第52話 VS 東京ユニバース

 

「次、関東予選1回戦だろ?

 相手どこだっけ?」


 10月に入ろうかとしている頃、公園練習中に野口が花に聞いた。


「東京ユニバースだよ~

 去年、何気に負けてるからね~

 今度は負けないよ~」


 花は気合が入った様子で、野口にパスをした。


 野口は顔を上げながら、トラップした。


「へぇ~東京勢がいきなり当たることもあるんだな。

 関東予選って、完全抽選なんだ。」

「そうみたい。

 東京ユニバースは何気に因縁が多いからね~

 理恵と愛の古巣だし、太一君と啓太君も東京ユニバースだったしで。

 皆のためにも、ここで叩きのめしておくよ!」

「あはは。花は時々、男っぽいこと言うよな。

 まぁ、似合ってるけど。」


 野口は笑って、花にパスした。


「てか、アキだって同じ日に二次トーナメントの1回戦じゃん。

 どうなの?勝てそう?」


 花も顔を上げながら、トラップして、少し心配そうな顔で野口に言った。


 野口は平然とした様子で答えた。


「さぁ。どうだろな?

 相手もここまで勝ち上がってるんだから、それなりに強いとこだし。」

「えぇ~何それ~弱気~」


 花はムッとして、強めのパスを野口に出した。


 野口はなおも顔を上げて簡単にトラップした。


「ははは。大丈夫だって。

 次は絶対勝つから。

 次だけは負けられないからな。」

「そうなの?

 1回戦ってだけで、全部の試合そうでしょ?」

「まぁ、そうなんだけど、次勝ったら、その次、シード校の京帝とやれるんだよ。」

「マジで!!京帝って、あの!?

 全国常連のとこじゃん!!」

「そうそう。

 だから、次絶対勝って、京帝とやりたいんだよ。」


 野口は覚悟に満ちた顔をしていた。


 花はそんな野口を見て、少し不思議に思った。


「でも、普通、もっと弱いとこと当たりたかったんじゃないの?」


 野口は足元に会ったボールを足ですくって、手で持って、真剣な表情で言った。


「…いや、強いとこじゃないと意味ないんだよ…

 …本当に強いチームと戦って、自分の力がどれほどかを確認したいんだ…」


 花はん?と良く分かっていないような顔をしていた。


 野口はそんな花を見て、手に持っているボールを高く蹴りだして、笑って言った。


「花には負けてられないってことだよ!」


 高く上がったボールを花は華麗にトラップした。


「ん~~訳わかんないんだけど?」

「いいから、1対1するぞ!!

 ほら、来い!!」


 そうして、二人は公園練習に励むのだった。




 来たる関東予選1回戦の日、フェリアドFCは会場に到着して、準備をしていた。


 準備中、凛音は意地の悪そうな顔をして、理恵に言った。


「古巣相手だとやりづらいんじゃないの?」


 理恵はいつもの笑顔で何も気にしていないような感じだった。


「大丈夫だよ~~

 むしろ、そんなに強くないとこと当たれてラッキーとすら思ってるよ~」

「…あんたって、そういうとこ、正直だよね…」


「ほぉ~私たちがそんなに強くないってか。」


 すると、二人の後ろから、急に声を掛けられた。


「あぁ~桜井先輩、お久しぶり~~

 元気してた~~?」


 理恵は全く焦る様子もなく、表情を崩さずに理恵に声を掛けた人物、東京ユニバース3年生、キャプテンの桜井司(さくらい つかさ)に返事した。


 桜井は笑いながらも怒った様子で、理恵に言った。


「あんた、勝手にやめたかと思ったら、フェリアドに入ってたなんてね。

 あんたみたいないい加減な奴相手だと、こっちも助かるわ。」

「えぇ~~何言ってるんですか~~

 東京予選4位のチームと当たって良かったな~って言ってるだけですよ~~

 そんな怒んないで下さいよ~」

「はっ!どうせ、あんたなんかまた色目使って、レギュラーになって調子乗ってるだけでしょ?

