第2話 弟子入り
簡単な自己紹介を終え、自分の置かれている状況について質問すると、二人は顔を歪めた。
そしてソラさんが、身を乗り出しながら問い掛けてくる。
「これから言うことは全て事実だ。それでも……聞く覚悟はあるかい?」
僕は一瞬の躊躇いもなく首を縦に振る。
それを確認してから、ソラさんは告げる。
僕が生まれ育った村が滅ぼされたこと。
現地調査のために、隣の町からソラさんはシオンさんと二人でやって来たこと。
僕以外の生存者は、残念ながら発見出来なかったこと。
僕は救助されてから一週間も目を覚まさなかったこと。
今は、その隣町でソラさん達が宿泊している宿屋にいること。
「……と、まあ……自分の状況は分かったかな?」
「…………はい」
色々な事実を告げられ、動揺を隠せなかった。
それでも、一番のショックは……。
……もう、故郷は存在しないのか……。
帰る家を、故郷を失ったことだった。
「まあ、突然事実だけを聞かされても驚くだけだろう。今日はこれくらいにして、また明日話そう。ぼく達は隣の部屋にいるから、もし何かあったら呼ぶといい」
そう言ってソラさんは席を立ち、部屋から出ていった。
シオンさんもソラさんの後に続き、ドアの前で一度こちらに振り向き……。
「今日はゆっくり休んでくださいね」
とだけ告げ、ドアの向こう側に消えた。
二人が立ち去った後、緊張の糸がほどけたのかベッドに倒れこみ、僕はそのまま目を閉じた―――。
◇◇◇◇◇
翌日、ソラさん達はまた僕の部屋にやって来た。
事件の詳細は昨日聞いたし、今日は何を話すのだろう? と首をひねっていると、テーブルの向こう側に座っているソラさんが口を開いた。
「昨日まではベッドに寝たきりだったのに、今日はもう立って歩けるぐらいにまで回復したのか……。若いって素晴らしいね」
……そういうソラさんも二十代前半にしか見えないけど、実年齢は違うのかな?
と、割りとどうでもいいことを考えていると、ソラさんが真剣な表情でこちらを見てきた。
「……今日話すことは他でもない。君の今後の身の振り方だ」
「身の振り方……とは?」
「君は今、一人だ。親戚とかは……」
「あの村に住んでいました。でも、助かったのが僕だけなので……」
「そう、身寄りがない。だから、君を孤児院に預けようと思っているけど……どうする?」
「どうする……とは?」
「君がしたいことをすればいい。孤児院に行くのは自由だし、故郷を復興させたいと思っているのならすればいい。冒険者になりたいと思っているのなら応援する。何をしたっていいんだ。ぼくは君の意志を尊重する」
「…………」
……どうしたいか、か……。どうしよう、考えたこともなかった。
孤児院に行くにしても遠い所だろうし、故郷の復興は……親や友達が亡くなった事実をまだ受け止めきれていないから、無理だろう。
小さい頃からの夢だった冒険者になるのだって、十五才の成人を迎えなければならない。
それなら―――。
「……僕を、あなたの弟子にしてください」
「ああ、ぼくの弟子になるのか。………………えっ? 弟子?」
ソラさんが驚いた表情をしているけど、それに構わずに僕は話を続ける。
「はい。ソラさんは冒険者ですよね? なら、ソラさんの下で修行していれば、冒険者に必要な技術が身に付くと思ったので……駄目、でしたか?」
「駄目じゃないけど……後悔は、しないかい?」
「後悔なんてしません」
「ぼくは魔物使いだから、君も魔物使いになることになるけど……いいんだね?」
「望むところです」
僕は自信を持ってそう答えると、ソラさんはフッと柔らかい笑みを浮かべた。
そしてソラさんは立ち上がり、こちらに手を差し出してくる。
「今日からよろしく、アルス」
ソラさんの手を握り返しながら、僕は笑顔を浮かべながら答える。
「はい、こちらこそよろしくお願いします、ソラさん! いえ……師匠!」
―――こうして僕は、『魔王』と呼ばれる魔物使いの弟子になった。
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