第8話

「ヘイボン様」


 ここでアニータが俺の背をコツコツと叩いた。


「――音がします」


 振り向いた俺と目を合わせ、彼女は言う。


「何かが動く音です」


「うそ⁉」


 俺は耳を澄ますが、何も聞こえない。もっと奥の部屋からか?


「わたしはご奉仕用に開発されたロボットですので、ご主人様やそのお子様のどんなお声も聞き逃さないよう、聴覚センサーが高性能なものになっています」


「こういうとき、耳がいいのはすごく助かるよ」


 ここの探索が何事もなく終わったら、頭を撫でてやりたい。


「その音はどこから?」


「進行方向の向かって右側。二つ目の部屋です」


 俺は自分のヘルメットに内蔵された聴覚センサーの感度を最大まで上げてみる。


 そうしてライフルを構え、慎重に進む。一歩踏み出すたび、床に散乱する異物から大きな音が出そうでひやひやする。


「なにが起こっても、俺の側から離れないでね?」


 くだんの部屋の前に立った俺が小声で言うと、アニータも口を閉じて小さく頷いた。


 俺は意を決して大きく踏み込んだ。素早く室内をクリアリング。


 聴覚センサーが、部屋の左奥から呻くような低い声と、重量のあるものが動く衣擦れのような音を拾った。


 俺のライトが照らす先――タッチパネルのような機械の裏手から、それ、、は現れた。


 ずんぐりと丸みを帯びた身体に、二本の太い腕と太い足。頭を金属製のヘルメットのようなもので覆った、人型の宇宙人‼


「――ッ⁉」


 俺は声を上げそうになるのを必死に堪え、片手でアニータを後ろに庇った。

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