第37話 関東予選
「さぁ~て、千葉にやって参りました~」
関東予選1回戦の試合前、楽しそうに川島はフェリアドFCメンバーに話していた。
「まぁた、勝ったら土日の連戦になるから、ペース配分に気を付けてね。
ちなみに、もう宿は予約してるから、負けたら、それ無駄になるからね~」
川島は笑いながら、メンバーにプレッシャーをかけた。
そんな川島に千里子は呆れながら、言った。
「だから、なんで、いちいちそんなこと言うんですか!?
絶対、言わなくても良かったですよね!!」
「あはは~冗談冗談。
でも、1回戦は多分、余裕で勝てると思ってるから、大丈夫だよ~」
「また、適当な~」
「適当じゃないよ~
東京2位の実力って、皆実感ないかもだけど、中々なもんなんだよ。
だから、皆自信持っていこ~」
川島は本当に余裕の表情で皆に話していた。
「というわけで、前半で試合決めて来てよ。
連戦ってこともあるから、交代枠も全部使うつもりでいるから。
私達は次の試合を考えられるほどのチームってことね。」
川島は少し真面目な顔になった。
「いつも言ってるけど、ベンチメンバー含めて全員で戦って行かないとこの先、進んでいけない。
というか、ベンチにいるメンバーはスタメン狙って、いつもギラギラしてるよ。
スタメンだって気を抜いてたら、降ろされるんだから。
その気持ちは持って、試合に挑んでね。」
そして、最後に川島は手を叩いて、メンバーに言った。
「この試合は自分達の力を自覚する試合になると思うから、自信を持っていきなさい。
そしたら、もっと、サッカー楽しくなるから。
じゃあ、行ってらっしゃい。」
「はい!!」
試合が始まると、川島の言っていた通り、フェリアドFCの一方的な展開となった。
前半で6-0となって、花、香澄、律子、右SHの知世は前半で交代することとなった。
「…千里子先輩はフルなんだ…」
花はベンチに座って、ムッとしていた。
「あはは~千里子は花と違って、スタミナあるからね~
花もまだまだってことよ~」
「…ちぇ!ダウンしてきます~」
川島の言葉に何も言い返せず、花は立ち上がって、ゆっくりとジョギングしに行った。
花はコートの横で柔軟をしながら、試合を見て、皆に声を掛けていた。
すると、後ろから花はボソッと声を掛けられた。
「決勝までちゃんと来てよ…」
花が後ろを振り向くと、そこには麻衣がいた。
西南FCユースは同会場でこの後試合だったのだ。
花は麻衣を見上げて、ぼけっとしていた。
「そっか。西南FCユースとは決勝までやらないんだっけ。」
麻衣は西南FCユースの事なんか気にしていない感じの花にイラッとして、それ以上何も言わずに、去って行った。
それを見た花は何だったんだと不思議に思うのであった。
試合は終わってみれば、8-0の圧勝であった。
試合後、予約していた宿でフェリアドFC一同は晩御飯を食べていた。
「後、一回勝ったら、全国だよ~」
皆はワイワイ言いながら、楽しそうにしていた。
そんな中、花は考え事をしているかのようにぼ~としていた。
花の正面で食べていた律子が不思議に思って、花に聞いた。
「どしたの?花?
なんかずっと上の空だけど?」
花は律子の質問にハッとして、答えた。
「い、いや~麻衣がやけに私の事、気にかけてくるなと思って。」
「麻衣って、西南FCのボランチの子?」
「そうそう。
今日もベンチで柔軟してたら、声かけられたんですよ。
中学の時、そんなに仲良くなかったのに。」
花は箸をくわえながら、なんでだろうと考えていた。
「あはは~そりゃ、あの子、花の事、物凄く意識してたからね~
試合した時、点取られてないのに、花の事、ずっと睨んでたよ~」
「そうなの?
全然気が付かなかった…」
「そういうところがキャプテンに向いてないよね~
周りが見えてないというかさ~
試合の流れとかは見れるのに~」
律子が笑いながら、花の痛いところを突いた。
花はぐぬぬとなりながらも反省しているようだった。
「…以後、気を付けます…」
翌日、関東予選の準々決勝の日が来た。
この試合に勝てば関東予選の準決勝進出が決まって、全国大会へ進むことが出来る大事な試合であった。
「皆、分かってると思うけど、この試合に勝ったら全国に行けます。」
試合前、川島はフェリアドFCメンバーに念を押した。
「でも、あくまで目指してるのは優勝だけです。
何故なら、負けて終わるのが一番面白くないから。」
川島は笑いながら、皆に言った。
「今日の相手は他県のチームなので、正直データがありません。
ただどんなチームとやる時でもやるべきことはただ一つです。」
川島が真剣な表情になった。
「どうやったら勝てるかを常に考えること。
どうやったらもっと楽しくサッカーができるかを考えること。
イメージすること。それだけ。
じゃあ、頑張ってきなさい!」
「はい!!」
そして、試合が開始した。
相手チームはあたりが激しく、ファールが多い、荒っぽいスタイルだった。
そのため、負けず嫌いのフェリアドFC一同も応戦する形で言い合いが多くなっていた。
花も少しイラついていたが、冷静に試合を観察して、自分のできることを考えていた。
前半の終わり頃、攻められていたところを香澄が上手くボールをカットして、カウンターのチャンスとなった。
「花姉さん!!」
香澄は直ぐに花にボールを渡すと、相手はすごい勢いで花にプレッシャーをかけてきた。
(…来た来た!!)
