第54話 告白

 

「快勝~快勝~!」


 関東予選2回戦の試合終了後、麻耶が喜んでいた。


 サッカー部が京帝に負けた一方で、フェリアドFCは理恵が出場停止で若干の不安があったものの、2-1で関東予選2回戦を勝ち抜いていたのだった。


「麻耶先輩、何言ってんすか~~

 ちょっと、ヤバかったじゃないっすか~~」

「誰のせいだと思ってんだよ!

 全く、ちゃんと準備できてるんでしょうね?

 次からは頼むよ~」

「おいっす~~」


 理恵は内容はどうであれ、自分せいで負けなくて、内心、すごくうれしかった。


 花も試合に勝って、ホッと一息ついたところで、野口の試合が気になり、カバンから携帯を取り出した。


 すると、野口からのメールが来ていた。


 花は恐る恐るメールを開いた。


「お疲れ~~負けちった~~

 花はどうだった?

 てか、この後、いつもの公園で直接会って話したいんだけど、どうっすか?」


 花はがっかりするよりも、心配の方が強かった。


 強がっているだけで、すごく気落ちしてるんじゃないかと思った。


 しかし、花も早く野口に会いたかったので、直ぐに返信した。


「そっか。お疲れさん!

 私は勝ったよ~~

 私もアキに会いたいから、18時くらいに公園でどう?」


 花は携帯を見ながら、待っていると、直ぐに返信が帰ってきた。


「オッケー!

 そしたら、18時に公園行くわ~」


 花はひとまず安心して、携帯をカバンにしまって、帰り支度を進めたのだった。




「おっす!負けちった!」


 野口が自転車でやってきて、公園のベンチに座って待っていた花におどけた感じであいさつした。


 花はクスッと笑った後、腕を組んで、監督のような表情で野口に言った。


「こら!もっと、悔しがれ!!」

「ははは。厳しいな~なんか聞いたことあるフレーズだし。」


 野口は笑いながら、自転車を止めて、花の隣に座ったのだった。




 日は落ちていたが、時刻が18時だったこともあり、公園には犬の散歩をしている人や買い物帰りの人が通ったりと、二人きりという感じではなかった。


 そのため、二人は少しだけ距離を置いて、ベンチに座っていた。


「でも、流石は花だな。

 順当に勝ってんじゃん。」

「…いや。それが今日はそうでもなかったんだよね~

 相手が予想以上に強かったのと、理恵が出場停止だったのもあって、かなり際どかったわ。

 2-1だったし。」

「マジか!結構危なかったんだな。

 まぁ、なんやかんや全国大会出場が決まったんだから良かったじゃん。

 おめっとさん!」

「おう!ありがと!!」


 花は笑いながら、返事して、勢いのまま野口に聞いた。


「アキはどうだったの?

 やっぱり、京帝は強かった?」


 正直、花は野口の試合の事を聞くのが怖かったが、野口は嬉々とした表情で花に話し始めた。


「すげぇ強かった!!

 でも、俺らも負けてなかったよ!

 0-1だからな!

 俺らにも得点のチャンスはあったんだけどな~

 めっちゃ惜しかったわ~~」

「0-1!!マジで!!

 滅茶苦茶頑張ったじゃん!!

 てっきり、大差で負けたのかと思ってたよ!!」

「…花はホント思ったこと何でも言っちゃうよな~」


 野口は呆れながらも、笑っていた。


 花は野口が本当にすっきりした顔をしているのを見て、安心した。


「どんな展開だったの?

 前半に点、取られた感じ?」

「いや。後半の最後も最後、超絶スーパーボレー決められたわ。

 動画サイトでも見れるようなスーパープレー目の前で見せられた。

 相手GKもヤバくてさ~

 開始直後にドンピシャで浩介がシュート打ったんだけど、横っ飛びで防がれてさ。

 とにかく、強かったし、すげぇ楽しかった!」


 野口は笑いながら、試合を振り返って、花に話した。


「そっか~それなら、しょうがないね~

 本当にお疲れ様!

 最後の試合が後悔のない試合で良かったね!」


 花は何だか嬉しくなって、笑った。


 すると、野口はすっかり暗くなった空を見上げて、呟いた。


「…そうだよな~最後の試合だったんだよな~…

 …あはは…忘れてたわ~…」


 野口は花に顔を見られないように顔を背けて、少し黙ってしまった。


「アキ…」


 花も何も言えず、黙ってしまった。


 そして、野口はボソッと呟いた。


「…そう思うと、すげぇ楽しかったけど、やっぱり、すげぇ悔しいわ…」




 野口はしばらく、そのままの体勢で黙った後、自分の顔をパンと叩いた。


 そして、花の方を向いて、ニコッと笑った。


「こんだけ悔しい思いが出来たのも、スッキリした気持ちで試合を終えることができたのも、花のおかげだわ。

 ありがとな!」

「私?べ、別に私、何もしてないと思うんだけど?」


 急にこちらを向かれて、花は気恥ずかしさと心当たりが無いのとで、あたふたしてしまった。


「…いや。花のおかげで俺、頑張れたんだよ…」

「…アキ?」


 野口は少しだけ真面目な表情になって、話し始めた。


「俺さ。悔しくなったことがあんまりないって話しただろ?