 そんなチームに負けないんだから。」

「あはは~~よく見て~~

 監督、女だから~~どうやって、色目使うんですか~~

 てか、色目なんて使ったことないっすよ~~~」

「そんなの監督のご機嫌伺いでもすりゃいいだけでしょ。

 とにかく、あんたらに勝って、私たちが全国に行かせてもらうから。」


 そんな険悪なムードのまま、桜井は立ち去って行った。


 凛音は理恵がこんなに言い争いをする奴だとは思っておらず、驚いていた。


「あ、あんたって、結構、言う時は言うんだね…」

「ん~~そうだね~~

 私、あの人、嫌いだから~~

 なんか監督の言いなりみたいな人でさ~~」

「…ふ~ん。そうなんだ…」


 凛音は若干、理恵の様子がいつもと違っているように思ったのだった。




「…さぁて、いよいよ関東予選だけど、緊張してる奴はいないよね?」


 試合前、フェリアドFCは円陣を組んで、キャプテンの麻耶が皆に話していた。


「特に理恵。古巣だからって、遠慮すんなよ!」

「あはは~当たり前じゃないっすか~

 余裕で勝ちましょうよ~」


 やはり、理恵がいつもとは違った様子に見えた凛音は若干、不安になった。


 紗枝も理恵のただならぬ雰囲気に何かを感じていた。


「オッケー!!

 じゃあ、皆、行くぞ!!!」

「おぉ!!!!」




 ピィ~~~~


 そして、試合開始のホイッスルが吹かれた。


 フェリアドFCボールから始まり、攻撃に出ようと花がボールを触ると、二人のマーカーが一気に詰め寄ってきた。


 花は寄せられたが、落ち着いて、キープして、一旦、ボランチの香澄に戻した。


 すると、東京ユニバースチームはFW以外のメンバーが全員自陣に引いて行った。


(…動画では見てたけど、こうまで引かれるとやりづらいな…)


 そう、東京ユニバースは堅守速攻型のチームスタイルでポゼッションは無視した引いて守るタイプだった。


 チームのキーマンである花には常に一人のマーカーがマンマーク気味について、花にボールが渡ると同時に、もう一人その時、近くにいる選手が自分のマーカーから離れて、挟み込む形で花へと迫って行った。


 プレッシャーの速さと二人がかりということもあり、中々、前を向けずにいた花だった。


(…いいプレッシャーじゃん!!

 …でも…!!)


 花も二人相手にすることに慣れていたため、トラップと同時に一人を振り切り、次のボールタッチでもう一人を華麗に抜き去った。


「くっ!!」


 しかし、花が抜き去ったと同時に抜かれた相手選手は花のユニフォームを引っ張りながら、スライディングして、無理やり止めた。


「っと!!」


 花は倒れこんで、受け身を取った。


 もちろんファールとなったが、CBの理恵が相手選手に詰め寄った。


「そんな守り方するんだ~

 ちょっと危なくない~~?

 何~勝てないからって、うちのエース、壊しに来てんの~?

 監督にそう言われてんの~~?

 良くやるね~~?」


 理恵の圧に相手がたじろいでいる中、直ぐに立ち上がった花が割って入った。


「こらこら、理恵~~

 どしたの~~?らしくない~~

 大丈夫だって~~~」


 花は何故か理恵の口調を真似した。


「あはは~ごめんごめん~

 相手があんまり情けない戦い方してるから、つい~~」


 そう言って、理恵はポジションに戻って行ったのだった。




(…相変わらず、ホンットにつまんないサッカーしてるわ…)




 理恵は東京ユニバースジュニアユースの頃は楽しくサッカーしていた。


 選手の個性を大切にする監督で、自由にサッカーをさせてくれた。


 しかし、ユースに上ると監督が全く真逆のサッカースタイルで、勝つためだけの戦術を選手に徹底させた。


(まぁ、こういうサッカーも勉強しとくか~~)


 呑気な理恵は監督の言う通り、サッカーを続けていた。


 理恵のサッカー理解度の高さと技術から、直ぐに監督の戦術に適応して、気づくと1年からレギュラーになっていた。


 理恵の性格上、監督にも慣れあった様子で接していたため、上級生からは色目を使って、レギュラーになったんだと、噂されるようになった。


 理恵はそういう噂には全く、無頓着だったため、ほとんど気にしていなかった。


 ただ、監督のいう通りにするサッカーにも飽きて来ていたのだった。


 そんな中、全国大会の1回戦前に監督に言われた。


「相手は格上だ!

