第17話

 ショックバンカーという名のパンチを放ったアニータの右腕は、手首の関節、肘の関節がそれぞれ損傷していた。少女の細腕そっくりに滑らかな形状をしていたのが、見るも無残にひしゃげ、所々割けて、内部の骨格や配線が剥き出しになっている。


 あれだけの巨体を一撃で殴り飛ばしたのだ。腕に相当な衝撃と負担が掛かったに違いない。


「ごめん! こんなになるまで戦わせて……」


「いえ。ヘイボン様は無傷なのですから、何の問題もありません」


「問題あるよ! 君が傷ついてるんだもん!」


「痛みはありませんよ?」


「そうじゃない!」


 俺はアニータの両肩を掴んで抱き寄せる。


 ロボットってやつは、賢いくせに鈍感だ。


 ――ぽつり。


 俺の身体を覆うパワードスーツに、水滴が落ちる。


 雨、か。この惑星でも降るんだな……。まるで、泣いているみたいだ。


「――ヘイボン様?」


「――存在価値が無いだとか、痛くないとか、そんな悲しいこと言わないで」


 アニータの華奢な身体は、驚くほど冷たい。


「ヘイボン様。わたしはあなたを悲しませてしまっているのですか?」


 問われ、俺は彼女を抱きしめる腕に力を込める。


 雨が強まっていく。


「お願いだから、もっと自分を大事にしてよ」


 ロボットには思考回路があるんだ。だったら、心もあったっておかしくないよね?


「君の取柄はいっぱいあるよ。優しいし、真面目だし、勤勉だし、頼もしいし」


 この鼓動の音、君なら聴こえるよね?


 ――届いて!


 この温もり、優しい君ならわかるよね?


 ――届いてよ!


「俺は、そんな君が好きなんだよ」


「っ――」


 アニータは息を呑んだかのように、綺麗な目を見開いた。


「俺は、……俺は、君を大事にしたい。だから君も、自分を大事にしてほしい。約束して?」


「…………」


 アニータは、視線を俺の目から胸へと逸らし目を閉じた。


 立ち尽くすだけだった彼女の、その左腕が、俺の背中に回された。


 目を閉じたアニータは、まるで心地を感じるかのように、そっと俺の胸に顔を埋める。


「――お約束します、ヘイボン様。ごめんなさい」


「いいんだ。わかってくれれば」


 答えてくれたアニータの頭を、俺はそっと撫でた。

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