第12話 魔物騒動 その5


「ねえ、アルス。アルスはなんで長剣をメインにしてるの? おかしくない?」


 町へと戻っている最中、ヨーコがそんなことを聞いてきた。

 ヨーコの言うことももっともだった。


 魔物使いというジョブは、基本的に戦闘は契約した魔物に任せっきりなので、当の本人は護身程度の装備として短剣などの取り回しのし易い武器をメインにするのが普通だった。


 だけど僕の場合は、そもそもとして前提条件から違っていた。


「これは僕の師匠が言っていたことなんだけどさ……」


 そう前置きしてから、僕が魔物使いとしては異端とも言うべき長剣をメインに使っている理由を説明する。


「『魔物使いなんだから、本人も近接戦闘が出来るだけの能力がないといけない』って言って、僕に剣術を叩き込んだんだ」

「アルスの師匠って確か……」

「うん。巷では『魔王』って呼ばれてる人」

「……随分とかぶいてるのね」

「……? 傾く?」


 聞き慣れない単語を耳にしてヨーコに聞き返すと、彼女は視線をさまよわせる。


「え〜っと、何て説明したらいいんだろう……そう! 常識はずれな人なのね、アルスの師匠って」

「……それ、本人に言ったらすごく怒るからね? ……たぶん」


 むしろ師匠のことだから、笑って済ましてしまう可能性の方が高い。


 そもそも、師匠が怒ったところなんて一度も目にしたことはな……いや、あったわ。

 でもあれは凄んだだけだから、ノーカウントでもいいだろう。


 そんなことを思いながら、僕達は町へと戻って来た―――。




 ◇◇◇◇◇




 ヨーコと一時的にパーティーを組んでから、一週間が経過した。

 今日は……というより今日も、彼女と共にクエストへと出掛ける。


 今日のクエストの討伐対象は、町から少し北に行ったところにある草原に陣取ったランドリザードだった。


 ランドリザードは比較的温厚な魔物で、縄張りに勝手に足を踏み入れたり、繁殖期に無用心に近付いたりしなければ、そこまで危険な魔物じゃない。


 だけど今回は、ランドリザードが陣取った場所が場所だったのが問題だった。

 奴等は、僕達が暮らす町とその北方にある港町を繋ぐ街道に陣取っていた。


 そのせいで、その港町との物流が滞っていた。

 なので今回、件の魔物の討伐が冒険者ギルドに依頼された―――。




 ◇◇◇◇◇




 目的地までたどり着き、補助魔法の一種である望遠魔法で、遠目に討伐対象を確認する。

 数は五体ほどで、のんびりと日向ぼっこをしていた。


 それだけなら微笑ましい光景だけど、陣取った場所がいけなかった。


「さて、と……ヨーコ、準備はいい?」

「ええ、いいわよ」


 望遠魔法を切って隣にいるヨーコにそう尋ねると、彼女は頷いて返事をする。


「それじゃあヨーコはいつも通り僕のバックアップ……って言いたいところだけど、今回は僕もバックアップに回るよ」


 そう言った直後、ランドリザードの足下の地面が隆起し、そこから一体の魔物が這い出てきた。

 運悪くその魔物の真上にいたランドリザードは、その魔物の大きな口によって捕食されていた。


 その魔物はリザードイーターと呼ばれる、見た目はでっかいミミズだった。

 ただ、その口はとても大きく、捕食シーンはなかなかにグロテスクだった。


 リザードイーターはその名の通り、リザード系の魔物を捕食対象にしている魔物だ。

 基本的に地中に棲息し、捕食行動を取る時だけ地上に姿を現す。


 町を出発した直後に、リザードイーターが今回の討伐対象とは別のランドリザードを捕食しているところに出くわし、これ幸いと思い仮契約を交わした。


 そして今回の戦闘に限っては、リザードイーターに全て任せることにしていた。


 リザードイーターは一体目のランドリザードをムシャムシャと喰い散らかすと、次の獲物へと照準を定める。


 天敵が現れたランドリザード達は、我先にとその場から逃走しようとしていた。

 だけど、リザードイーターの方が素早さでは上回っていた。


 ぐるりと素早い動きでランドリザード達の行く手を阻むように回り込むと、先頭にいたランドリザード目掛けて大きく口を開いて迫って行った。


 蛇に睨まれた蛙のように身動きをしなくなったランドリザードは、そのままリザードイーターに捕食された。


「……これ、バックアップ必要?」

「……いらないかもね」


 リザードイーターの独壇場を目の当たりにしたヨーコがポツリとそう言い、僕も小さめな声でそう返す。


 そして、戦闘にすらなっていない戦闘を完全にリザードイーターに任せっきりにしていたおかげ(?)で、僕達は大した苦労もせずにランドリザードの討伐を終えた―――。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る