 エースにはファールしてでも、止めていけ!

 最悪、ケガさせてもいい!!

 そのくらいの気概でディフェンスするんだ!!」


 理恵はその言葉を聞いて、一気にやる気が失せた。


(…なんだそれ?

 …ラフプレーありきのサッカーなんて、つまらない通り越して、やりたくないんだけど…)


 結果、1回戦、理恵はほとんどプレーを放棄したような形で、前半で交代させられた。


 そして、その日から、理恵は東京ユニバースをやめたのだった。




(…こんなチームに私たちが負けるわけないでしょ!!)


 東京ユニバースは下がりながらディフェンスして、ボールを奪ったら、直ぐにカウンターでDFの裏に大きなボールを出してきたが、理恵がことごとく跳ね返していた。


「ナイス!!理恵!!」


 麻衣は鬼気迫る理恵の様子を頼りに感じていた。


 前半は東京ユニバースがゴール前に張り付いていたので、中々点が取れず、膠着状態が続いていた。


 理恵は気持ちがですきたのか、知らず知らずのうちに前に出ていて、ラインが崩れかかっていた。


「理恵!前、出すぎ!!」


 すると、前半終盤、FWの多恵が競り合いに負けて、ボールを奪われ、理恵の裏にボールが出された。


 理恵の裏に走っていたFWの桜井が上手く抜け出して、ゴールまで独走状態になった。


「しまった!!」


 理恵がすぐに戻って、桜井に追いつこうとした。


 麻耶も即座にカバーに入って追いつきそうだったので、アプローチに行こうとした。


「麻耶!!いい!!

 私が行くから、そのカバー!!」


 理恵は麻耶を制止して、自分が行くからと更に下がれと指示した。


 桜井のドリブルが大きくなった。


(…届く!!)


 理恵はスライディングでボールに向かって行った。


 が、一瞬早く、桜井の足がボールに触れて、理恵の足は桜井の足にかかってしまった。



 ピィ~~~~



 ホイッスルが吹かれて、審判は理恵の方に走って向かって行った。


 そして、審判は胸のポケットから、レッドカードを取り出して、高々と掲げた。


「よっしゃ!!

 良く走った!!司!!」


 倒れた桜井はガッツポーズをして、東京ユニバース一同は得点を取ったかのように喜んでいた。


 一方、理恵は三角座りをして、うなだれていた。


「下向くな!!

 ほら!立て!!」


 麻耶がうなだれていた理恵を無理やり起こした。


 意気消沈している理恵に麻耶が笑って言った。


「あんたの指示は間違ってなかったよ!!

 ちょっと急いだだけだ!!

 大丈夫!!絶対勝つから!!」


 そうして麻耶は理恵の背中をパンッと叩いた。


 凛音も理恵に寄ってきた。


「気にすんな!!

 後は任せな!!」


 凛音も理恵の背中を強く叩いた。


「あはは~ごめんね~

 後、よろしく頼むよ~~」


 弱弱しく理恵は皆に声を掛けた。


「香澄!!凛音!!

 私達3人で4人見るよ!!

 声かけあって!!

 他の皆はいつも通りやって!!

