第14話 魔物騒動 その7


 僕とヨーコが出会って、一ヶ月が過ぎた。

 この間、彼女と様々なクエストをこなしていった。


 そして彼女は、冒険者ギルドから先の騒動の犯人という扱いを受けていたけど、再発する心配はないとして何かの罪に問われることもなく、騒動は終結した。


 その矢先―――。




 ◇◇◇◇◇




 僕とヨーコは今日も、クエストを受けに冒険者ギルドに来ていた。

 そこには、この一ヶ月姿を見なかった人物がいた。


 その人物に、僕は声をかける。


「あれ? お久し振りです、アインさん」

「ん? ……おお、誰かと思えばアルスのボウズじゃねぇか。おお、おひさ」


 そう言って彼は、所々包帯に巻かれた腕を上げながら返事をする。


 アインさん。

 彼は、この町に定住するベテラン冒険者だ。


 Aランクになれるほどの実力が有るにも関わらず、中央大陸にある冒険者ギルド本部まで行って手続きをするのが面倒だと言って、Bランクに留まっている。


 しかし、齢四十を越えてもなお、その実力が衰えることはなかった。


 僕はこの一ヶ月、姿を見なかった理由を彼に尋ねる。


「アインさん。最近見かけませんでしたけど、何かあったんですか?」

「ああ、仕事でヘマをしてな。今まで病院のベッドの上にいたんだよ」

「珍しいですね。アインさんがミスをするなんて」

「自分でも驚いてるさ。もうトシかねぇ」


 そう冗談混じりに答える彼は、僕の隣にいたヨーコに目を向ける。


「ところでボウズ。この嬢ちゃんは誰だ?」

「ああ……紹介が遅れました。彼女はヨーコ。とある事情で、一時的に僕とパーティーを組むことになりました」


 僕の紹介と同時に、ヨーコはアインさんに軽く会釈をする。

 彼もまた会釈を返す。


 僕はさっきの会話で疑問に思ったことを口にする。

 すると彼は丁寧に答えてくれた。


「それで……アインさん。さっきミスをしたって言っていましたけど……具体的には何があったんですか?」

「ああ……一ヶ月ぐらい前か。この辺りじゃ見かけない魔物を見つけてな。討伐しようとしたら、相手も強くてな。相手に傷を負わせることはできたが、こっちも攻撃をモロに食らっちまった。それで、その魔物の情報を簡素にギルドに報告して、そのまま病院送りって訳よ」

「それって……最近あった魔物騒動のことですよね? それなら解決しましたよ。ここにいるヨーコが犯人だったみたいです」

「いや、それはない」


 僕の言葉に、アインさんは即座に反論する。

 僕は訳がわからず、彼に尋ねる。


「……? どういうことですか?」

「嬢ちゃんは見たところ魔族だろう? 自分で言うのも何だが、オレはベテランだ。魔物と魔獣化した魔族を見間違えたりしねぇ。オレが今日ここに来たのも、その魔物の詳細をギルドに報告するためだ」




 ◇◇◇◇◇




 そして、アインさんによって彼が遭遇した魔物の詳細が明かされた。


 その魔物はケルベロスという、三つの頭に漆黒の体毛を持つ大型の四足獣の魔物で、確かにこの辺りにはいない魔物だった。


 第一発見者である彼は、『この辺りにはいない大型の四足獣の魔物が現れた』としか伝えてなかった。


 なのでたまたま同時期に来ていたヨーコを、他の人が魔獣化していた彼女こそがその魔物だと誤解してしまったらしい。


 そして改めてケルベロス捜索のクエストが発行され、僕はそれを受けた―――。




 ◇◇◇◇◇




「あたしは完全なとばっちりだったみたいね」


 ヨーコはそう毒づきながら、歩を進める。

 彼女のシッポも心なしか不満げに揺れている。


 僕達は今、アインさんに教えてもらった、ケルベロスが逃げたとある場所に向かって移動していた。


 僕はそんな彼女の様子に苦笑しながら、ご機嫌取りをする。


「そんなに怒らなくても……。ギルドからも謝罪があったでしょ?」

「そうだけど……」

「なんなら、パウリナに頼んでホットケーキでも作ってもらおうか? そうすれば幾分か心も落ち着くだろうし」


 そう言った途端に彼女のシッポが左右に激しく揺れ、僕に向かって答えた。


「あたしはもう怒ってない! でも、パウリナのお菓子は別! とっととこんなクエストを終わらせて、ホットケーキを作ってもらう!」


 そう言って彼女は駆け出していった。


 ……本当にパウリナのことが大好きなんだなぁ……。


 僕はそう思い、さっきとは別の意味で苦笑しながら、彼女の後を追った―――。




 ◇◇◇◇◇




 そして僕達は、アインさんに言われた場所にたどり着いた。

 僕は周囲を見渡し、あの頃から何も変わっていないことに奇妙な安堵感を抱く。


 僕と同じように周囲を見渡していたヨーコが、僕に尋ねてくる。


「あの人に言われてここまで来たけど……ここってなんなの?」


 彼女の言葉に、僕は神妙な面持ちで答える。


「ここは……廃村さ。僕の生まれ故郷ということ以外特筆することのない、ただの……廃村だ」


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