第18話

「――絆は深まったか? 逃亡者、、、




 その声は唐突に。


 芽生えた花を摘み取るように。


 俺の背後から。


 冷たく突き刺すように聞こえてきた。


 男の低い声だ。


 俺はその主を知っている。その主が何者なのかも。


「アニータ」


「いまの声は?」


 アニータが俺の胸に埋めていた顔を上げる。


 世界を管理する【ブロック】が本当に神様なら、今だけは感謝しよう。


 この立ち位置は幸運だから。


 俺がこうして盾になっていれば、アニータは奴を見ないで済むから。


「――後ろを振り向いて走って」


「え?」


「いいから!」


 俺はアニータから腕を離し、すぐさま振り返る。


 冷たい声の主へと。


 俺が振り返った先に立っていたのは、人の形をした黒い靄、、、


 人間でいう顔の部分には、目と思しき紫色の不気味な光が二つ。


 俺たち人類の宿敵【デーモン】だ。その邪悪な外観からそう名付けられた。背丈は一八〇センチくらい。もやの中には、これまた人型で細身をした本体が隠れている。倒しでもしない限り、靄掛かった深部を肉眼で見ることはできず、恐ろしく強い以外のことはほとんどが不明の存在。


「お前たち人類は、なかなか手こずらせてくれるな」


「……他のみんなをどうした?」


 俺は問いながら、どうするか考える。


 みんな――イタリアのみんなをどうしたかって? 答えは知れてる。

こめかみを汗が流れた。


「全員、我々が生け捕りにした。お前たちが【デーモン】と呼ぶ、この我々がな」


 そう。【デーモン】は侵略を行って相手を制圧すると、生存者を生け捕って奴隷にするんだ。


【デーモン】が欲しいのは領土でも金でも名誉でもなく、他の種族を支配下に置く優越感。それを得るためなら戦争だって喜んでけしかけるような連中だ。

「我々は一つの種族に目をつけると、すべてを手に入れたがる質でな。お前たちの言葉に、収集癖、、、ってあるだろう? 似たようなものだ。一度集め出したら、すべて欲しくなる」


 人間よりも長さのある両腕を広げ、雨降る曇天の空を見上げて、【デーモン】は言う。


すべて、、、だ。この意味わかるよな? あとは、イタリア機甲師団最後の一人。お前だけだ」


 なんともオーバーな身振りで自己陶酔に浸った【デーモン】は、こっちへ向き直る。


 さて、どうしたものか。

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