09話.[済んでよかった]
終業式。
これで顔を合わせても微妙な気分になるようなことはなくなる。
少なくとも九月までは自由に楽しく過ごせるんだからもっと明るくいればいいんだ。
でも、綾子も来てくれないからひとりの時間を想像して気分が下がっていた。
「舞菜」
「……なんでまた来たの」
「そんなのあなたに用があったからよ」
綾子と付き合い始めたとか、興味をなくしたとかどうせそういうことを言われるんだ。
自業自得だ、面倒くさい人間から逃れようとするのが人なんだから仕方がないことだ。
「残念だけど、あなたが考えているようにはならないわ」
「だから……綾子とか他の子に切り替えたってことでしょ?」
「全く話を聞いてくれないわね、それをいま否定したばかりじゃない」
触れられたら勝手にごめんという言葉が口から出ていた。
自分で楽しくなくなるようにしていたことが本当に馬鹿だったとしか言いようがない。
「こういうところも綾子の方がいいわね」
「酷いよ……」
「事実じゃない、あなたのせいで夏休みが楽しくなくなるところだったのよ?」
「いやいや、あそこであんなことを言わなければ私が極端な行動に出なくて済んだんだけど?」
「ふふ、それならお互い様ということで片付けておきましょうか」
私相手に美羽らしくを貫くのは少し遠慮してほしかった。
よくも悪くも正直に言うと決めているんだろうけど、相手によってダメージも変わってくるということを彼女は知った方がいい。
真顔で他の子の方がよかったとか言われたらそりゃあんな対応しかできないよ……。
綾子だって繊細な子だから傷つくよあれは。
いや、仮に私の方がいいとか聞いたらなんだとこらっ、とむかつくかもしれない。
「仲直りできたのか?」
「うん、美羽も私も悪かったということで終わらせたよ」
彼女はこちらと美羽の頭を撫でつつ「そうか、それならよかったな」と言ってくれた。
巻き込まれたというのに大人な対応をできる子だなと少し羨ましくなった。
私もいちいち感情的になったり、投げやりになったりしないようにしなければならない。
でも、やっぱり難しいんだよなあ……。
「ごめんね、私も美羽も面倒くさくて」
「はは。私だって面倒くさい人間だからな、自分のことを棚に上げて責めたりしないよ」
「綾子はそういうところが本当に可愛い!」
「余計なことを言うとまた喧嘩になるぞ」
「ならないよ、美羽だって思っていることなんだから」
いまだってにっこり笑っているんだから。
だけど本当に微妙なまま夏休みに突入、なんてことにはならずに済んでよかったな。
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