第11話 魔物騒動 その4


 翌日。

 僕は日課となっている朝の鍛練を終えると、家に戻り汗を流す。


 そしてリビングに向かうと、そこには朝食の準備をしているアルマさんがいた。


「おはようございます、アルマさん」

「おはよう、アルス君」


 僕とアルマさんは、お互いに朝の挨拶を交わす。

 そして僕は周りを見渡し、いつもはいる人物がいないのと、昨日から増えた住人が見当たらないので、アルマさんに問いかける。


「アルマさん。パウリナとヨーコはまだ起きてないんですか?」

「そうなのよ。それでアルス君。悪いけど、パウリナとヨーコちゃんを起こしてきてくれる? そろそろ朝ごはんが出来上がるから」

「わかりました」


 アルマさんに頼まれ、僕はリビングを出て二階に向かった―――。




 ◇◇◇◇◇




 二階に上がり、向かって右側が僕の部屋と書斎、左側がヨーコの部屋になるはずだった客室とパウリナの部屋がある。

 廊下の突き当たりには、デルさん夫妻の寝室がある。


 僕はパウリナの部屋の前で立ち止まり、軽くノックする。

 反応がないので部屋の中に入り、ベッドの傍まで歩み寄る。


 ヨーコとパウリナは同じベッドに潜り、手を繋ぎながら規則正しい寝息を立てていた。


 ヨーコは当初、個室を与えられていたけど、本人とパウリナが一緒の部屋でいいと言ったので、この状況も別段驚きはしない。


 その仲睦まじい様子に頬を緩めながらも、二人を起こすために体を揺する。


「二人共、朝だぞ。起きろ〜」

「んぅ……」

「すぅ……」

「いい加減に……起き、ろ! って…………っ!!??」


 揺すっても起きないので、僕は実力行使―布団を剥ぎ取った。

 そして二人の格好に、僕は目を見開いた。


 二人共、寝間着がはだけていて、下着や乙女の柔肌があらわになっていた。


 僕は顔が赤くなっているのを自覚しながら、見なかったことにしようとしてそっと布団を掛け直した。


 そして物音を一切立てずに部屋を後にしようとした時、後ろから服の裾を掴まれた。


 僕はゆっくり振り向くと、顔を真っ赤にしたヨーコとパウリナがいた。

 二人共片手で胸元を押さえながら、上目遣いで僕を見ている。


 するとパウリナが聞いてくる。


「…………見た?」

「………………見ました」


 しらばっくれようとしたけど、二人の雰囲気がそれを許さなかったので、正直に答えた。

 その途端、二人は顔を真っ赤に染め上げる。


「「……っ!!!」」

「ゴメン!!」


 僕の答えに二人は驚き、裾から手が離れた。

 その隙に僕は謝りつつ、脱兎のごとくパウリナの部屋から出た―――。




 ◇◇◇◇◇




「どういう寝相をしたらあんな風になるの?」

「「さぁ?」」


 僕はトーストをかじりながら、対面に並んで座っている二人に朝の出来事について質問する。

 すると二人は、声を揃えて答えた。


 ……本当に仲いいな、この二人。昨日出会ったばかりだよね?


 僕が頭の片隅でそんな事を考えていると、サラダを食べていたパウリナが頬を染めながら言った。


「……わたしだって起きるまで気付かなかったもん。それに、勝手に見たのはそっちでしょ」

「それは……ゴメン。でも、パウリナが寝坊なんて珍しいね? 何かあったの?」


 僕は下手な言い訳はせずに素直に謝り、質問を重ねる。

 すると、オムレツを食べていたヨーコが代わりに答えた。


「昨日は夜遅くまでお喋りしてたからかも。パウリナとのお喋りがすごく楽しかったから夜更かししちゃった。……ゴメンね、パウリナ」


 ヨーコはパウリナに向き合い、そう謝罪する。

 するとパウリナは、慌てたように手を振る。


「そんな事ないよ! わたしもヨーコちゃんとお喋りするの楽しかったもん!」

「パウリナ!」

「ヨーコちゃん!」


 二人は感極まったようにお互いに手を取り、見つめ合う。


 ……百合の花が咲き誇る幻覚を視た……気がした―――。




 ◇◇◇◇◇




 朝食を摂った後、僕とヨーコは冒険者ギルドに向かって行った。

 昨日話していた時にわかったことだけど、ヨーコは冒険者登録をしていないらしい。


 してなくても、魔物の素材買取をギルドはしてくれるし、パーティーも冒険者が一緒なら組める。

 だからヨーコは、冒険者登録する気はないと言っていた。


 それと、ヨーコとは一時的にパーティーを組むことにした。

 共に行動するには、そちらの方が都合がいいと思ったからだ。


 ギルドに着き、適当なクエストを受注する。

 お互いの連係を確認するためなので、それほど難易度は高くない。


 今回のクエストの内容は、ゴブリンの群れの討伐だ。

 ゴブリンは緑色の肌をした小型の魔物で、群れて行動するが攻撃力は低い。


 なので新人冒険者が好んで討伐したり、新しくパーティーを組んだ人達が、互いの連係を確認するための試金石にしたりしている。


 僕は、狼を一回り大きくした魔物のワイルドウルフと仮契約し、ゴブリンの群れがいる場所まで案内してもらった―――。




 ◇◇◇◇◇




「そこ!」


 僕はこちらに向かってきたゴブリンを、長剣を振り下ろして斬り伏せる。


 仮契約したワイルドウルフが円を描くように走り回り、僕が立っている場所に行くようにゴブリン達の行動を制限している。


 ヨーコは僕の後方に立ち、僕の脇をすり抜けた個体を魔法を使って迎撃している。


 そうして順調にゴブリン達の数を減らして行き、最後の一匹を倒す。

 用が済んだのでワイルドウルフとの仮契約を解除すると、ワイルドウルフは元の住み処へと戻って行った。


 剣を鞘に納めつつ、僕はヨーコに尋ねた。


「どうだった、僕との連係は?」

「まあ、悪くないんじゃない? いくつかクエストをこなせば、もっと上手く連係できると思う」

「そっか……それじゃあ、今日はもう帰ろうか」


 そう答える彼女と共に、僕は町へと戻って行った―――。


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