第9話 魔物騒動 その2
この世界には、様々な種族がいる。
まず最初は、人間族。
特徴がないのが特徴の種族で、僕やパウリナのような人が多い。
でもたまに、師匠のような一芸に秀でた人が出やすい種族でもある。
次に、亜人族。
耳が尖っているということを除けば、見た目は人間族とほぼ同じ種族だ。
亜人族には、エルフ族とドワーフ族の二種族がいる。
エルフ族は魔道具作製に長け、高身長の人が多い。
ドワーフ族は武具作製に長け、低身長の人が多い。
最後に―魔族。
この種族最大の特徴は、『魔獣化』と呼ばれる、魔物に似た姿に変身出来る特殊能力を有すること。
竜人族、吸血族、獣人族、妖族の四種族がいる。
竜人族は全種族中魔力が最も多く、強力なブレスを操る。
吸血族は相手の魔力を奪う能力がある。
魔獣化時の変化が最も小さい種族でもある。
獣人族は動物の特徴を兼ね備えた種族で、身体能力が高い。
妖族は竜人族の次に魔力が多く、そのほとんどが東大陸の端にある島国にのみ存在する種族だ。
だから僕は疑問を抱いた。
南大陸に、妖族がいるハズがないから―――。
◇◇◇◇◇
「世界を旅してるって言ったけど、本当?」
僕は両手を挙げたまま、ヨーコにいくつか質問をする。
「ええ、本当よ」
「でも妖族って、自分の国から出ないんじゃなかったっけ?」
「あたしにも理由があるのよ、色々と……」
彼女が苦虫を噛み潰したような顔で言うので、質問を変える。
「ええっと……最近町を騒がせてる魔物騒動の犯人って、君のこと?」
「そうなんじゃないの? この大陸に来てから魔獣化しっ放しだったから、魔物に間違えられても仕方ないし」
「そっか……」
彼女の言葉を聞き、僕は手を降ろした。
そしてこの騒動の原因を説明するために、彼女にギルドまで同行してもらうことになった―――。
◇◇◇◇◇
ギルドに戻り、ヨーコと一緒にナナリーさんに事情を説明した。
「……なるほど、わかりました。後で上にも報告しておきます」
「お願いします」
「それとアルスさん。しばらくそちらのヨーコさんと行動を共にしてくれませんか?」
「僕はいいですけど、何でまた?」
僕の疑問に、ナナリーさんは答える。
「魔物騒動の犯人がわかったとはいえ、また騒動を引き起こす可能性がないとも言い切れないので」
「あたしはそんなことしないわよ」
「ええ……ですから念のためです」
ヨーコが反論すると、ナナリーさんは彼女を宥めつつ続ける。
「それに、アルスさんが一緒に行動しているとなれば、問題はありませんから」
「何で?」
「後で説明す……」
「それはアルスさんが、このギルドで一番信頼度が高いからです!」
ヨーコの疑問に後で説明しようとしたら、ナナリーさんが割って入ってきた。
そんな彼女に、ヨーコは質問する。
「そうなの?」
「はい! なぜなら彼は……」
「ナナリーさん」
僕は口元に人差し指を当て、黙るようジェスチャーをする。
彼女が言いそうになった事はだいたい予想はつくけど、六年経った今でも人前で言われるのは未だに慣れない。
すると彼女は口をつぐみ、慌てて取り繕った。
「あは、あははは……。これは私が言うことじゃなかったですね。……話は変わりますけど、この件の報酬は後日支払われることになります。よろしいでしょうか?」
「わかりました。それじゃあ、僕達はこれで」
「はい、お疲れ様でした」
そして何か言いたそうなヨーコを連れて、僕達はギルドを後にした―――。
◇◇◇◇◇
「それで……ナナリーさん、だっけ? 彼女が言いそうになった事を説明してくれるのよね?」
町中を歩きながら、ヨーコが尋ねる。
その質問に、僕は苦笑いしながら答える。
「するよ。するけど……まずは落ち着ける所に行こう」
そう言って、ヨーコを連れてある店の中に入って行った。
その店は、僕が居候させてもらっているデルさん一家の食堂だった。
僕達の入店に気付いたのか、近くのテーブルにいた女性店員―この食堂の看板娘のパウリナが振り返った。
この六年でパウリナは綺麗になっており、この町一番の美人と称されることも度々あった。
「いらっしゃいま…………せ?」
語尾が疑問形なのは、僕の隣にヨーコがいるからだろう。
パウリナが僕に尋ねてくるので、僕は答える。
「ねえ、アルス。その人……誰?」
「彼女はヨーコ。訳あって、しばらく行動を共にすることになったんだ。詳しく事情を話したいから、パウリナも僕達と一緒に席に着いてくれないかな?」
そう言いながら僕は席に着くと、ヨーコとパウリナも同じように席に着いた―――。
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