第3話 お勉強の時間です 前編


「おめでとうございます、ご主人様!」


 これまで黙ったままだったシオンさんが、やたらと高いテンションで手を叩いている。

 突然の豹変ぶりに面食らっていると、師匠が彼女を窘める。


「落ち着いて、シオン」

「いいえ、これが落ち着いてなどいられますか! 今まで何十人と弟子入りを志願した者を断ってきたご主人様が、ようやく弟子を取ったのですから! ああ、早くエル姉様や他の皆に知らせないと!」

「お・ち・つ・け」


 師匠が怒気を孕んだ声音でそう言うと、ようやくシオンさんも落ち着きを取り戻し、師匠に頭を下げた。


「…………はい。お見苦しものをお見せして、申し訳ございませんでした」

「落ち着いたのならいいよ」


 師匠に謝罪した後に、シオンさんは僕にも頭を下げてきた。


「アルス君……いいえ、アルス様にも謝罪を」

「謝らなくても大丈夫です。それに、敬語じゃなくていいです。年上の人に敬われると、なんか、こう……こそばゆいというか、なんというか……」

「……じゃあ、普通に接しますね、アルス君」

「あの……敬語もやめていただけると……」

「この口調がデフォルトなので、諦めてください」

「それじゃあ仕方ないですね」


 そう言うと、シオンさんは何故かからかう様な目付きで覗き込んできた。


「私のことは、呼び捨てにしてもいいんですよ?」

「ちょっ、それは!?」

「シ〜オ〜ン〜?」

「はい、悪ふざけが過ぎました、ゴメンナサイ!」


 師匠がまた怒気を孕むと、今までの態度を一転させて、平謝りしてきた。

 そして彼女は真面目な口調に戻り、普通に接してくれればいいと告げてきた。




 ◇◇◇◇◇




「……さて、今後のことについて話し合おうか」

「今後のこと……ですか?」


 改めて席に座り、シオンさんが淹れてくれた紅茶を飲みながら、師匠は僕の質問に答える。


「ああ。弟子を取るとなると、いつまでも宿屋に泊まる訳にもいかないしね。だから、手頃な一軒家を借りようと思う」

「なんでですか?」

「うん、稽古をするためにも、宿屋の部屋じゃ狭いからね。永住する訳でもないから、家を借りた方が何かと都合がいいのさ」

「そうなんですか」

「そうなんだよ」


 僕が師匠の受け答えにひとしきり感心していると、紅茶のおかわりを持ってきたシオンさんが師匠に問いかける。


「いつ、家を借りに行くのですか?」

「これから、冒険者ギルドに行って斡旋してもらう。それと、ぼくが弟子を取ったことも報告してくるよ」


 そう言って師匠は席を立ち、ドアに向かって行った。その後ろ姿にシオンさんはお辞儀をする。


「分かりました。お気を付けて」

「ああ、それと……アルスに冒険者の基礎知識を教えておいてもらえるかな?」

「はい、分かりました」


 部屋から出る直前にそうシオンさんに告げ、師匠はギルドに向かって行った。


 僕が手にしていたカップをソーサーに戻すと同時にシオンさんが振り向き、こう告げた。


「さあ、お勉強の時間ですよ!」




 ◇◇◇◇◇




「まず最初に、冒険者のジョブとランクについて教えますね」


 そう言ってシオンさんは僕に教えてくれるけど、話が逸れたり、別の話になったりして理解するのにメチャクチャ苦労した。


 教えてくれた内容をまとめると……。


 ・ジョブは、剣士、武闘家、魔法使い、魔物使い、狩人など多種多様であること。


 ・ランクは、E〜Sの6段階であること。


 ・そのジョブの最高位の人物は『王』の称号を与えられ、自動的にSランクに昇格すること。


 ・『王』クラスの人物は、ジョブから一文字プラス『王』で呼ばれる様になること。


 ・『王』クラスの中で更に強者の四人が、『四天王』と呼ばれていること。


 ・現在の『四天王』は、『剣王』『武王』『法王』『魔王』の四人であること。


 そして、これが今日教えてくれた中で一番びっくりしたことで……。


 魔物使いの王クラスである『魔王』は、師匠であるということ。


 ……師匠、そんなにスゴイ人だったんですか。


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