第49話 新メンバー親睦会

 

「さぁ~じゃあ、親睦会を始めよっか~~」


 6月の中旬、新メンバーも大分、フェリアドFCに慣れてきた頃、理恵が新メンバー同士の仲を深めようと、ファミレスで親睦会を開催していた。


「新メンバーだけでは寂しいので、スペシャルゲストとして、花っち先輩とカスミンも呼んでま~す~

 よろしくね~~」

「うむ!

 今日は無礼講で構わないので、質問などあれば、何でもバシバシ、聞いてくれたまえ!!」

「上司ぶる花姉さん…素敵…」


 面白そうなので、花と香澄も参加していたのだった。


 理恵の仕切りで始まった親睦会だったが、その他の新メンバーたちはそれ程、盛り上がっている様子ではなかった。


 紗枝は暖かいお茶を上品に飲んで、落ち着いた様子だった。


 凛音は理恵のふざけている様子に肩肘ついて、うんざりしているようだった。


 愛は緊張して、カチコチになっていた。




 そんな中、理恵が新メンバーに向かって、笑いながら、言った。


「あれ~~皆なんかノリ悪くな~い~~

 もうちょっと、楽しくしようよ~~」


 凛音がしょうがないとため息をついて、理恵に聞いた。


「…まぁ、目的は分かるんだけど、具体的にどんな話すればいいんだよ?

 そこらへん、上手く仕切ってよ。」


 理恵はん~と考えてから、凛音に答えた。


「じゃあ、恋バナしよっか~」

「絶対しない…」


 凛音は食い気味に拒否した。


「あはは~冗談だって~~

 とりあえず、軽く、フェリアドに入った理由、教えてよ~

 私と愛っちは初めに言った通りだから、リオチンとサエチンの理由を聞かせてよ~」

「確かに。それは気になる。

 良ければ、教えてくれたら嬉しいな~」

「でしょ~~

 じゃあ、リオチンから~」


 花も理恵の提案に乗っかって、凛音は断れずに渋々、話し出した。


「…私、中学校まではサッカーしてたんですけど、高校に入ってからは陸上部に入ったんです。

 それでまたサッカーしたいなと思って、フェリアドに入っただけですよ。

 以上です。」


 話が一瞬で終わってしまって、いたたまれなくなった花が詳しく聞こうと凛音に聞いた。


「えっと…なんで、高校で陸上部に入ったの?

 サッカーしたかったんだったら、ずっとしてればよかったのに。」


 凛音は言いづらそうにしていたが、先輩の質問には答えなければならないと思い、花の質問に答えた。


「…私、プロのスポーツ選手になりたいんです…

 中学校まではサッカーでプロになろうと思ってたんですが、入ってたチームが弱くて、このままじゃあダメだと思って、今度は長距離の選手になろうと思ったんです。

 昔からスタミナには自信があったので。」

「なるほど。

 それで全国3位のチームなら、プロになれるかもって思って、フェリアドに入ったのか。」

「そういうことです。

 走るだけよりかは、ボール蹴る方が好きなので。」

「ちょ~分かる~~マラソンとか、私大っ嫌いだもん~~」

「…あんた程、走るのも嫌いじゃないけどね。」


 凛音は理恵に横入りされてイラッとした。


「でも、なんでスポーツ選手になりたいの?

 話してる感じ、競技は何でもいいくらい、なりたいんだ?」


 花が何の気なしに聞くと、凛音はガバっと身を乗り出して、花の前に出た。


「そりゃ~なりたいでしょ!!

 自分の力だけで生きてる女性ってカッコよくないですか!?

 私はそんなカッコいい大人になりたいんですよ!!」


 急に熱の入った凛音に花は戸惑った。


「あ、あはは~

 分かるよ~カッコいいよね~」


 凛音はハッとして、元の位置に戻ってうつむいた。


「す、すみません。つい。」

「いいよいいよ~

 凛音のこと分かって、私は嬉しいよ。

 話してくれてありがとね。」


 理恵はふと気づいて、花に聞いた。


「そういや、花っち先輩とカスミンって、もうプロ内定してるんでしょ~~?

