったが学校にはしばらくいかなかった。


その頃にあだ名は色々つけられたが「疫病神」といつのまにか崇められるようなあだ名が定着していた話は割愛する。


いじめの主犯は事件が新聞にも取り上げられニュースにもなり高校の進学の話もなくなったと聞いた。


それから学校にその2人は来ることはなかった。


もう戻らない過去のことを、俺の頭に彼女が顔を乗せ、おんぶの形になっている写真。

側からは恋人にしか見えないだろう。

そんな親友との写真を見て思い出しながら。


高校生活でも何かが始まりそうな予感がしていた。


「なんで大切な人はみんな先に行っちゃうのかなそういっちゃんもこんな気持ちだったのかな奥さんを見送った時」 


誰に向けたでもなく虚空に1人呟きながら今はいない人たちのことを想っていた。


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