第56話 香澄と花
「いよいよ、明日は準決勝です!」
全国大会2回戦も順調に勝利して、準決勝の前日、フェリアドFCは大部屋でいつものようにミーティングしていた。
「1日空いたし、1回戦も温存できたから、明日は去年とは違って、コンディションは万全でしょ~
とにかく短期決戦は身体のケアが勝負のカギになるから、しっかり、準備すること。
以上~ミーティング終わり~~」
「は~~い~~~」
皆、リラックスした様子で布団に寝転がったり、レストランに行ったり、自由にしていた。
そんな中、花は宿舎屋上の観客席で野口と電話をしていた。
「おっつ~~勉強の方はどう?」
「まぁ、ボチボチかな。
サッカーしてた頃からコツコツとはやってたしな。」
「あはは~アキは真面目だからな~
えらいね~」
「花はちゃんと卒業できるのか?
サッカーばっかやってたし。
若干、不安なんだが。」
「だ、大丈夫に決まってるじゃん!!
それはいくらなんでも私の事なめすぎ!!」
「ははは。冗談だよ。
花は何だかんだ勉強も真面目にやってるの知ってるから。
サッカーでも、賢いプレーするタイプだしな。」
「でしょ~もっと言ってくれてもいいんだよ~」
「そういう調子に乗るところはアホっぽいけど…」
二人はいつも通り、仲良く話すのだった。
「明日は準決勝だな。」
「うん。頑張るよ~
ここまで来たら、絶対、優勝するよ!!」
「頑張れ!!
俺の彼女は日本一だって、自慢させてくれよ!」
「おう!
じゃあ、そろそろ切るね~
お休み~」
「あぁ。お休み~」
そして、花は電話を切った。
丁度、その時、香澄も観客席に上ってきた。
「花姉さん!こんなところにいたんですか?
寒くないですか?」
香澄は花の隣に早速座って、花を温めるように寄り添った。
「大丈夫だよ~
滅茶苦茶、厚着してるし。
ところで、香澄ちゃんはなんでここに来たの?」
「花姉さんを探してたんですよ~
どうせ、あっくんと電話してたんでしょ~」
「あはは~まぁね~
これでも一応彼女ですから。」
花は笑って、香澄に答えた。
香澄はムッとしながら、ギュッと花の腕を抱きしめた。
そして、香澄は観客席からコートを眺めて、呟いた。
「…夜のグランドって、なんか不思議な感じしますね。
ワクワクするっていうか。」
「分かる。
なんか私達を待ってくれてるって感じだよね~」
「それはすごい素敵な感想ですね。
流石、花姉さん!」
「…素敵な感想って…
ホント、褒め方が適当になってきたよね…」
花は頬杖ついて、呆れた。
「でも、ここってすごいよね~
コートがたくさんあって、泊まるとこもあって、本当にサッカーのためだけに作られた施設って感じで、なんか楽しいよね。」
「そうですね…
こんなところに2年連続で来れるとは思ってませんでしたよ…
サッカーしてて、本当に良かったって思えますよね。」
ふと、花はコートを見ている香澄の横顔を見つめた。
「…香澄ちゃんてさ。
私の事、どう思ってる?」
「き、急にどうしたんですか!?」
香澄は花の唐突の質問にあたふたした。
花は少し真面目な顔で香澄に言った。
「いやさ。香澄ちゃんって、私にずっとくっついてるけど、サッカーについては別で、すっごい真面目じゃん?
そんな香澄ちゃんが私のことをどう思ってるのか気になって。」
香澄は真面目な顔の花を見て、恥ずかしそうにしながら答えた。
「は、花姉さんはカッコよくて、可愛くて、私の憧れで…
一緒にサッカー出来るのが幸せで…
ずっと、ついていきたいなって思ってます!」
「…ふ~ん…」
花は何だかつまらなそうな顔をして、まっすぐコートを見て、少し黙った。
香澄は何か悪いこといったかなと不安そうに花の横顔を見つめていた。
すると、花はスッと立ち上がって、香澄に言った。
「…私は香澄ちゃんのこと、会った時からライバルだって思ってるよ。
中々、抜けないし、フェリアドの攻撃の起点って大抵、香澄ちゃんからだし。
同じチームだけど、香澄ちゃんには負けたくないって、いっつも思ってる。」
「は、花姉さん?」
香澄は戸惑った表情で、花の顔を見つめた。
すると、花は香澄を見下ろして、ニコッと笑った。
「香澄ちゃんは私に勝ちたいとは思わない?
