第6話 衝撃の事実(アルスのみ)


 師匠に弟子入りしてから、一ヶ月が過ぎた。


 一週間の内六日間を修行にあて、休息日を一日設けることで効率よく鍛えられる……と師匠は言っていた。

 けれどスパルタ教育のせいか、休息日以外は毎日ヘトヘトになるまで指導されている。


 それに、先週から剣術の訓練―師匠曰く、魔物使いだからこそ近接戦闘出来るようにしないと―も加わり、修行はますます厳しくなる。


 それでも、自分が成長しているのを実感しながら、日々修行に明け暮れていた―――。




 ◇◇◇◇◇




 今日もヘトヘトになりながら、修行を終えた。

 シオンさんお手製の夕飯―意外と(?)美味しい―を食べ、ボーッとしながら風呂場に向かう。


 風呂場のドアを開け中に入ると、そこには先客が……師匠がいた。

 僕は驚き、師匠も突然入ってきた僕に驚いているようだった。


 師匠はお風呂から上がったばかりの様で、青髪のショートヘアーをタオルで拭いているところだった。


 僕が驚いたのは師匠が入っていたこと――ではない。


 僕の視線は師匠の顔から下に移り、下腹部まで行ってから背を向けた。


 今まで師匠は男の人だと思っていたけど、本当は―――。


「……師匠って、女の人だったんですか?」


 なんとか頭を働かせて出て来た言葉がそれだった。

 すると師匠は、僕に裸を見られて恥ずかしいのかいつもより高い声で答えた。


「そうだよ。今まで気付かなかったのかい?」

「ええ、全く。だって師匠、胸がな―――」

「おっと、それ以上は言うな。それと……早く出て行ってくれると助かる」

「?! ス、スミマセン!?」


 そう言うや否や、僕は急いで風呂場を出た。


 ……後で師匠に謝らないと。




 ◇◇◇◇◇




 翌日。

 僕は師匠に頭を下げた。


「昨日はスミマセンでした」

「いいよ、気にしてないから。アルスも気にしないで」

「……はい」


 師匠は、本当になんでもないことのように言った。

 これでこの話題はおしまい―といったところで、シオンさんが朝食を運んできて、師匠に尋ねた。


「ご主人様、昨日何があったんですか?」

「ああ、アルスにぼくの裸を見られた」

「…………へぇ」


 シオンさんは目を細め、僕を見る。


 ……こ、怖い!? 普段温厚な人が怒るとこんなに怖いなんて!?


 そう思っていると、シオンさんは怒気を孕みながら言う。


「アルス君! 女性の裸を見るとは何事ですか!?」

「シオン、ぼくは気にしてないから」

「でも!」

「シオン」

「……ご主人様が気にしてないのなら、いいです」


 師匠が窘めると、シオンさんは渋々引き下がった。

 そしてシオンさんは改めて僕に言う。


「アルス君、今後はこのような事が起きないように気を付けてくださいね?」

「はい、スミマセンでした」

「はい、よく反省してくださいね?」


 そう言うと、シオンさんの顔に笑みが戻った。


 ……シオンさんを怒らせないようにしようと、僕は心に誓った―――。




 ◇◇◇◇◇




 次の休息日。

 僕達三人は町に来て、別行動を取っていた。


 師匠は、弟子を取った冒険者は毎月ギルドに報告しなければいけないとのことで、冒険者ギルドに向かった。


 シオンさんは、食材の買い出しのために市場に行っている。


 そして僕はというと―――。




 ◇◇◇◇◇




「う~ん……」


 僕は、装飾品を取り扱う露店の前で、一人唸っていた。

 そんな僕に、後ろから声を掛けられる。


「何してるの?」

「ん? ……ああ、パウリナ」


 僕は振り向き、そこにいたピンク色の髪をセミロングにした少女に返事をする。


 パウリナ。

 僕達が時々利用する食堂の一人娘で、僕と同い年で同じ種族である人間族の少女。

 食堂で何度か顔を合わせる内に、友達になった。


 パウリナが隣までやって来て、改めて問いかける。


「それで……何してるの?」

「うん、師匠に贈り物をしようと思って」

「師匠っていうと……ソラさん?」

「うん」


 パウリナの質問に答えながら、僕は困り果てていた。


 ……ダメだ、わからん。こうなったら、パウリナに聞いてみるか……。


 そう思い、彼女に逆に問いかける。


「ねぇパウリナ。師匠に何を贈ったらいいと思う?」

「そうねぇ……ソラさんは女の人だから―――」

「え?」

「ん?」


 パウリナが言ったある単語に気をとられ、つい口を挟んでしまった。


 彼女に、師匠が女性だったことに気付いていたのか聞くと、初対面の時から気付いていたらしい。


 その事実に軽くショックを受けるも、彼女にアドバイスしてもらいながら、師匠への贈り物を選ぶことが出来た―――。




 ◇◇◇◇◇




 そしてその日の夜。

 僕は、パウリナにアドバイスしてもらいながら選んだ花の髪飾りを、この前のお詫びと日頃の感謝を込めて師匠にプレゼントした。


 師匠は最初、面食らった表情をしていたけど、しばらくして笑みを浮かべ、僕に感謝の意を述べた。

 シオンさんには、スミに置けませんねぇと言われからかわれたけど……。




 ―――そして僕が師匠に弟子入りしてから、五年の月日が過ぎた。


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