第43話 打ち上げと送別会

 

「かんぱ~~い~~~~」


 全国大会を3位で終えたフェリアドFCは冬休みの晩にちょっとした個室を借りて、打ち上げを行っていたのだった。


 皆はピザやオードブルなどを食べたり、ジュースを飲みながら、楽しそうにワイワイはしゃいでいた。


「いや~初めての公式戦で全国3位まで行けると思ってなかったよ~

 でも、楽しかった~」


 律子が笑いながら、話していた。


「そうだよね~

 私も正直、実感ないわ~

 何だかんだ監督についてって良かったわ~

 あざま~す~」


 千里子も賛同して、川島にお礼を言った。


 すると、川島は珍しく、泣きそうになっていた。


「ホント、皆ありがとね~

 苦労させたよ~

 皆には感謝しかないよ~」


 川島は少しお酒を飲んでいたのだった。


「でも、準決勝はもっとやれると思ってたんだけどな~

 1日じゃあ、疲れが取れなかったのが悔やまれるよ~

 もうちょっと、疲れの取り方とか勉強しなきゃ。」


 花は笑いながらも反省しているようだった。


「花姉さんはすごかったですよ!

 何も反省することなんてありません!

 私こそ、準決勝、バテバテで申し訳なかったです…」

「香澄ちゃんは西南FCとの試合で一番、動きまくってたもん。

 しょうがないよ。

 香澄ちゃんがあんだけ頑張ってくれたから、勝てたようなもんだし。」

「は、花姉さん!

 ありがとう!!嬉しいです!!」


 そう言って、香澄はいつものごとく花に抱き着いた。


 花は慣れた様子でヨシヨシと香澄の頭を撫でた。


 川島もほとんど泣いている状態で、花に抱き着いた。


「ホント、皆は頑張ったよ~

 私がもうちょっとマネージメントできてたら、優勝だってできたのに…

 ホント、皆頑張ったんだよ~」

「…監督って、お酒飲むといっつもこんな感じなの?

 めんどくさいんだけど。」

「あはは~監督、お酒弱いからね~

 しかも、泣き上戸っていう最悪のパターンだよ~」

「うん。一昨年のクリスマスん時もめんどくさかったよ…

 まぁ、今回は花に監督の世話、頼むわ。」

「えぇ~~マジで~~」


 花は香澄と川島に抱きしめられて、うんざりするのだった。




「そう言えば、先輩達って、進路決まってるの?」


 ブツブツ呟いている川島に抱きしめられながら、花が唐揚げを頬張って、律子達になんとはなしに聞いた。


「私は千葉のクラブチームに入ることになったよ~

 実は結構前から決まってたんだけどね~」

「うそ!じゃあ、律子先輩、プロになるの!?」


 花は驚いて、唐揚げを飲み込んだ。


「一応、そういうことになるのかな?

 関東予選の時にスカウトされてね。

 まぁ、プロって言ってもアマチュアだけどね~

 そのチームが斡旋してくれる職場で働きながら、サッカーすることになるよ~」


 律子はジュースを飲みながら、特に自慢するでもなく、花に説明した。


 花にはそんな律子が何だか大人びて見えた。


「へぇ~なんかすごいな~

 じゃあ、千里子先輩は?」

「私?そりゃ、普通に大学受験するよ。

 てか、推薦もらえてるし。」

「そうなの!?意外なんだけど!!」

「…ホントあんたは失礼な奴だな…」

「あはは~千里子はこう見えて、頭いいからね~

 言っとくけど、ここらでも有名な進学校に通ってるんだよ~」

「そうだったんだ!!

 全然知らなかった…」


 花はあっけに取られて、呆然としていた。


 そんな花を見て、千里子は余計ムッとした。


「そんなに私が賢いのが意外か!

 腹立つな~」

「い、いや!素直にびっくりしたんだよ~

 じゃあ、もうサッカーはしないってこと?」

「もちろん、サッカーも続けるよ。

 社会人チームなんて探せばいくらでもあるからね。

 大学行きながら、探すつもりだよ。」

「そっか!

 なんか、良かったよ~」


 花が嬉しそうにしているのを見て、千里子はフッと笑ったのだった。


「瀬利も律子とは違うチームだけど、クラブチームに入る予定だよ。

 他の皆は普通に大学受験になるかな。」

「瀬利先輩も!!

 確かにフェリアドで欠かせないのって何気に瀬利先輩でしたもんね。

 全試合フル出場で、結局、失点もほとんどしなかったし。」

「そうそう。

 やっぱりデカくて、戦術理解度が高いってのが評価されたんだろね。

 …ただ、もう一人のデカい奴はちょっと、不安なんだけどね…」


 千里子は黙々とピザを食べている汐音をチラッと見た。


「…何よ?

 何が言いたいのよ?」


 汐音がピザをモグモグと食べながら、千里子に言った。


「いや、勉強できないからって、モデルになるつもりなんでしょ?

