第48話 伊400潜

伊400潜


伊400潜は本来水上機を搭載し出撃する、いわば水中空母的な役割の艦であった。

しかし今は格納庫には重機が搭載されている。アフリカ沖会戦で生き残った帯刀、ドイツ兵のカール・エルベス、エゴンミュラーの巨人兵器戦闘経験者を中心に熟練者六名で編成された部隊である。そしてこの部隊には新装備ヒヒイロカネを弾頭に仕込んだ矢を放つロングボウが配備された。20㎜機関砲ですら通用しない敵ではあったが、ヒヒイロカネの刀が効果的であったことを考えれば、極めて有効性の高い兵器である。そして、回収できれば再利用が可能である対費用効果の高い兵器である。

伊400潜の初期型の艦は浮上しクレーンを使って水上機を出していたが、この新造艦は機密性をさらに高めたため、水中にいるまま、重機を出撃させることが可能である。

格納庫に水を注入しそこから出撃する、いわゆるスイムアウト方式が採用されていた。

三隻の伊型潜から合計六両の重機が出撃、同時にチェリオットに乗った海軍陸戦隊も出撃した。その状況を明石は腕を組み考え事をしながら見守っていた。

そこに声をかける者があった。

オブザーバーとして乗艦したシュナイダーだった。

「明石大佐、本当にあなたが核兵器を使用するよう仕向けたのですか、私にはそう思えないのだが」

それは、ブッシュとの会話を見ていた誰もが聞きたいことであった。原爆を落としたアメリカであってもそれに報復するために原爆を使用し返すなど、日本人としてはありえない感覚であった。そして部下としては、明石がそれほど非道な人間ではないと思いたかった。

明石が、アメリカ軍が石切り場の賢人の基地に攻撃を仕掛けることをリークしたのは事実である。しかし、明石は石切り場の賢人によって核兵器が使用されるとまでは考えていなかった。双方が潰しあいをしている最中に、独自の部隊を投入、漁夫の利を得ようとは画策した。その点ブッシュ中佐の指摘はまとを得ていたと言って良い。

「思惑はどうあれ、結果はこうなりました。みたび人類が核兵器を使用したのは事実です。私の判断ミスであることに違いありません」

そういって頭の後ろ側を向いていた帽子のつばを元に戻した。その仕草で部下の誰もが、核の使用は、明石の予想外の出来事であることを悟った。

石切り場の賢人が核兵器を使用せざるを得ない状況に追い込まれたのは、彼らが強力な破壊兵器を使わずして、アメリカ艦隊のような大兵力には対抗する術を持たないことを意味していた。百目と同じく情報組織としての側面が強いのではないかと明石は推測した。

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