第12話

 アニータが示したのは、真正面。街の大通りと思しき道。


「どんな音?」


「何か、息遣いのような音です。それも複数。近づいてきます」


 俺の聴覚センサー、たぶん感度落ちてるわこれ。【ポータル】をくぐったときに何か悪影響を受けたのかも。


 俺はパルスライフルを構え、アニータを後ろに回す。


 アニータが言うのだから、何か動くものが居るのは間違いない。近づいてくるのは宇宙人か? それとも――?




 俺がパルスライフルの照準器を覗き込んだ、次の瞬間。




「~~~~ッ‼」


 獣がたけり狂うかのような、身の毛立つ咆哮が響き渡り、瓦礫の山の頂に黒い影が躍り出た。


 ヘッドマウントディスプレイの望遠機能で正体を確認。


 全長二メートルほどある四つん這いの身体は四足獣のそれ。体毛の無い黒い肌はのっぺりとして光沢を帯びており、頭部は縦に長く、鋭利な形状をしている。瓦礫を踏みしめる筋肉質な四つの手足には鋭い爪があり、威嚇するかのように噛み締められた口からは赤黒い牙が覗く。


 目のようなものは見当たらず、不気味な口部だけが存在を主張している。


 ――ゾクリと、そのおぞましい姿に悪寒が走った。


 どう見ても友好的じゃない怪物の姿に、俺は軍事施設で呼んだ『怪物』という単語を重ねる。


 ――まさか!


「アニータ、伏せて!」


 俺が叫ぶのと、瓦礫の上に現れた怪物が跳躍するのは同時だった。


 ヘッドマウントディスプレイが的確に上空の怪物を捉え、赤いロックオンマークが点灯。重いパルスライフルを怪物へ向ける際、肘や背中に備わった電動アクチュエーターがロックオンに連動して筋力を補助。素早く発砲。


 火薬の炸裂と電子ノイズが合わさったような音と共に、二点バーストで放たれたエネルギー弾が怪物の胴部を直撃した。


 弾を受けた怪物は雄叫びを上げながら落下。仕留めた!


 俺はそれをパルスライフルのストック部で殴り飛ばし、アニータから遠ざける。


 まさに怪物と呼ぶべき姿。恐らく、この惑星の宇宙人たちと戦争状態にあった『怪物』はあの四足獣だ。


 さっきの宇宙人が命を落としたのも、元を辿ればこの怪物が原因……。


 仇は討った。

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