 中々リスキーな選択だなと…」

「モ、モデル!!マジで!?」


 花はまたまた驚いたのだった。


 汐音はピザを飲み込んで、写真撮影の時のようなポーズを決めた。


「どう?

 私、スタイル良いし、イケると思うんだけど。

 てか、街歩いてたらスカウトされたし。」

「お、おぉ~確かに汐音先輩って、綺麗でスラッとしてるけど…

 不安ではあるかも…」

「なんでよ?」

「いや、だって、サッカーやめて、その食事量だと、絶対太ると思うんだけど…

 それになんか天然っていうか、少し間の抜けたところがあるし…」

「まぁ、食事はちゃんと制限するし、遊びのサッカーは続けるつもりだよ。

 天然ドジッ子はキャラ受けしそうだし。

 大丈夫でしょ。」

「そ、そうですか。」


 汐音の何も考えてなさそうな将来プランを聞いて、花はあっけにとられたのだった。




「…でも、皆とサッカー出来なくなるのはやっぱり寂しいな~」


 花は将来の話を聞いて、3年生達が引退することを実感してしまった。


「ぞうだよ~~寂しいよ~~~

 だまには顔だじでよ~~~」


 川島は泣きながら、今度は律子へと抱き着きに行った。


 律子は苦笑いしながら、川島の頭を撫でた。


「はいはい~

 まぁ、時間が空いたら、顔出しますよ~」

「ほんどに?」


 川島はグズグズ言いながら、律子にすがっていた。


「当たり前でしょ!

 フェリアドは私達にとって、最高に居心地がいい場所だったんだから!

 監督も来年は頑張って、優勝してよ!

 私達が抜けても、もっと強いチームを作ってよ!」


 千里子も川島の頭を撫でて、川島を激励した。


 川島は嬉しくなって、突然、皆の前に移動して、大きな声で話し始めた。


「3年生のみんな!!

 ホントに今日までありがと!!

 設立から3年間一緒に皆とサッカー出来てホントに楽しかった!!」


 川島は涙を拭いて、笑って話を続けた。


「皆これから、別々の道を歩むことになるけど、私たちはどんなことがあっても、仲間です!!

 同窓会だって、私が企画するし、どんなに忙しくても皆が頼ってきてくれたら、話聞くし!

 皆がどう思ってるかは分かんないけど、私は皆のこと絶対離さないから!!」


 そして、最後に川島は涙を流しながら、一言言った。


「皆、大好きです!!

 何度も言うけど、本当にありがと!!!」




 皆は川島の話を聞いて、パチパチと盛大に拍手した。


 そして、3年生達が川島の方に集まって、胴上げしようとした。


 しかし、川島は口を抑えながら、皆を止めた。


「ごめん…胴上げされると吐くと思うから…」


 そんな川島の空気を読まない一言に皆、笑い出したのだった。


「なんだよそれ~

 監督、飲みすぎだよ~~」

「ホント、監督って変な人だよな~」

「こんなので来年大丈夫なの~」


 皆、笑いながらも、目に涙を浮かべて、川島をいじったのだった。




 川島がダウンしている中、打ち上げ最後の挨拶として、キャプテンの律子が皆の前に出た。


「え~と、監督がこんな感じだけど、一応最後に挨拶しておくね~

 今まで、皆ありがとね。

 ホント楽しかったよ。

 色んな事があったけど、もうそれだけしか言えないくらい、フェリアドに入って良かったと思ってる。」


 律子は笑いながら、晴れ晴れとした顔をしていた。


「だから、皆も私達と同じくらい…いや、それ以上に楽しい思い出を来年も作ってほしい。

 最後に監督がいっつも言ってる言葉を皆に送ろうと思います。」


 涙を浮かべているメンバーもいたが、皆も笑いながら、律子の話を聞いていた。


「サッカーを目いっぱい、楽しんで!!

 私達もこれから、皆に負けないようサッカーを楽しもうと思うから!!」


「はい!!!」




 打ち上げが終わって、1、2年生は泣きながら、3年生に別れの挨拶をしていた。


 そんな中、花は笑って、千里子と握手をした。


「本当に千里子先輩が私のライバルでよかったです。

 私、千里子先輩がいたから、頑張れました…

 …救われました…」


 花は泣かないと我慢していたが、抑えきれずに俯いて泣いてしまった。


 千里子もそんな花を見て、顔を上げつつも涙を流していた。


 花は最後に顔を上げて、はっきりと千里子に言った。


「…今まで、本当にありがとうございました!!」


 千里子は泣きながら、笑って花に言った。


「おう!

 こちらこそ、花とサッカー出来て楽しかったよ!

 ありがとね!

 ケガにだけは気を付けて頑張んなさい!」


「はい!!

 サッチー先輩もお体にお気をつけて!!」


「チリコだっつの!!

 最後に名前間違うんかい!!」


 そうして、二人は笑い合ったのだった。


 続く

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