第8話 魔物騒動 その1
僕が冒険者になってから、一年が経過した。
この一年で僕の冒険者ランクはCランクまで上がり、もうすぐBランクに昇格できるところまで来ていた。
この一年、いろんな同業者と出会った。
彼らとは臨時パーティーを組んだり、強い魔物が出現した際は情報を共有したり、討伐部隊として一緒に戦ったりした。
魔物使いとしては、一人前になったとギルドから評価されている。
けれど、未だに本契約した従魔がいないのは大問題だろうと、個人的には思っている。
ジョブ関係の出来事はこのくらいで、普段の私生活は、パウリナの実家にまだ居候させてもらっている。
というのも、他の大陸に移動するにもお金がかかるからだ。
僕が今いる南大陸と東大陸は一部が地続きだからいいとしても、他の北、西、中央大陸は海で隔てられているので、大陸間の移動は船になる。
その船代が馬鹿にならないので、未だに今の町から他の町に拠点を変えずに、冒険者活動をしながら、クエスト報酬をコツコツ貯金している。
それに、宿代も別途かかるしね。
師匠が課した課題を一つもクリア出来ていないまま、焦らず、けれど早くクリアできるように日々努力を重ねていた。
これはそんなある日のこと―――。
◇◇◇◇◇
今日もギルドに顔を出し、知り合いの冒険者に挨拶しながら、受付まで進んで行く。
そして、すっかり顔馴染みとなった受付嬢のナナリーさんに話しかける。
「こんにちは、ナナリーさん」
「あ……こんにちは、アルスさん」
彼女は事務作業をしていたらしく、顔を上げる。
そんな彼女に、僕は問いかける。
「ナナリーさん、何か新しいクエストとかないの?」
「そうですねぇ……今朝出されたばかりのクエストなんですけど」
そう言ってナナリーさんは、手元にあった紙をこちらに差し出してくる。
僕はそれを受け取ると、そこに書かれていた内容を読む。
そこには……。
「未知の魔物?」
「そうなんですよ。最近、町の周囲に出没するようになったんですけど、大型の四足獣の魔物ということ以外わからないんですよ」
僕は周辺に生息している魔物を思い出す。大きくても中型しかいないハズ。
だから……。
「……確かに、この周辺にはいない種類だね」
「それで今、捜索隊を募集してまして」
「それって、ソロでも受けられる?」
そう尋ねると、ナナリーさんは頷く。
「はい、今は人手が欲しい時なので」
「じゃあ、このクエストを受けるよ」
「はい、承りました」
ナナリーさんに紙を返し、クエストを受理してもらう。
彼女が提供してくれた情報によると、その魔物は森の中に出没するらしい。
早速僕は身支度を調え、森に向かって出発した―――。
◇◇◇◇◇
森の中を進み、遭遇した魔物と仮契約して、いざというときのために戦力を増やしていく。
そして、ちょっとした広場のようになっている場所にたどり着いた。
するとそこに、ソレはいた。
僕の気配に気付いたのか、ソレは体を起こして僕を睨み付け、殺気を放ってきた。
「くっ……!?」
僕はなんとか耐えたが、仮契約をしていた魔物達は怯えてしまった。
このままでは戦力にならないと思い、仮契約を解除する。
すると魔物達は一目散に逃げていった。
改めてソレと対峙する。
ソレは、金色に輝く体毛をしたキツネのような魔物だった。
ような、というのはその魔物は尾が九本あったからだ。
……確かに、この周辺では見ない種類だ。
そう思いながら剣を構えると、予想外のことが起きた。
「……また、あたしを傷付ける人が現れたのね」
……喋った!?
僕は驚愕しつつも、冷静に情報を整理する。
魔物は喋ることが出来ないので、この人(?)は魔物じゃない。
と、いうことは―――。
僕は剣を納め、敵意が無いことを示すために両手を挙げながら、問いかける。
「僕はアルス。見ての通り冒険者をしている。君のことを傷付けるつもりはない。それと、君のことを教えてくれ」
僕の言葉に嘘が含まれていないのを感じたのか、相手は殺気を放つのを止め、警戒をいくらか緩めた。
そして相手の姿は、ヒトの姿に変化した。
その姿は金色の髪をポニーテールに纏めた、僕と変わらない年代の少女だった。
獣耳とシッポを生やした金色の少女は、僕に向かって名乗る。
「あたしはヨーコ。世界を旅している、ただの妖族よ」
―――これが、僕とヨーコの出逢いだった。
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