第19話

「お前は自分の運の良さに感謝したほうがいい。偶然開発が間に合っていた【ポータル】を偶然見つけて、一か八かで試した転移が成功したんだからな」


 理屈はわからないが、【デーモン】は俺がこっち、、、へ来た経緯を知っているみたいだ。それで、俺の転移先の座標を調べて追ってきたというわけか。


 見れば、靄掛かった【デーモン】の腰の辺りに、【ポータル】が一つ吊り下げられている。


【ポータル】は使い捨てだから、あれは奴が地球に帰るためのものに違いない。


「昔から勘が鋭くてね。今回もそれに従っただけさ」


 言いながら後退とずさった俺だが、そこで何かにコツンとぶつかった。


「あぅ」


 ぶつかったことで小さく呻いた相手は、まさかのアニータ!


「なんで居るの⁉ 逃げてって言ったでしょ⁉」


「でも、自分でよく考えて判断するようにとも仰いました」


 と、申し訳なさそうなアニータは続ける。


「わたしは考えて、ヘイボン様の傍に居ようと決めたんです」


 もぉ、ロボットってやつは……。


 この危機的状況にも拘わらず、俺は微笑んでしまう。


 命令通りに動くだけがロボットじゃないんだな。ときにこうして、人間みたいなことをするんだ。


 しかも、そのおかげで閃いた。


「果たして、その勘の鋭さとやらはいつまで続くかな? そのロボットはお前の命令に逆らった。それは予想できていたか?」


 と、【デーモン】は尚も近づいてくる。


「強がっても無駄だ。大人しく軍門に下れ。勝敗は見えている」


【デーモン】の言っていることは気にせずアニータに耳打ちした俺は、鼻で笑ってみせた。


「なにを言ってるんだか。あんたらは人間をわかってないよ。戦いは死んだら負け。つまり生きてさえいれば勝ちだ! 生け捕りにしたからなに? 支配したからなに? そんなことで俺たちイタリア人――いや、人類は負けない!」


 すると、【デーモン】はその長い腕を折り曲げ、『やれやれ』といった感じで肩を竦める。


「これだから手こずらされるんだ。お前たちの往生際が悪いせいで、面倒な作業が増える」


【デーモン】にとって作業とは、戦闘に他ならない。


 人類よりも遥かに格上の存在だと自称する【デーモン】にとって、俺たちとの戦闘は命のやり取りではなく、単なる作業に過ぎないんだ。


 やれば終わる作業。やっつけで片づける作業。恐怖も懸念も不要なら、作戦も支援も不要。


 それだけ、【デーモン】と人間の戦闘力には差がある。今俺たちの前に現れた【デーモン】が記憶に支障が無いのも、もしかすると存在の優劣や、種としての優劣が関係しているのかもしれない。


 そしてそれを、俺は把握している。

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