第10話

 助からなかった、か……。


「わたしはヘイボン様から学びました。立場が違っても、気遣いは大事」


 アニータは言って、宇宙人の腕をそっと降ろす。


「きっとこの方は、誰かに最期を看取ってほしかったのだと考えます」


「そう、だね……」


 彼女の隣に腰を下ろし、俺は十字を切った。


 アニータも倣う。


 やはり、この惑星で何か恐ろしいことが起きたのは間違いない。


 死者への祈りを捧げた俺は立ち上がり、何か情報を得られないかと部屋を捜索する。


 何か、文字を記載した媒体があれば、それを翻訳機能で解読して情報を得られる。


「アニータ、一緒に文字を探してくれる?」


 と振り向いたときにはすでに、アニータも動いていた。人の動きを見ただけで目的を察する能力もあるなんて!


「ヘイボン様、音がします」


 と、アニータが指差したのは壁にぎっしりと並ぶ、焼け焦げた機械。その内の一つから『バチッ』という電気的な音が発せられたので近づいてみると、どうやらまだ生きていることがわかった。


 その機械はモニターつきで、何やら文字が表示されている!


「アニータ、ナイス」


 俺は翻訳機能を使って文字の解読に掛かる。機械のモニター下部には、ノートPCのタッチパットのような操作板があり、奇跡的に動くこともわかった。


 俺は操作板を使って、表示された文章を見られるだけ見て、開ける情報ファイルは片っ端から開いていく。


 さすがにすべての文字は翻訳できず、途切れ途切れではあるが、いくつかの単語を拾うことができた。


 結果、俺たちが今居る建造物はどうやら、街を警護する軍事施設らしく、警戒態勢を敷いていたことがわかった。


 中でも目を引いたのは、別のファイルに記録されていた文章で、そこには『未知』『怪物』『驚異的』『戦争状態』『悪化』といった単語。


『怪物』『戦争状態』――恐らくは、同じだ。ここは俺たちの地球と同じ、戦争禍の惑星なんだ。


 逃げられたと思ったら、また戦争かよ。


「なんと書いてあるのですか?」


 隣で一緒に画面を覗き込んでいたアニータが言った。か、顔近い。


「――たぶん、この宇宙人たちは『怪物』と戦争状態にあったんだと思う。俺たち人類みたいに……」


『怪物』が何なのか確かめようと、画像データを探すものの、見つけられない。破損して開くことができないファイルも多く、もしかするとそこにあるのかもしれない。


 仕方なく、俺は見られる範囲の翻訳を続け、そして――。


「――っ⁉」


 それ、、を見つけて、息を呑んだ。翻訳された単語は、


『焼却』


 黒ずんだ建造物。損傷が激しく、息を引き取った宇宙人。


 見出した単語はまだある。


『目標』


『地上』


『街』


『すべて』


 それら不吉な単語を繋ぎ合わせて、俺は一つの結論に辿り着く。

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