第6話

「いい? アニータ」


「はい?」


 差し出された手を取っていいのかどうか、決め兼ねている様子のアニータに、俺は言う。


「自分の立場を奢って気遣いの一つもできないような人に、ご奉仕なんてしちゃダメだからね?」


「ご奉仕しないとなると、わたしの存在価値がなくなってしまいます」


「……なくならないよ。君の存在価値を否定する権利なんて誰にもない」


「そう、……なのですか?」


 プログラムに無いようなことを言われてショートしないかな?


「そういうものだよ。だから、いい? 自分でよく考えてから判断すること。約束ね!」


 アニータは目をパチパチさせ、


「わかりました。わたしはよく考えます」


 と、微笑んで優しく俺の手を握った。


 ああ可愛い。


 東に見える街を目指した俺たちはその道中、少し南へ逸れた場所に、四角形をした二階建ての小さな学校を思わせる建造物を発見。一先ずそこを調べることにした。


建造物を見た感じ、文明レベルは俺たちと近いように思われる。


 ――でも。


「なんだろう? ここ」


 建造物を前に思わず漏らす。


 建造物全体が黒く焼け焦げ、窓枠と思しき部分にはガラス板が一切無かったのだ。まるで火事で全焼したあとみたいに。


 ここは別のブロック世界の星だ。建造物に窓が無いのがデフォルトなのかもしれないけど、焼け焦げているのは理解し難い。


 また妙な違和感。どう見ても普通じゃないよ。


「火事でしょうか?」


「火事も恐いけど、もっと恐い感じがするんだよね……」


 俺の勘が警鐘を鳴らす。俺は昔から勘が鋭くて、嘘を見抜いたり、話の裏で起こっているであろう出来事を想像して的中させたりといった芸当を人知れずやってきたから、今回の嫌な予感、、、、も当たりそうで恐い。


 咄嗟に【ポータル】を使ったときみたいに、『行ける!』とポジティブに予想した場合も当たったりするから、どうにかポジティブに捉えたいけど……。


人気ひとけもありませんね」


 くるりと、ターンするようにして周囲を見回すアニータ。


「それも気になってる。ここへ来て、まだこの惑星の生物を全然見てないからね」


 人気も無ければ風も、文明の活気を思わせる何らかの音や振動も無い。まるで嵐の前の静けさだ。

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