 でも、花が全国3位になって、スカウトされて、実際にプロになるって聞いて、嬉しかったんだけど、実は結構、悔しかったんだよ。」


 花は黙って、真剣な表情で野口を見つめていた。


「このままじゃあ、俺は花の横にはいられないんじゃないかって、自分に腹が立ったんだよ。

 だから、俺なりにすげぇ頑張ってな。

 絶対に花に見合うサッカー選手になってやるってな。」

「…だから、あんなに京帝とやりたがってたの?」

「そういうこと。

 京帝に勝てたら、俺は花の傍にいてもいいって思えるんじゃないかってな。

 多分、俺、京帝に勝ちたかったんじゃなくて、花に勝ちたかったんだよ。

 花に負けたのが悔しくて、しょうがないんだ。」


 花は少し納得したような表情をした。


(…だから、今年のアキは気合が違うって、谷が言ってたんだ…)


 花はニヤッと笑って、野口に言った。


「そんなこと言っても、1対1じゃあ、私、まだアキに勝てないんだけど~」

「いや、そういうことじゃなくて…

 てか、花も分かって言ってるだろ?」

「あはは~ばれた~」


 花は明るく笑った。


 その明るい笑顔に野口は癒された様子だった。


 そして、花は野口を見つめて、笑顔のまま、話し始めた。


「そんなこと言ったら、私もアキには感謝してもしきれないよ。

 アキに勝ちたいから、コサル初めて…

 アキのおかげで、またサッカー始めることが出来て…

 アキのおかげで、最高のチームには入れて…

 今の私がいるのは全部、アキのおかげなんだよ?」


 野口は花に言われて、照れくさそうにした。


「だから、私はずっとアキの傍にいたいと思ってるよ?」


 野口は花の言葉を聞いて、コホンと息を整えた。


「えぇ~~と、それでだな…

 今日、直接、花に言いたかったのは…」


 野口は何故か、緊張した面持ちで姿勢を正して、花を見つめた。


 花はん?と首を傾げた。


「俺はどうやら、やっぱりプロにはなれないみたいだけど…

 サッカーではお前の横には並ぶことが出来ないかもしれないけど…

 日本一のトレーナーになるっていう夢を持ってる。

 その夢を叶えるために、俺には花が必要なんだ。

 花じゃないと、俺、頑張れないんだ。

 だから、ずっと花の傍にいてもいいか?」


 花は衝撃を受けたような顔をして、しばらく黙った。


 野口は花を見つめながら、返事を待った。


 そして、花は口を開いた。


「…えっと、だから、私はアキの傍にいたいって、さっき言ったし、実際、プロになったら遠征増えるから、一緒にいる時間は減るよ?」


 花の見当はずれの答えに野口は思わす、ずっこけた。


「…いや、そうじゃなくてだな…」

「ん~~?どういうこと?

 ちゃんと言ってよ~」


 花がブーブー言ってる中、野口は花の両肩を掴んで、はっきりと言った。



「あ、あなたが好きです!

 結婚を前提にお付き合いさせて下さい!」



 花は野口の言葉に目をキラキラさせて、野口に抱き着いた。


 野口は花の勢いに負けて、抱きしめられながら、倒れこんだ。


「ま、待て待て!!

 まだ、人いるから!!

 ちょっと、離れろ!!」


 野口は抱き着いている花の両肩を持って、身体を起こしながら、無理やり、離した。


「なんで~~いいじゃ~ん~~

 チュ~しよう~チュ~~」


 野口に身体を抑えられながらも、まだ抱き着こうとして来る花だった。


「だ~か~ら~!

 まだ、人いるから!

 はずいっての!!」


 花はムゥっとした顔で仕方なく、抱き着こうとするのをやめた。


 野口はハァハァ言いながら、花に聞いた。


「…てか、ここお前んちの近所なんだから、恥ずかしくないの?」

「べっつに~~ご近所さんとは仲良いから、皆知ってるし、恥ずかしくないよ~

 それに暗いから、見えないよ~」


 野口は呆れながらも、チラッと犬の散歩している人を見た。


 その人はあらまぁと言った顔でこちらを見ていた。


 野口は頭を抱えて、ため息をついた。


「…なるほどな…なんとなくご近所関係が分かってきたわ。

 …で、返事は?」


 花はニコッと笑った。


「もちろん、オッケーだよ!!

 これからもずっと、一緒だよ!!」


 野口も安心して、笑った。


「よかった。ありがとな。

 こちらこそ、よろしくな。」


 そして、花は野口の手を握って、嬉しそうに足をブラブラさせながら、言った。


「じゃあ、いつ結婚する?」


 野口はもう諦めて、笑ったのだった。


「バカタレ、早いっての!!」


 続く

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