第7話 五年後
師匠に弟子入りしてから五年が経ち、僕は十五才となって成人を迎えた。
この五年間は濃密で、時が経つのを早く感じた。
それに、僕の周りでもいろんな変化があった。
その中でも一番の変化は―――。
◇◇◇◇◇
早朝、僕は師匠と剣を打ち合っていた。
ほぼ日課となっている近接戦闘の訓練だ。
僕は長剣一振りだけの剣士風スタイルで、師匠は右手に長剣、左手に杖の変則二刀流スタイルだ。
僕は雷属性初級魔法を放って、師匠の行動を牽制しながら接近する。
僕が上段から振り下ろした剣を、師匠は右手に持った剣で受け止める。
そして左手に持った杖を突き付けて、僕が放ったのと同じ魔法を放とうとしている。
「くっ!」
僕は咄嗟に飛び退き、距離を取って魔法をかわす。
僕に当たらなかった魔法は地面に着弾し、土煙が立ち昇る。
そして煙が晴れた時、そこに師匠の姿はなかった。
……どこに? ……っ!? 後ろから殺気!?
僕が後ろを向こうとしたその時、首筋にヒヤリとした物があてられる。
僕は両手を挙げ、降参の意を示す。
「参りました」
「うん。動きはよかったけど、魔法をかわした後に癖が出たね。土煙は風属性の魔法で消さないと」
そう言って師匠は、僕にあてていた剣を引いて鞘に納める。
僕は振り向き、師匠と向き合う。
この五年間で一番変わったのは、師匠だろう。
師匠の今の姿は、ロングスカートを履き、足はタイツに覆われ、花の髪飾りをしている青髪は腰のあたりまで伸びていた。
僕が髪飾りをプレゼントした次の日から、出会った頃のパンツルックをやめ、スカートを履くようになっていた。
どんな心境の変化があったか知らないけど、僕みたいに性別を間違える人はいなくなったと思う。
だって師匠は絶望的なまでに胸が……。
「おっと。ぼくに対して何か良からぬ事を考えているね?」
「いいえ、全く」
僕の視線に気付いたのか、師匠は即座にそんな事を言ってくるけど、僕は全力で否定する。
そして僕も剣を納め、師匠に告げる。
「師匠。今日僕は、ギルドに行って来ます」
「ああ、冒険者になるための本登録だったね。行っておいで」
「はい!」
その後汗を流し、シオンさんの作った朝食を摂った僕は、冒険者ギルドに向かって行った―――。
◇◇◇◇◇
ギルドに入り、最早顔馴染みとなった受付嬢の所で本登録を済ませた。
その時に言われたのが、仮登録していた人はDランクからスタートする、ということだった。
その他様々な説明を受け、太陽が中天に差し掛かった頃にギルドを出た。
その後、町中で出会ったパウリナに本登録したことを告げると、彼女にお祝いと称され、昼食を奢ってもらった。……まあ、場所は彼女の両親が経営する食堂だったけど。
それから、彼女の両親のデルさん、アルマさんといくつか言葉を交わし、帰宅の途に着いた―――。
◇◇◇◇◇
帰宅し、師匠に本登録が済んだことを報告する。
「おめでとう、アルス。それじゃあ最後に一つ、教えることがある」
「最後……ですか?」
そう聞き返すと、師匠は頷く。
「ああ。これまでアルスには、仮契約しかさせてこなかったけど、本契約する上での必要なことを教える」
「はい」
僕は姿勢を正し、師匠の言葉を待つ。
師匠は真剣な表情をして、言葉を続ける。
「本契約するのに必要なのは……契約を結ぼうとする相手と一緒に居たいかどうかだ」
「一緒に、居たいかどうか……」
「そう。それさえ心掛けていれば、きっといい魔物使いになることが出来る。忘れないでね」
「はい!」
師匠の言葉に、僕は勢いよく返事をした。
そんな僕の様子に、師匠は満足げに頷いた―――。
◇◇◇◇◇
そしてその日の夜、今後のことについて話し合った。
僕はこの町に留まり、デルさんの家に居候させてもらうことになっていた。
師匠達は、僕達が今いる南大陸から、西大陸に戻ることを告げた。
その中で、師匠は自分のことを改めて説明した。
師匠が名乗っていた『ソラ』は偽名……というか
西大陸でソロモニア王国を建国し、そこの国王をしていること。
まだ僕が知らなかったことがあったことに驚いたけど、今までの師匠を見ていれば納得することしかなかった。
そして、明日には師匠達と別れるとなると、無性に寂しい気持ちが湧いてきた―――。
◇◇◇◇◇
翌日、僕達は家の前にいた。
この後僕は町へ向かい、師匠達はソロモニアに向けて出発する。
僕達は別れの挨拶を交わす。
「師匠。五年間、お世話になりました」
「こちらこそ。ぼくも弟子を持てて楽しかったよ。そのお礼といってはなんだけど、アルスに最後の課題を言い渡す」
その言葉に僕は緊張し、次の言葉を待つ。
一呼吸置いてから、師匠は言った。
「各大陸を巡り、Aランク冒険者になって、本契約した従魔を引き連れてぼくの国に来ること。それが最後の課題だよ」
「はい、わかりました。必ず、終わらせます」
そう僕が答えると、師匠は満足げに頷いた。
その後、普段の師匠からは考えられない行動に出た。
師匠は僕の体に腕をまわすと、優しく、けれど力強く抱き締めた。
僕は驚き、傍に控えていたシオンさんが赤面していると、師匠は口を開いた。
「アルス。これからいろんなことが起こると思う。でも忘れないで。ぼくはいつだってアルスの味方だよ」
「…………はい」
師匠のその言葉に泣きそうになりながら、僕も師匠の体を抱き締め返す。
師匠は体を離し、いつも羽織っているマントの留め具を外して僕に着せた。
「独り立ちする弟子への餞別だ。大切に扱ってね」
「ありがとうございます」
僕はお礼を言い、頭を下げた。
シオンさんにも、今までお世話になったお礼を言う。
「シオンさんも。お世話になりました」
「いえいえ〜、こちらこそ。アルス君とは今日ここでお別れすることになりますけど、お元気で」
「シオンさんの方こそ」
「……さて。別れの挨拶は済んだね。アルス。キミがソロモニアまでやって来るのを楽しみに待ってるよ」
「はい。師匠の課題を全部終わらせたら、必ず」
そう言葉を交わし、後ろ髪を引かれつつも互いに背を向ける。
そして僕達は別れ、それぞれの道を歩んで行った―――。
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