 じゃあ、実際、フェリアドで頑張れば、プロも夢じゃないってことじゃないっすか~~」

「マジで!!?

 そうなんですか!!?」


 またしても凛音は我を忘れて、花と香澄に身を乗り出して、近寄った。


 香澄は花に寄り添ったまま、ポカンとした表情をして、花は苦笑いをした。


「い、いやいや。

 プロって言っても、まだアマチュアだよ。

 仕事しながら、サッカーするんだよ。

 まぁ、将来的には本当のプロになりたいとは思ってるけどね。

 先輩にも同じような人が二人いるよ。」

「そうなんだ…ホントに夢じゃないんだ…」


 凛音はまた元の位置に戻って、希望に満ちた顔をしていた。




「あはは~~リオチンも熱くなることあるんだね~~

 じゃあ、次、サエチン、教えてよ~~」


 理恵は凛音の事がある程度、分かったので、次に紗枝の話を聞こうとした。


 紗枝はピシッとした姿勢で話し始めた。


「…私も中学校まではサッカーをしていました。

 しかし、家が厳しく、高校からはさせてもらえなかったんです。」

「あぁ~紗枝ってなんかお嬢様っぽいもんね。

 でも、今は許してもらってるんだ。」

「…はい。ただし、許してもらっているのは2年生の間だけです。

 3年生からは学業に専念するように言われています。」

「えっ!!そうなの!!

 もったいないよ!!そんな上手いのに!!」


 紗枝は花の言葉を聞いて、笑いながら、答えた。


「ありがとうございます。

 花先輩にそう言って頂けると、本当にうれしいです。

 私がフェリアドに入ったのは花先輩のおかげなのですから。」

「ん?私、なんかしたっけ?」


 花は紗枝との接点がそんなにあったかを思い出そうと腕を組んだ。


 紗枝はお茶を一口飲んでから、話し始めた。


「…私はサッカーが大好きなんです。

 だから、高校でサッカーが出来なくなったのは本当に残念でした。

 サッカー辞めてからもこっそり、個人フットサルに行ったり、動画を見たりしていたんです。」

「へぇ~コサルにも行ってたんだ。

 なんか動きがフットサルっぽいなとは思ってたけど。」


 花は少し納得した顔をした。


「そうですかね?

 でも、個人フットサルのおかげで、久しぶりのサッカーでしたが、上手くなじむことが出来ました。」

「いいよね~コサル~楽しいよね~

 私もまだ行ってるもん。」


 花は紗枝と共通の話題が出来て、嬉しかった。


 紗枝は恥ずかしそうにしながら、話を戻した。


「とにかく、動画を見ていると、たまたまフェリアドの動画を見つけたんです。

 そこで花先輩のプレーを見て、衝撃を受けました。

 こんなに楽しそうに上手にプレーする人は見たことが無かったので。」

「そ、それは分かります!!

 花姉さんって、ホントカッコいいし、華麗にサッカーするんですよね~

 サエチンも分かってますね~」


 香澄がうんうんと頷きながら、紗枝に同意していた。


 香澄の花に陶酔している表情に紗枝は若干、引いていた。


「そ、そうかな?

 なんかハズいんだけど…」


 花は紗枝と香澄の褒め言葉に頭を掻いて、照れた。


「…はい。本当に楽しそうだったんです。

 花先輩のプレーを見ていると、サッカーがしたくてたまらなくなったんです。

 気持ちが抑えられなくなって、今まで両親にお願い事をしたことが無かったんですが、初めて、両親にお願いしました。

 …サッカーをやらせてくださいと。」


 紗枝の話を黙って、皆は聞き入っていた。


「そしたら、両親は2年生の間だけならとサッカーを許してくれたんです。

 それで、拠点が家から近かったことと、何より、花先輩とプレーができると思って、私はフェリアドに入ったんです。」


 紗枝の話を聞いて、花は照れくさそうに頬を掻いた。


「いや~そんなに言ってくれるのは純粋にうれしいな。

 でも、私も紗枝とサッカーするのすごい楽しいよ。

 なんだろ?

