第47話 アメリカ艦隊

アメリカ艦隊


大日本帝国海軍を打ち破ったアメリカには大規模な艦隊を派遣するだけの余裕が生まれていた。新造のエセックス改級空母「スターズアンドストライプス」。アメリカの国旗の名をつけられた艦を中心に、重巡、駆逐艦をはじめ、上陸用舟艇など総数40隻にも及ぶ大艦隊がバミューダ海域に向けて進行していた。上陸戦用の新型兵器「パンジャンドラム改」「シャーマン改戦車」他新兵器を満載し、これの実験、新兵の訓練を兼ねたアメリカ軍にとっては今までに比べれば気楽な作戦のつもりであった。

そしてその頃、バミューダ海域のある小島を離陸した飛行機があった。相当な大型機である。機首には「サンダーボルト」の表示がある。アメリカ軍の爆撃機B29であった。

広島上空から東京へ向かう途中、こつ然と消えた機体である。

事故で墜落した、異次元へ呑み込まれた、様々な憶測が流れたが、その行く先は知れず、墜落の跡もついに見つからなかった。いずれにしろアメリカ軍にとってひた隠しに隠さなければ重大な出来事だった。

なぜならば。

愛称「グラマラスガール」。

「ファットマン」「リトルボーイ」の妹である。彼女はドイツで極秘裏に製造された。欺瞞の為に製造に失敗したと発表された。しかし、現実にサンダーボルトの機内に存在した。

その頃、伊400潜の艦内で、明石平八郎に絡むものがいた。アメリカ海軍情報将校ブッシュ中佐であった。

明石は問うてみた。

「君は、スターズアンドストライプスに座乗しているはずなのでは?」

「なぜ、私がここにいるかと聞きたいようですな。それはそうです。我が軍の空母機動部隊を主力に見せかけ、その実、少数精鋭の潜水艦部隊で強襲する。実を手に入れ、あわよくばアメリカ軍の戦力も削減する。策士のあなたが考えそうなことだ。そうは問屋が卸さないということです。

元々この艦は我が軍の予算で建造したものです。私の権限であなたをA級戦犯として裁判にかけることもできるのですよ」

生意気なアメリカ軍人を平八郎は縊り殺したくなった。

だが、それはお互い様である。アメリカは協定の履行を形の上では実行してはいたが、その実、リスクの高い部分はドイツ、日本に押し付け、その戦力を温存、地球人同士の戦争に振り向け、まずは地球での覇権を確立。その後にようやく火星人との戦争に戦力を割いたのである。ツングースカ協定とはいってもまともに順守している国家は一国としてない。戦力を裂いているのは大日本帝国とドイツだけで、それも寄せ集め集団のうえ火星の利権が手に入れば良し、仮に入らないにしても戦後交渉を有利に運べれば良い程度にしか考えていない。英米は補給任務だけ、ソ連に至っては参戦すらせず、分裂しているはずの中国人は国民党、共産党はともに「石切り場の賢者」に出資している気配すらある。どの国も未来の地球のことなど考えず目先の地球人同士の覇権争いの戦争に勝利することしか考えていない。それがこの一連の戦争の実態だった。

「この作戦は百目主導で我々潜水艦部隊による奇襲だったはずだが、なぜアメリカ艦隊が動いているのかね、ブッシュ君」

ブッシュはいやらしい笑みを満面に浮かべた。

「私は何もしていませんよ。ただ一人ごとを言っただけです。アメリカ軍の会議の場で、ね」

明石は苦痛を顔に浮かべざるを得なかった。そして、ブッシュを無視した。

伊400潜艦内では出撃準備を着々と整えていた。

人型重機Ⅲ型。ドイツ軍から供与された巨人兵器も残存機体は予備部品を組みたてた物を含め6両となった。もともと海軍仕様のため水密性は高い。だがそれをさらに強化し、水中起動用の特殊装備を準備していた。合わせて、英国開発の水中スクーター「チェリオット」の搭乗員も打ち合わせに入っている。

空母「スターズアンドストライプス」からは艦爆が発艦している。

航空機による地上施設の爆撃を行い、続いて重巡による艦砲射撃で徹底的に地上の戦力を制圧する。それから上陸部隊を展開する。その定石通りアメリカ軍は動こうとしていた。

艦爆が爆撃を終え、着艦したころ、それはやってきた。B29、愛称「サンダーボルト」。広島上空で行方不明になった機体である。

各艦の電探には当然その影が映っていた。確認の為に戦闘機が飛ぶ。しかし確認できるのは友軍のB29である。そこに米軍の油断が生じた。彼らはサンダーボルトが行方不明になったことを知らされていない。そして中に何が搭載されていたか、知る由もなかった。

偵察機が友軍と勘違いして引き返した時、サンダーボルトの爆弾装は静かに開かれた。

「そろそろ時間だな」

明石は腕時計を見てつぶやいた。

「何の時間です?我が軍の上陸予定はもう少し先ですが」

ブッシュの問いかけを明石は無視した。

その瞬間、水中を伝わる衝撃が艦内に届いた。振動のため、立っている者はよろけるほどだった。

「潜望鏡深度まで浮上!」

明石はキャップのつばを後ろに翻し、潜望鏡を覗いた。そして、ブッシュ中佐に覗くように促した。

彼はそこに地獄を見た。

立ち上がるキノコ状の灰黒色の雲、熱で焼かれる艦船、炎に包まれ落ちてくる護衛戦闘機、そして艦首を垂直に立て沈んでいくスターズアンドストライプス。悲鳴、苦痛にあえぐ声、焼け崩れる肉体、人肉の焼ける臭いまでもが届いてくるような光景だった。

ブッシュは自分が何を見ているのかわからなかった。潜望鏡から目を離し、明石に問いかけた。

「これは一体なんなのです?」

明石は憎しみと怒りのこもった眼でブッシュに答えた。

「アメリカが広島と長崎でやったことだ」

ブッシュは一瞬考え込んだが、明石に何をされたのかを悟った。

「はかった図ったなっ!明石!!!」

明石は一転笑顔を浮かべ

「私は何もしていない。ただ、石切り場の賢人の諜報員の前で独り言を言っただけだ」

と答えた。ブッシュは怒りで顔を真っ赤にし、明石につかみかかった。しかし、明石は逆にブッシュの首に両手をかけて力いっぱい彼の首を握りつぶしていた。ぶつり、ごきりと同時に二種類の擬音をあげ、ブッシュの首はあらぬ方向を向いき、明石が手を離すと同時に床に崩れ落ちた。後に彼の死体は身元が分からないようにバラバラにされ、極めて雑に海へ廃棄、鱶の餌になった。

 アメリカ軍は一個艦体を失った。だが、問題は莫大な費用をかけた艦隊という資産を失ったことよりも、表向きの戦争が終結したにもかかわらず、数万の兵を一気に失ったことだった。仮にも民主国家であるアメリカにとってこの人員を失ったことを国民に説明することは難しかった。そして、予想されるソ連との対立の前に一気にこれだけの戦力を失ったこと、しかも自国で紛失した原爆で壊滅したことなど公表できるわけがなかった。

やむを得ず、時期を変えて船舶の遭難、航空機の墜落、行方不明という形をとり人員がいなくなったということを書類上でっちあげた。それが後のバミューダトライアングルの謎という都市伝説につながっていくのである。

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