3年生の始まり
第46話 新メンバー
「おぉ!めっちゃ人いるじゃん!!」
3年生の春、花がフェリアドFCの練習に来ると、いつもとは違う面々がぞろぞろと川島のところに集まっていた。
「あっ、花姉さん。こんにちわ。」
先に来ていた香澄がスパイクを履きながら、花に挨拶した。
「ちわ~てか、今日なんかすごいね。
皆、体験で来てる子達?」
花は香澄の隣にカバンを置いて、しゃべりながら、自分も準備に取り掛かろうとした。
「う、うん。そうみたい。
なんか初めての人ばかりで緊張します。」
「あはは。相変わらず、香澄ちゃんは人見知りだね~
やっぱり、全国3位の肩書は伊達じゃないってことか~
でも、3年生の分もしっかり、穴埋めできそうでいいことだよ~」
そうこうしていると、マヤカヤコンビもやってきて、花と同じように驚いた。
「ちわ~花、香澄~
てか、すごいねこの人数。」
「だよね?
全部体験みたいだよ。」
「やっぱり?
去年とは大違いじゃん。
フェリアドFCも大所帯になりそうだね~」
「…まぁ、どれだけ残るかだけどね…」
香弥は冷静に体験に来た子達を見つめていた。
「な~に弱気なこと言ってんだよ!
全国3位のチームって、分かってて来てるんだから、それなりに上手い子達でしょ?
皆入ってくれるよ~」
「残ったら、残ったで、皆スタメン争うライバルになるってことだから、私達も単純に喜んでられないって言ってるのよ。
そういうところ単細胞なんだから。麻耶は。」
「なんだと~」
マヤカヤコンビはいつも通り、言い争いをしていたが、花と香澄は見慣れていたので、無視していた。
そして、花と香澄は準備を先に済ませて、グランドで軽くボールを触りに行ったのだった。
花と香澄がパス交換している最中、気づかないふりをしようとしていたが、グランドで一人、ひたすらアップしている女子を無視することが出来ず、花がたまりかねて声を掛けた。
「…なんで、またいるんですか?
ユッコ先輩…」
「チリコだっつの!!
愛称っぽく間違うなよ!!」
そう大学生になった千里子がフェリアドFCの練習に来ていたのだった。
「だって、チームが中々見つからないんだよ~
いいじゃん~監督も顔出してって言ってたんだから~」
「大学生ってそんな暇なもんなんですか?
もう何度も来てるじゃないっすか。」
「まだ、始まったばっかだから、大学は楽なんだよ!
てか、サークルとか入るなら忙しいかもだけど、私、社会人チームに入りたいから、暇なんだよ!」
「…それって、大学生として、スタートダッシュ、ミスってません?
大丈夫ですか?」
「…それだけは言うな…花…」
花に諭されて、千里子は無心で走りだした。
走り去った千里子を見送って、花はため息をつきながら、香澄にパスを出した。
「…こんだけ、来てたらお金もらっといた方がいい気がするんだけど…」
「は、花姉さん。
それはちょっと厳しすぎる気が…」
「だって、あんだけ感動的な別れ方したのに、しょっちゅう来るんだもん。
あの気持ちを返してほしいもんだよ。」
「あはは。それはまぁ、許してあげましょうよ。
折角、また一緒にサッカー出来るんだから。」
香澄は苦笑いしつつ、花をなだめるのだった。
「よ~し!じゃあ、練習始めるよ~」
「はい!!」
川島の合図で、いつも通りの練習が始まった。
ジョギングから始まり、動的ストレッチ、ラダーを使ったステップワークの練習、ダッシュと、ボールを使わないトレーニングが続いた。
慣れた様子で現フェリアドFCのメンバーはメニューをこなしていく一方、体験で来ている子達はぜぇぜぇと既に頭が下がっている様子だった。
「は~~い。練習前に言ったけど、絶対に下向かないこと~
しんどくても、顔だけは上げてね~」
「は、はい!!」
川島は体験の子達を特別扱いはせず、本当にいつも通りのメニューを続けた。
しかし、体験の中でも数人、目を見張る動きをしている者もいた。
「…あの子、滅茶苦茶、足早くない?」
花は隣にいる香澄に小さく声を掛けた。
「…はい。それに疲れた様子もありませんし。
あの人以外にも、何人かはちゃんとついてきてますね。」
香澄も感心した様子で、全体を見つめていた。
その後はボールを使ったボールタッチ等の個人技術の練習、パスやトラップ等の基本練習、そして、流れを想定した戦術練習、ミニゲーム、そして、最後のシャトルランへと続いていった。
最後の方はヘロヘロになる者が多数いたが、最後までついてくる者も数人いた。
練習後、疲れ切った体験の子達を見て、花は笑いながら思ったのだった。
(私も最初、こんな感じだったな~
そう思うと、私もスタミナついてきたんだな~)
翌日、花がフェリアドFCの練習に来ると、昨日とはうってかわって、人数が減っていて逆に驚いた。
「こ、こんなに減るもんなんだね…」
左SHで去年はベンチだった3年生、板垣絵里(いたがき えり)が笑いながら、花に言った。
「私的にはライバルが減って良かったかも~」
「…まぁ、とりあえずはそう考えるべきか…」
花は少し残念そうな顔をしたのだった。
「は~い。じゃあ、新しく入ってくれた子達。
自己紹介お願いしま~す。」
練習前、川島は笑いながら、新メンバーに声を掛けた。
結局、残ったのは4人でそれぞれ自己紹介し始めた。
「2年の平田紗枝(ひらた さえ)です。
希望のポジションは右サイドハーフです。
よろしくお願いします。」
紗枝は先日の練習でかなり足の速かった選手で、左ききで足元の技術も高く、体験の子達の中で最も目立っている選手だった。
花達もこの子は入るだろうなと思っていたので、納得しながら、拍手した。
「同じく2年の和田凛音(わだ りおん)です。
ポジションはサイドバックやってましたが、出れるなら、どこでもいいです。
よろしくお願いします。」
凛音は最後のシャトルランも現メンバーと全く引けを取っておらず、スタミナ抜群の選手だった。
「2年の篠田理恵(しのだ りえ)です~
ポジションはCB(センターバック)です~
よろしくお願いします~」
理恵は見た目がギャルっぽいが、身長が高くスラッとしていて、意外にも練習についてきた選手だった。
そして、最後の一人が最も元気よく、挨拶しだした。
「1年生の新田愛(にった あい)です!!
ポジションはFW!!
それ以外はやりたくありません!!
よろしくお願いします!!!」
花は聞き覚えのある苗字と元気さに拍手をしながら、思わず、愛に聞いた。
「新田って、ひょっとして、太一君の妹?」
「はい!!新田太一は私の兄です!!
よろしくお願いします!!」
「えぇ~~マジで~~
すごい偶然!!私、太一君と同じ学校で結構仲良いんだよ~」
「はい!!話は兄から聞いてます!!
よろしくお願いします!!」
「あはは~既に滅茶苦茶、太一君っぽいわ~
よろしくね~」
「はい!!よろしくお願いします!!」
愛は緊張しているのか、同じような挨拶を何度もした。
そんな愛の挨拶を花は笑い転げながら、聞いていたが、他の面々は何のことやらと言った感じになっていた。
こうして、フェリアドFCは新しいメンバーを迎えて、新たなスタートを切ったのだった。
続く
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