第13話 魔物騒動 その6
アルスとパーティーを組んでから、二週間が経過していた。
あたしの見張り役も兼ねているアルスについて、今日は考えていこうと思う。
アルスは茶髪に紫色の瞳をした少年で、聞いたところあたしと同い年の十六才らしい。
ちなみにパウリナとも同い年だ。
なのになんで身体のごく一部の成長に差が……。
……って、今はパウリナの話じゃなかった。
アルスは魔物使いの冒険者で、彼の師匠はかの有名な『魔王』らしい。
なので魔物使いのアレコレや冒険者のイロハについては、その師匠から学んだと言っていた。
アルスと出逢ってからまだ日は浅いけど、彼が腕の立つ冒険者だということは分かっていた。
戦闘能力はあの年では高い方ではあるけど、それよりも戦闘の運び方がとても巧かった。
仮契約した魔物に全て任せっきりにする時もあるけど、アルスは剣術と魔法を上手く織り交ぜてピンチとは程遠い戦闘運びを常にしていた。
そこでふと、疑問に思ったことがあった。
なんでアルスは、魔物使いなのに本契約を交わした魔物がいないのか?
そう尋ねると、アルスは「コレだ! って言う魔物や魔族に出逢ってないから」と答えた。
なんでも、彼の師匠から「ずっと一緒にいたいと思えるような魔物や魔族と本契約を交わしなさい」とのアドバイスを受けているらしい。
だからアルスは、今の今まで従魔を持ったことがないそうだ。
……というか、魔物使いって魔族も従魔に出来るんだ……ふ〜ん……ほ〜ん……。
◇◇◇◇◇
今日はアルスのお眼鏡に合ったクエストがなく、それならと食堂の手伝いをすることになった。
アルスは何回も手伝っているから慣れているけど、あたしはこれが初めてだった。
「わたしがサポートするから、そんなに緊張しないで、ね?」
「うん。ありがとう、パウリナ」
パウリナにそう言ってもらえたおかげか、緊張が幾分か和らいだ―――。
◇◇◇◇◇
「はあああぁぁぁ……」
お昼時のピーク時を乗り越えた後。
あたしはとてもとても深い溜め息を吐きながら、テーブルに突っ伏した。
つ……疲れた……。
こんなことを毎日繰り返してるなんて、パウリナを尊敬する。
「お疲れ様、ヨーコ。これでも飲んで」
向かいの席に座るアルスから、オレンジジュースが差し出された。
アルスは何回か手伝っているからか、あたしほど疲れた様子はなかった。
アルスに差し出されたオレンジジュースをごくごくと飲んでいると、厨房の方からトレイを持ったパウリナが出てきた。
「手伝ってくれてありがとうね、ヨーコちゃん。はいこれ、今日のお礼。わたしが作ったの」
そう言って出してきたのは、二枚重ねのホットケーキだった。
ハチミツもたっぷりとかけられている。
アルスにも、あたしと同じ物が出されていた。
ホットケーキはあたしの故郷にはなかった食べ物で、南大陸にやって来てから初めて口にした。
だけど選んだ店が悪かったのか、どの店のホットケーキも美味しいとは思えなかった。
「いただきます……」
手をつけないのもパウリナに悪いので、ナイフで一口大に切り分けてフォークを突き刺す。
そしてほんの一瞬だけ躊躇った後、口の中へと運ぶ。
すると――あまりの美味しさに、あたしは目を見開く。
……今までで食べたホットケーキの中で、ダントツで一番美味しい!
そう思うと、ナイフとフォークを動かす手が止まらなかった。
無限に食べられるほどに、パウリナのホットケーキは本当に美味しかった。
「どう? 美味しい?」
「うん! とっても!」
「良かった〜。ヨーコちゃんの口に合ったようでなによりだよ」
そう言うと、パウリナは微笑みを浮かべた。
「それにしても……すごい勢いで食べるね、ヨーコ」
するとやや呆れたような声音で、アルスがそんなことを言ってくる。
そんな彼に向かって、あたしはフォークの先端を向ける。
「甘い物が嫌いな女の子なんていないわよ!」
「そうそう!」
あたしの言葉に、パウリナも便乗する。
あたし達の迫力に気圧されたかのように、アルスは若干引いていた。
「そ、そうか……なら、僕の分も食べ……」
「食べるわ!」
アルスが言い切るよりも先に、あたしは即答していた。
そして一皿目のホットケーキを平らげた後、二皿目のホットケーキをパウリナと仲良く半分こにして食べた。
友達と一緒に食べているからか、一皿目よりも美味しく感じられた―――。
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