 絶対勝つよ!!」


 麻耶は大きな声で皆に指示した。


「おぉ!!!」


 フェリアドFCは一層気合の入った表情で返事した。


 理恵がコートから出る前、右サイドにいた紗枝が理恵に言った。


「…あなたの気持ちは伝わりましたよ。

 必ず、勝ちますから、見てなさい。」


 紗枝は手を上げて、ハイタッチを要求した。


「…サエチン…そこでデレるのはきついわ…」


 理恵は顔を上げて、紗枝とハイタッチして、コートを出た。


 川島は理恵に笑って、言葉を掛けた。


「オッケー。顔はギリ上ってるね。

 とにかく、あなたも無理なスライディングしてるんだら、ケガしてないか確認しときなさい。

 次の準備をしっかりしといてね。」

「はは…了解っす…」


 そうして、理恵は顔を決して、下を向けず、控室へと向かって行った。




 ピィピィ~~~


 試合はそのままスコアレスのまま、前半を終えた。


 後半を10人で戦わなければならなくなったフェリアドFC一同は川島の指示を聞いていた。


「…さて、10人での戦い方だけど、どうしたらいいと思う?」


 いきなり、質問されて、皆は戸惑った。


 麻耶はいつもの事だと呆れながらも答えた。


「とりあえず、今んとこ、怖いのはカウンターだけだから、やり方は変えなくていいと思います。

 私と香澄と凛音で、十分4人は見れますから。」

「うん。そうだね。

 無理にフォーメーション変えるとリズムが狂うから、このままいくよ。

 ただ、もう一個、10人ならではの戦い方もあるんだよ?」

「ん?なんすか?それ?」


 麻耶は全く見当がつかず、素直に川島に聞いた。


 川島は笑って、答えた。


「1人少なくなったってことは相手はそのスペースを使ってくるでしょ?

 てことは相手のスペースもその分、空くってこと。

 例えば、香澄が理恵のカバーに入るとして、そのスペースが空くとしたら、相手はどうする?」

「そりゃ、そのスペースを使うに決まってるじゃないっすか。」

「そう。サッカー選手って不思議なもんで空いてたらそこに行きたがるんだよね。 

 じゃあ、その選手が花をマークしていたとしたら?」

「…マーカーが一人減る…」


 花がハッとした様子で、川島を見た。


 川島はうんうんと頷いて、話を続けた。


「しかも、守備的なチームでも数的優位に立つと、流石に攻めてくるだろうからね。

 多少、バランスが悪くなるよ。

 そこを突いて行けば、面白そうじゃない?」


 フェリアドFC全員、目的がハッキリした様子だった。


「オッケー!分かったみたいだから、さぁ、楽しんできて~

 後半、メンバー交代も視野に入れてるから、全員で戦っていくよ!!」

「はい!!!」




 後半開始前、花は紗枝と凛音と香澄に声を掛けた。


「後半、私、あんまり動かないから。」

「はい!?」


 凛音は花のあまりにも大胆な言葉に大きな声が出た。


「監督はああ言ってたけど、後半も多分、私のマークは必ず、二人来ると思う。

 だから、わざとスペースを空けるためにあんまりボールもらわないようにしようと思うから。」

「えぇ~本気で言ってんすか?」

「うん。

 その代わり、いざという時だけ、勝負掛けるから、香澄ちゃんと紗枝、そこらへん感じ取ってね。

 香澄ちゃんと紗枝なら私の感じてること分かると思うから。」

「わ、分かりました!!花姉さん!!」

 

 香澄は花の提案に直ぐに乗っかった。


 紗枝も花の素っ頓狂な提案に思わず、笑ってしまった。


「これだから、本当に花先輩とのサッカーは面白いです!」




 ピィ~~~~~


 後半開始のホイッスルが吹かれて、そうそうに東京ユニバースは攻めに転じようとラインを高く上げてきて、東京ユニバースのペースになりかけた。


 しかし、中央は指示通り、香澄、凛音、麻耶の3人で抑えて、簡単には決定機を作らせなかった。


 ベンチメンバーもアップをし始めている中、ふと、愛が理恵のドリンクボトルを見つけた。


「あっ!理恵先輩、ドリンク忘れてるみたいだから、ちょっと控室届けてきます!」


 そう言って、愛が控室へと向かうと中から、怒声が聞こえてきた。


「…くそ!!…なんで!!…なんで!!…くそが!!!」


 愛は控室のドアを開くことが出来ず、立ち止まっていると、今度はすすり泣く声が聞こえてきた。


「…皆…ごめん…ホント…ごめん…」


 愛は理恵の声を聞いて、泣きそうになったが、控室のドアの前にドリンクだけ置いて、コートに向かった。


 そして、決心した様子で川島に言った。


「監督!!私を出してください!!」


 川島は急に言われて、驚いたが、笑って返事した。


「分かってるって。愛は出すつもりだったよ。

 そのつもりでちゃんとアップしててよ。」

「はい!!」


 愛はものすごい勢いでアップを進めたのだった。


(…絶対、私が点取って、この試合勝つ!!