花の得意なシチュエーションとなり、花はワンタッチ目で上手くターンして、相手をいなしてフリーで前を向いた。
しかし、花に抜かれた相手選手がユニフォームを掴んで、無理やり、花を止めようとした。
花は掴まれたまま前に進もうとするが、相手の引っ張る力に負けて倒れてしまった。
ピィ~~~
当然のように相手ファールとなり、相手選手にはイエローカードが出された。
すると、千里子が相手選手に詰め寄って行った。
「いい加減にしなよ!!
ちゃんとサッカーしてよ!!」
相手選手はふてぶてしい態度で千里子に言った。
「イエローもらったんだから、いいでしょ!
さっさと始めなよ!」
「んだと~」
そうして、乱闘騒ぎになりそうになったが、両チームメイトが抑える形で場が収まった。
「千里子先輩、大丈夫だって~
冷静になりなよ~」
花は興奮している千里子をなだめるように笑って言った。
「あんたが倒されたんだから、もっと怒りなよ!!」
千里子は興奮冷めやらぬ様子だった。
「だから、大丈夫だって!
相手もイエローもらったんだから、これ以上は来れなくなるし、こっちが優勢なのは変わらないよ。」
花は冷静に試合を分析して、ニヤリと笑った。
「どんなに倒されても、最後に勝てばいいんだよ。
それでドヤ顔で挨拶してやろうよ。」
千里子は花の言葉に納得したのか、ふぅ~と深呼吸した。
「…分かったよ。
その代わり、ちゃんと点決めてよ!!」
「はいはい。
今日はなんか調子いいからいける気がする。」
前半はそのままスコアレスのままで終わり、後半が始まった。
すると、後半開始直後、花は敵陣地でボールを奪い、そのままドリブルを開始した。
敵はいつものように一発で取りに行こうと、大味なディフェンスになっていて、花はスピードに乗って、そのまま一人でごぼう抜きして、瞬く間にGKと1対1になった。
そして、花は冷静にゴール横にシュートを叩きこみ、先制点を取ったのだった。
「ほらね!?言ったでしょ!?」
花は千里子に駆け寄って行って、笑って言った。
「マジであんたはすごいね!!
よくやった!!」
千里子は花の頭を叩きながら、祝福して、皆に大きな声で言った。
「よっしゃ!!もう一点いこ~!!」
「おぉ~~~!!!」
その後も相手は荒っぽいプレーをしてきたが、慣れてきたのか、メンバー全員が上手くいなして、試合をコントロールした。
絶好調の花は全く、ボールを取られる気配が無く、決定機を生み出し続けて、自ら、2点目となる追加点を取った。
2-0で試合が進み、ロスタイムになった頃、相手全員が前がかりになった時に千里子がボールを奪い、花にボールが渡った。
カウンターのチャンスに花はドリブルを開始したと同時にイエローカードをもらっていた相手選手が後ろからスライディングしてきた。
(…いっ…!!)
相手の足裏が花の足首に当たり、花は倒れこんだ。
花は足首を抑えながら、立ち上がることが出来なかった。
「お前、ふざけんなよ!!」
千里子が相手選手に詰め寄っていくと、審判がそれを防いで、相手選手にレッドカードを提示した。
その後、花が倒れこんだまま、試合終了のホイッスルが吹かれて、試合が終わったのだった。
「足、見せて!!」
試合終了後、川島は走って、花の元へ向かい、ケガの具合を確かめた。
花は痛がりながら、ゆっくりとスパイクと靴下を脱ぐと、真っ赤に腫れ上がっていた。
川島は直ぐにコールドスプレーをかけて、常備していた保冷材を患部に当ててテーピングで固定した。
そして、花を担いで、フィールドの外へと出たのだった。
「バスで一旦、皆を送って行ってから、直ぐに病院に行くからね。
皆、ごめん!
ちょっと、急いでくれる?」
「はい!!」
川島とメンバー一同は直ぐに帰り支度を澄まして、バスに乗った。
花はこんなに心配されるとは思っていなくて、笑いながら、皆にしきりに言っていた。
「大丈夫だって~
今はそんな痛くないから~」
そんな花に川島は珍しく怒った様子で、淡々と説明した。
「それは冷やしてるから感覚がマヒしてるだけ。
多分、打撲だと思うけど、足首の場合、捻挫も併発してる可能性がある。
最悪、骨折だってあり得るんだから。」
川島の骨折という言葉に花は野口の事を思い出した。
その後、花は一切、強がりを言わなくなった。
そうして、全国大会出場が決まった試合が後味の悪く終わったのだった。
続く
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