香澄ちゃんには憧れじゃなくて、私のこと、ライバルって思ってほしいな。
そしたら、私達、もっとサッカーが上手くなれると思うよ。」
香澄は俯いて、黙り込んだ。
初めて花のプレーを見た時の事…
初めてコサルで花と出会った時の事…
初めて花の家に泊まって聞いた話の事…
初めてフェリアドFCで花とプレーした時の事…
たくさんの思いが溢れてきたが、香澄はそれを言葉にできなかった。
花はそんな香澄の手を取った。
「そろそろ中、入ろっか。
流石に寒くなってきたわ。」
香澄は花に手を引かれるがまま、花について行った。
そして、小さな声で呟いた。
「…これだから、花姉さんの事が大好きなんですよ…」
翌日、準決勝が行われており、フェリアドFCは花に対して、徹底マークがされていて苦戦していた。
若干、フェリアドFCが押され気味にゲームが進み、前半を0-0で終えた。
「皆、分かってると思うけど、花がすんごいマークされてるから、他に必ず空いてるところがあるよ。
そこを突いていきましょ~
花もマークされてるからって、負けないでね~」
「…監督、私に対して、指示が雑じゃないっすか?」
「あはは~花なら自分で考えられるでしょ?
花を信頼してる証拠だよ~」
「また、適当なこと言って~」
花は呆れながらも、いつもの事だと集中し始めた。
そんな花を見て、香澄は昨日の事を思い出した。
―――――香澄ちゃんは私に勝ちたいとは思わない?
香澄は顔を上げて、これまでになく真剣な表情になった。
(…いつまでも花姉さんにまかせっきりじゃ、ダメなんだ…
…憧れてるだけじゃ、花姉さんの横にはいられない…
…私が……私は……!!)
後半になっても、攻めあぐねていたフェリアドFCだったが、花のフリーランによって寄せられたスペースが空き始めた。
相手がセンターライン付近でパス回しをしているところに、香澄はそのパスコースを読んで、ボールを奪った。
「香澄ちゃん!!」
右サイド寄りにいた花が二人にマークされながらもボールを要求した。
(私だって……!!)
香澄は花へとパスすると見せかけて、ドリブルを開始した。
虚を突かれた相手MFはすぐさま香澄にプレッシャーをかけに行ったが、間に合わず、花が空けたスペースを香澄はひたすらドリブルしていった。
「香澄!!」
ペナルティエリア手前でFWの多恵がパスを要求すると、相手DFが警戒して、香澄との距離を空けてディフェンスした。
(……打てる!!)
その瞬間、香澄は思い切って、力強くシュートした。
強烈なシュートがGKの手の届かないサイドネットを揺らした。
ピィピィ~~~~~
審判が得点を示すホイッスルを鳴らしたが、香澄自身、信じられないと言った様子で立ち尽くしていた。
そんな棒立ちしている香澄に花と多恵が抱き着いてきた。
「良くやった!!香澄!!
てか、そんなシュートできるなら、もっと早く出してよ~」
「香澄ちゃん!!マジすごいよ!!今の!!」
「あ、あの…ありがとうございます…」
皆に祝福されながらもまだ、夢見心地の香澄に花は手を上げて、ハイタッチを要求した。
「私も負けてらんないや!!
絶対、次は私がもう一点取るよ!!」
香澄はようやく実感が沸いてきたのか、花の手を力強く叩いた。
「はい!!
もう一点行きましょう!!」
その後、予告通り、花が追加点を挙げて、試合は2-0のフェリアドFCの勝利で終わった。
そして、ついにフェリアドFCは決勝まで上り詰めたのだった。
続く
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