第5話

 それらを踏まえると、俺たちは元居た宇宙を大きく飛び越えて、全く別のブロック世界――その宇宙に漂う一つの惑星に来たことになる。


 だから科学者たちはテンション上がり気味に、『ブロック世界から別のブロック世界へ移動できる』と言っていたんだと思う。【デーモン】が追って来られないような、遥か彼方へ逃げられるから。


「ていうかアニータ、君の初期プログラムには、すぐ人間の生活に適用して仕事ができるように、一般常識はぜんぶプログラムされてるはずじゃないのか?」


「はい。そのはずなのですが、どういうわけか、記憶データの一部が欠損してしまったみたいです」


 メモリーに支障を来したのか、記憶の一部が消えたという。俺みたいに。


 これはひょっとすると、ブロック世界から別のブロック世界へと転移した際に、そういった障害が出るのかも。


「君も俺と同じ症状ってわけね。……けど大丈夫! 俺は思い出せたし、君もそのうち思い出せるよ。ていうか、わかる範囲なら教えるし」


「ありがとうございます」


 今度は両手を胸の前で握り合わせて、羨望の眼差し的な視線を寄越すアニータ。

リアクションがちょっとオーバーだけど、そこはプログラムされたロボット。素直に可愛い。


「とりあえず移動しよう。逃げて来たのはいいけど、ここがどんな世界なのか調べて、今後どうするか決めないとね」


 歩ける? と、俺は手を差し出す。


 驚いたように眉宇(びう)を広げるアニータ。


「――違う立場の者にも、ヘイボン様はお気遣い下さるんですね」


「え?」


「わたしはご奉仕する立場。この状況は想定外だったもので」


 そうか。メイドロボットのアニータにとっては、自分が何らかの施しや気遣いを受けることがイレギュラーなんだな……。

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