第16話

「ヴォオアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ‼」


 怪物の、親玉!


 今まで倒した怪物の優に三倍はありそうな図体から発せられる雄叫びは、空気と大地を震動させる。


「アニータ! 逃げて!」


 俺は瓦礫から抜け出そうとするが、ダメだ! うまくいかない!


 頼みのショックバンカーは射程が短く、ここからでは届かない!


 くそ! アニータ!


 俺の視界が潤む。


 アニータ――ッ!! 


 これから起こるであろう凄惨な光景を想像してしまい、思わず目を閉じる。


 ――だが。


「ヘイボン様をよくもぉおおおおおおおおおおおッッ‼」


 怪物の親玉に負けないレベルの、アニータの雄叫びが響き渡った。


「――え?」


 目を開けた俺が見たのは、ショートスカート姿になったアニータが、華麗な空中回転蹴り540°キックを親玉に放った瞬間だった。


 パ、パンツ見え――、


「ブオォオオオッ⁉」


 突如としてアニータの蹴りを顔面に喰らった親玉は呻き声を漏らす。


 アニータはさらに、


「――ショックバンカァアアアアアアアアアアアアアアッッ‼」


 あろうことか、俺の掛け声まで学んじゃってる!


 彼女が叫びつつ放ったのは、渾身の右ストレート!


「グギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ‼」


 怪物の親玉はアニータのグーパンを腹部に喰らって盛大に吹き飛び、廃墟と化した高層建造物の壁に激突して爆散。


 緑色の体液が雨のように降り注ぎ、戦闘は終わった。


「――ヘイボン様! 大丈夫ですか?」


「パ、パンツ……」


 放心状態だった俺は瓦礫の山からアニータに引っ張り出されて我に返る。


「あ、ありがとうアニータ。……君って、その、見た目によらず強いんだね」


「緊急時のプログラムに、ある程度の戦闘スキルも含まれているんです。ご奉仕するご主人様をお守りできないようでは、存在理由がありませんので」


 アニータはも当たり前のように言った。


「……ご奉仕するだけが、君の取柄じゃないよ」


 そう言いつつの俺はふと、アニータの右腕に目を遣る――違和感。


「――アニータ! その腕ッ!」


「はい?」


 俺が急に声を上げたので、アニータはきょとん顔。

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