10話.[疲れてしまった]

「他の子のことを簡単に可愛いとか言ってしまうこの口を塞いでしまおうかしら」


 夏休み初日の朝から彼女は過激派少女だった。

 こちらを押し倒して少しだけえっちな顔をしている。


「まあまあ、朝からこんなことをするのはやめましょう」

「でも、お昼になったら綾子も来てしまうじゃない」

「そりゃ三人で課題をしようと約束していますからね」


 あの約束があるし、例えそういうことを言われていなくても忘れることはない。

 自分がされて嫌なことを他人にしたりはしないんだ。

 そういうことはちゃんと両親や姉から引き継がれているから特に問題もなかった。

 ……そういう最低限の常識があっても人が残ってくれるかどうかは分からないんだけど。


「だからそれまでに誰がご主人様かということを教えておかなければならないのよ」

「もう謝ったんだから許してよ……」


 私よりもよっぽど独占欲が強い子だった。

 こんなことをしていて後で悔やむことにならなければいいけどね。

 それだけ大胆に、そして積極的に動けるのであれば余計に私じゃなくてもよかったでしょうにと言いたくなる。

 きっと私だったら言うことを聞かせられるから、とか考えているんだろうなあ。


「単純に私が触れたいの、察しなさい」

「いっぱい触れていいから朝から不健全なことはやめよう」

「そうね、夜にゆっくりすればいいものね」


 夜に云々と言っているものの、一度も夜までいてくれたことがなかった。

 そこはやはり両親が厳しいから不可能なのかもしれない。

 この前だって抜け出していると言っていたぐらいだし、私の家のルールとは全然違うのかも。


「くっ、もう来たのね」

「そんなこと言わないでよ」

「……まあいいわ」


 扉を開けたら綾子が立っていた。

 タンクトップに短パンだから元気っ子って感じがする。

 でも、日焼け止めとかちゃんと塗っているんだろうなと考えるだけでふふってなった。


「舞菜、なんか滅茶苦茶睨まれてるんだけど」

「気にしなくていいよ、約束していたんだからさ」


 飲み物を出して早速課題を開始。

 このふたりは私よりも遥かに学力が高いから話したりとかは特になかった。

 私も私で、誰かと勉強をやるということをしてこなかったから特に聞いたりはせず。


「つまんねえ……」

「「え?」」


 だから急に綾子がそう言ったとき、彼女と一緒にアホみたいな反応をしてしまった。


「夏休み初日ぐらいぱーっと遊ぼうぜ!」

「え、あ、ちょー!」

「ほら美羽もっ!」

「ど、どこに行くのよ!」

「プールに決まってんだろ!」


 結果、慌てて持ってきたり、彼女の家に行くことになったりして施設に着く前から疲れてしまったという……。

 まあでも、


「やっぱり水はいいな!」

「ふふ、そこは否定しないわ」


 ふたりが楽しそうだったからいいかと片付けて、どうせ来たならと楽しもうと決めてふたりに近づいたのだった。

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78作品目 Rinora @rianora_

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