第15話 魔物騒動 その8
僕が言った言葉に、ヨーコは驚愕する。
そして彼女は、恐る恐る僕に尋ねる。
「……ここで、何があったの?」
僕は、かつてこの村を襲った惨劇を語り出す。
僕の話を聞いたヨーコは疑問に思ったのか、再度尋ねてくる。
「この村を滅ぼした竜に復讐しようとは思わなかったの?」
「欠片も思わなかったと言えば嘘になるけど、そんな事をしても無駄だと思ったから」
僕はそう答えた。これは偽りのない本心だった。
目に見えない相手を探すより、近くにいる人の助けになりたい。
それに相手が魔物だったのか魔族だったのか、結局分からずじまいだった。
だから僕は、他人を助けることが出来るだけの力を手に入れるために、自分を助けてくれた師匠に弟子入りを志願した。
そのことを告げ、僕は話題を変えた。
「さて、と……。僕の身の上話はこのぐらいにして、ケルベロスがいないか探そうか」
「……ええ、そうね」
暗い表情をしていたヨーコは、気持ちを切り替えたようにそう返事をした―――。
◇◇◇◇◇
改めて廃村の中を歩んでいき、ケルベロスがいないか捜索する。
僕は今、どの魔物とも仮契約をしていない。
これは、もしケルベロスと戦闘することになったら、戦力にならないと判断したから。
どういう訳か魔物には、上位の魔物に対して逆らえないような本能があるらしい。
この周辺にいる魔物は、いづれもケルベロスより下位の個体しかいない。
だから今、僕とヨーコしかこの場にいない。
そして村の中央まで来ると、ソレは体を横たえて鎮座していた。
ソレは僕達の匂いに気付いたのか、ゆっくりと身を起こす。
そして、僕達はソレと……ケルベロスと対峙する。
ケルベロスは情報通りの姿をしていたけど、左側の頭は両目が潰され、中央の頭も左目に剣で負ったとおぼしき傷があった。
……もしかしなくても、アインさんがつけた傷だろうなぁ。
僕がそんな事を考えていると、ケルベロスは血走った目でこちらを見つめ、そして飛びかかってきた―――!
◇◇◇◇◇
僕達は左右に分かれ、ケルベロスの突進を回避する。
「……っ! 《アース》!!」
僕はその隙に剣を抜き、土属性初級魔法を放って注意を引き付ける。
ヨーコに追撃しようとしていたケルベロスは、体の左側に魔法を喰らい、僕に標的を変える。
そして駆け寄ってきて、右前足を振り抜く。
僕は剣でガードしようとしたけど、ガードが間に合わずに身体に直接攻撃を喰らい、近くの廃屋まで吹き飛ばされてしまった。
「ぐっ……!?」
「アルス!?」
僕は呻きながら、ヨーコの叫び声を耳にする。
僕に駆け寄ろうとした彼女に、ケルベロスが立ち塞がる。
「《メガアイス》!」
ヨーコのシッポに一筋の紫色のラインが走り、氷属性中級魔法が放たれる。
ケルベロスはその場でジャンプし魔法を避けると、その勢いを利用して彼女に飛びかかる。
ヨーコはその攻撃をかわすも、着地点でケルベロスが前足を軸に回転し、後ろ足でヨーコを蹴り飛ばす。
「きゃあっ!!」
「ヨーコ!」
ヨーコはその攻撃を喰らい、地面を転がる。
その様子を見ていた僕は体を起こしてヨーコの元に駆け寄り、彼女の身体を抱き起こす。
彼女は咄嗟に防御魔法を使ったらしく、たいしたケガは負っていないようだった。
「大丈夫、ヨーコ!?」
「……っ。ええ、大丈夫よ」
僕がそう尋ねると、ヨーコは頭を振りながら答える。
そして立ち上がりつつ、改めてケルベロスと対峙する。
……強い。今まで出会った魔物の中で一番。
僕はそう感想づけるけど、不思議と恐怖心はなかった。
スパルタ過ぎる『魔王』に五年間対峙し続けたのに比べれば、今目の前にいるケルベロスの威圧感は、せいぜい大型犬に吠えられる程度にしか感じない。
負けはしないだろうけど、いづれはじり貧になって勝てなくなるかもしれない。
……こうなったら、短期決戦に持ち込んで、勝つしかない。
そして、勝つためには――あの魔法を使うしかない。
僕はそう考え、隣にいるヨーコに提案する。
「ヨーコ、少しの間だけでいい。アイツの注意を引き付けてもらってもいい?」
「いいけど……なにするの?」
「一撃でアイツを仕留める」
僕がそう答えると、ヨーコは面食らったような顔をした。
しかし、今が戦闘中なのを思い出して、ケルベロスに向かい合いながら頷く。
「……わかったわ。何をする気か知らないけど、長くは持たないわよ」
「ああ、十分だ」
僕が頷き返すと、ヨーコは紫色から灰色にいつの間にか変わっていたシッポのラインを赤色に変化させ、ケルベロスに向かっていく。
「《メガファイア》!」
彼女は火属性中級魔法で、ケルベロスの注意を引き付ける。
その彼女にケルベロスが反撃する。
僕はその様子を見つつヨーコを援護しながら、チャンスを伺う。
……チャンスは一度きり。失敗は許されない―――。
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