 プレースタイルが合うっていうか…めっちゃやりやすいもん。」

「私も花先輩とはすごくやりやすいし、とても楽しいです。

 だから、本当にフェリアドでサッカーが出来て、今はとても幸せです。」


 紗枝は落ち着いた笑顔でお茶を飲むのだった。




「いや~いい話だね~~

 サエチンがそこまで、花っち先輩のこと思ってたなんで知らなかったよ~

 リオチンもサエチンも話してくれてありがとね~

 もっと二人の事が好きなれたよ~~」


 理恵が笑いながら、二人の話を聞いた感想を述べた。


「私はあなたみたいな軽薄な人は苦手ですけどね…」

「同じく…」


 紗枝と凛音は理恵とは真反対の回答をした。


「えぇ~~ひどくな~~い~~

 ちなみに愛っちからもなんか聞きたい事無いの~」


 理恵は紗枝と凛音にけなされたことは置いておいて、ずっと話に入ってこれなかった愛に話を聞こうとした。


「わ、私っすか!?

 えぇ~と…」


 突然、話を振られた愛は慌てて、何か質問しようと考え出した。


 皆に見つめられる中、焦った愛は苦し紛れに理恵に質問した。


「あ、あの!!理恵先輩はなんでサッカー始めたんですか?」


 自分への質問はないものだと思っていた理恵は少し驚いたが、直ぐにいつものヘラヘラした表情に戻って、逆に愛に質問した。


「ん~~それをなんで私に聞こうと思ったの~~?」

「い、いや、中学の時から理恵先輩のことは知ってましたが、なんかいつもふざけた感じなのに何でも出来ちゃう感じがして。

 背も高いから、他のスポーツもできそうだな~って、ずっと思ってたんです。

 だから、なんでサッカーにしたのかな~って。」


 愛は兄に負けず劣らず、バカ正直に理恵に言った。


「あはは~私、そんなふざけてるつもりないんだけど~

 でも、よく言われる~」

「…でしょうね。

 あなたは話し方に難があるのですよ。」

「サエチン、追い打ちかけないでよ~

 この喋り方はもう私のアイデンティティーだから、治らないよ~

 で、なんだっけ~?サッカー始めた理由だっけ~?」

「は、はい!!」


 理恵は顎に指を当てながら、上を向いて考え始めた。


「そうだな~~

 サッカーってさ~他のスポーツと違って、自由じゃん。

 コートも広いし~

 バレーとかにも誘われたことあるけど、コート狭いし、攻め方決まってるしで、なんか私に合わなかったんだよね~」

「なるほど!言われてみれば、そうかもしれませんね!」


 愛は元気よく納得した。


「でしょ~~

 サッカーは色んなことができるんだよ~

 プレー切れるまでの時間も長いし、人数も多い方だし~

 DFだって、攻撃することができるし、FWだって、守備することができるし~

 なんだったらGKが得点することだってあるんだよ~

 こんなスポーツって中々なくない~?」


 意外にもちゃんとした理由を話す理恵に一同は面を食らっていた。


「だけど、自由だからこそ、考えなきゃいけないこと多くて難しいんだけどね~

 自分一人だけいいプレーしても勝てないし、相手含めて全員を動かせる選手にならないとダメなんだよ~

 それが私にとって、すごい楽しいんだよね~

 というわけで、以上だよ~」

「…私の締め方をパクるな!」

「あはは~ばれた~?」


 凛音は折角、いい話をしていたのに台無しだと頭を抱えた。


 紗枝は理恵の話を聞いて、少し見直した様子だった。


「あなたもちゃんと考えてるんですね。

 まぁ、試合の時のあなたは決してふざけることはありませんでしたしね。

 ただ、話し方は正してほしいものですが…」

「おぉ~サエチンがちょっとデレてくれた~~

 嬉しいかも~~」

「デレ?

 なんですかそれは?

 そういう言葉使いを直しなさいと言ってるんです。」

「厳しいな~~サエチンは~~~」


 何だかんだ言いながらも新メンバーの2年生同士は仲良くなった様子だった。


 それを見た花は何となく嬉しくなって、笑ったのだった。


 続く

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