 この試合、理恵先輩のせいには絶対にしない!!)




 試合は東京ユニバースペースで進んだが、決して失点を許していなかった。


 しかし、フェリアドFCも一人少なくなったことにより、FWの多恵が必死で前線からアプローチしに行っていたため、足が止まりかけていた。


 ピィ~~~


 そこに満を持して、愛が多恵と交代でコートに入ってきた。


「はぁはぁ…絶対、点取ってきてよ!!」

「はい!!!」


 愛はそのままFWに入って、多恵以上に前線からプレッシャーを掛けに行った。


 それでも東京ユニバースペースは覆らず、フェリアドFCが攻め込まれたが、香澄が上手くボールを奪取して、顔を上げた。


 香澄の視線の先には、花がやや右サイド寄りに立っていた。


「香澄ちゃん!!」


 香澄は花の意図を読み取って、花へと強めのパスを出した。


(やらせない!!)


 相手ボランチとサイドハーフが挟み込もうと花にプレッシャーを掛けに来た。


 が、花はボールをスルーした。


(えっ!!)


 そのボールに反応したのは右サイドから、中央に寄ってきた紗枝だった。


(…紗枝なら、分かってくれると思ってた!!)


 花はスルーした後、そのまま二人のマーカーを置き去りにして、走り出した。


(なんで、今のに反応できるの!!)


 予め予定していたかのような連携に戸惑った東京ユニバースは必死に自陣に戻って行った。


 紗枝はペナルティエリア手前でCBに捕まり、ボールをフリーで上がってきた花に預けた。


 花はそのままダイレクトでシュートを狙うフォームに入った。


 相手CBがそれを必死に止めようと前方に体を投げ出してきた。


 すると、花はシュートと見せかけて、ノールックで左サイドのスペースにパスを出した。


(そんなとこ、誰かいるの!?)


 誰もいないと思われたところに顔を出したのは愛。


 愛は絶妙なタイミングでラインを抜けて、GKと1対1となった。


 愛はシュートを放った。




 控室で理恵がうなだれていると、大きな歓声がなったのが聞こえてきた。


(…まさか、点、取られた…!?)


 居てもたってもいられなくなった理恵は控室から出て、観客席へと走って向かった。


(…どっち?…どっち?)


 理恵は祈るような思いで、観客席に行くと、コートで大喜びしているフェリアドFCが見えた。


 理恵は誰が決めたのかも分からなかったが、嬉しくなって、観客席の一番前まで行って、大きな声で叫んだ。


「誰か分かんないけど、ナイッシュー!!」


 その声が聞こえた愛は理恵に向かって、手を振った。


「私っすよ!!私!!

 見ててくださいよ!!」

「あんた、古巣相手なんだから、喜んじゃダメなんじゃないの?」

「えぇ~いいじゃないっすか~~

 嬉しいんすもん!!」

「はいはい!

 まだ、試合終わってないんだから、最後まで集中するよ!!」

「おぉ!!!」


 結局、試合はその後、東京ユニバースが攻勢をかけてきたが、逆にまたカウンターがさく裂して、今度は紗枝が1点取って、2-0でフェリアドFCの勝利で終わったのだった。




「いや~~皆、ありがとね~~~

 ナイスゲーム~~~」


 試合後、理恵はいつものようにヘラヘラした笑顔で皆に声を掛けた。


「はぁはぁ…あんた軽すぎでしょ~

 かなりしんどかったんだからね~」


 凛音が疲れ切った顔で理恵に言った。


「あはは~~ごめんって~~

 ホント、よく頑張ったよ~~

 愛と紗枝もナイッシューだよ~~」

「理恵先輩、私の見てなかったんでしょ!!

 適当すぎますよ!!」

「…ホントにあなたは…

 迷惑をかけたという自覚を持ってください。」

「分かってるって~~もう、こんなヘマしないって~~~」


 理恵は頭を掻きながらも、本当に嬉しそうな顔をしていた。


 皆が笑ってる中、麻耶が理恵に声を掛けた。


「次の試合までは頑張るけど、あんたいないと結構きついんだから、それまでに今日の事、修正しといてよ。」


 理恵はいつもとは違った真面目な笑顔で返事した。


「はい!!」


 続く

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