第42話 麻衣の思い


「ありがとうございました!!」


 試合終了後、フェリアドFCと西南FCユースは整列して、挨拶をしていた。


 試合は2-1でフェリアドFCの勝利となった。


 負けた西南FCユースは泣いている選手が数人いたが、それでも胸を張って挨拶したのだった。




 両チームが握手する中、花は最後に麻衣と握手した。


「楽しかった!ありがと!!

 またやろう!!」


 花は笑って、麻衣に声を掛けた。


 麻衣はため息をついた。


「普通、負けた相手に対して、そういうこと言う?

 腹立つだけっての分かるでしょ。」

「えっ、えっと、ごめん…」


 麻衣は憑きものが落ちたような顔でフッと笑って、通り過ぎていった。


 花はそんな麻衣をポケ~としながら、見つめるのであった。




「お疲れ~~

 そして、良くやった!!

 リベンジ達成だね~」


 試合後、川島は笑ってメンバーに総括した。


「さぁ、次は準決勝!!

 いよいよ優勝が見えてきました!

 明日は休みだから、ベストコンディションに戻すようにまだまだ気を抜かないで行くよ~」

「はい!!」


 フェリアドFCの皆は気を引き締めるものの、嬉しさが勝って、笑って返事するのであった。




 花が後片付けをしている最中、チラッと西南FCユースの方を見ると、円陣を組んで、話し合っていた。


 そんな中、麻衣が泣いているのが見えた。


 花は何故かいたたまれない気持ちになった。


 そして、西南FCのミーティングが終わった頃に花は意を決して、帰り支度をしている麻衣に駆け寄った。


「麻衣!ちょっとだけいい?」


 目を腫らした麻衣は花の方を見て、一緒にいるメンバーに言った。


「…ごめん。先行ってて。」


 麻衣に促されたメンバーは何も言わずに引き上げていったのだった。




「何?」


 麻衣は無表情で、ふてぶてしく花に聞いた。


 花は少しためらいながらも、頭を下げた。


「あの時は暴れて、ごめん!!」


 麻衣は意表を突かれた顔をして、何も言えなかった。


 花は頭を下げながら、思いの丈を麻衣にぶつけた。


「あの時、私がもっと皆の話を聞いてれば…

 なんであんなこと言ったのかを聞いてれば…

 とにかく、麻衣の気持ちを全く聞こうとしなくて、ごめん!!」


 麻衣はしばらく呆然としていたが、思わずプッと吹き出して、笑い出した。


「あはは~なんで、あんたが謝るんだよ~

 意味わかんないんだけど~」


 急に笑い出した麻衣を見て、花は訳が分からなかった。


 麻衣は笑いが収まった後、いつになく柔らかい表情で花に言った。


「言っとくけど、私は絶対、あんたには謝らないからね。

 私、花の事、嫌いだから。」

「…そんな面と向かって言わなくても…」

「いや、私に謝ってほしくて言ってるんだったら、無駄だってことよ。」

「そんなこと無いよ!

 単純にずっと謝りたかっただけだよ!」

「分かってるって。

 あんたはそういう奴だってことはさ。」


 麻衣は花に背中を向けて、しばらく黙った。


 そして、ゆっくりと話し始めた。


「…私はあんたに勝ちたかった…

 …中学の時からずっと…

 …あんたのことが羨ましかったんだよ。

 何でも思ったこと言うし、アホみたいに楽しそうにしてるしで、ムカついてたんだよ。」


 麻衣は腕を空にあげて、伸びをした。


「ん~~まぁでも、そういうのはもう最後だし、スッキリしたよ。」

「…最後って、まだ、3年生があるじゃん。」


 花は納得できない顔で麻衣に聞いた。


 麻衣は背中を向けたまま、花に答えた。


「…私、この大会でサッカーやめるんだ。」

「えっ…なんで!?」


 花は驚いて、少し麻衣に近寄った。


 麻衣は顔だけ振り向いて、ムッとした顔で花に言った。


「いや、だって、3年まで続けると受験に響くんだよ。

 こんな時期までサッカーしてたら、行きたい大学に行けなくなるじゃん。

 あんた、ちゃんと将来のこと考えてんの?」

「ぐっ…」


 麻衣に言われて、花は言い返せなかった。


 そんな花を見て、麻衣は笑って言った。


「それにサッカー以外にもオシャレとか彼氏とか、いろんな遊びしたかったし。

 丁度良かったわ。」

「彼氏なら、私いるよ?」

「…あんた、ホントそういうところ、空気読めないよね。」


 麻衣は花の考えなしの言葉に心底呆れたのだった。




「ホントはあんたに勝たないと辞められないと思ってたんだけどね。

 意外と今日の試合で満足できたよ。私は。」


 花はやっぱり納得できなくて、麻衣に言った。


「そんなこと言ったら、まだ1勝1敗じゃん!!

 私、勝ったなんてこれっぽっちも思えないんだけど!!」


 麻衣はニヤリと笑って、花に言った。


「だからかもね。

 完璧に負けたとは言えないから、すっきり辞めれるのかもね。

 勝ち逃げではないけど、私が満足してるからいいんだよ。」


 ぐぬぬとなっている花に麻衣は再び、背を向けた。


「…まぁ、泣くほど悔しいことがなくなるって思うと…

 …ちょっとはあれだけどね…」


 花は寂しそうな麻衣の背中を見つめて、声を掛けることが出来なかった。


 そして、麻衣は歩き出した。


「精々、あんたはこれからももっとしんどい思いすることね。

 私は楽しい生活させてもらうわ。

 けど、私達に勝ったんだから、簡単に負けんじゃないわよ。」


 そう言って、麻衣が立ち去っていく中、花は大きな声で麻衣に言った。


「麻衣とサッカー出来て、楽しかったよ!!!

 これはホントだから!!」


 麻衣は花の言葉を聞いて、ボソッと呟いたのだった。


「…私もあんたとサッカー出来て、楽しかったよ…」





 かくして、全国大会の準決勝に進んだフェリアドFCだったが、西南FCユースとの戦いで疲労がピークに達していたこともあり、準決勝であっさりと負けてしまったのだった。


 しかし、3位決定戦では奮闘して、無事、勝利を収めて、結局、フェリアドFCの全国大会は3位と立派な成績を残したのだった。




 ネットで結果を見た麻衣は大きなため息をついたのだった。


「言った傍から、負けてどうすんのよ…」


 続く

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