第30話 決起集会 ~その2~

 

「…とまぁ、こういうことがありまして…」


 コーヒーブレンドのコーラを飲んで、せき込んでいた花が落ち着いた頃に千里子、律子、香澄に中学校の頃のチームメイトのことを話した。


「あはは~マジで~

 暴れるとか花、面白すぎでしょ~」

「…そんな笑うとこなかったですよね?」


 律子が声を出して笑っていたのを見て、花は呆れた。


「でも、千里子先輩が今は私達の仲間って言ってくれたのはホント嬉しかった~

 あざます~」

「折角ちゃんと名前呼んでくれたと思ったら、軽いな!

 てか、もしあそこに香澄がいたら、あれだけじゃ済まなかった気がするし、私で良かったよ…」


 千里子は花の隣でワナワナ震えて、ブツブツと呟いている香澄を見て、ぞっとしていた。


「…よくも、花姉さんを…よくも、花姉さんを…許さない…許さない…」


 花も香澄の様子を見て、苦笑いするしかなかった。


 とりあえず、香澄は置いといて、千里子は納得のいっていない顔で、花に聞いた。


「…花なら、そんな嫌味言われたら、絶対言い返すと思ってたのに。

 なんで、あんなしんどそうにヘラヘラ笑ってたんだよ。

 らしくない。」


 花は笑いながら、千里子に答えた。


「私も正直、もう吹っ切れてると思ってたんですけどね。

 言いたい事言えると思ってたんですけど…

 多分、負い目?みたいなの感じてるんだと思います。

 相手の言い分も聞かず、私の気持ちを一方的にぶつけちゃったみたいな?」

「ん~~良く分かんないんだけど、相手の言い分は陰口って形で聞いてるじゃん?

 それでなんで負い目を感じるの?」


 律子がジュースのストローをくわえながら、花に聞いた。


 花は強がるようにポテトフライをつまんで、話を続けた。


「まぁ今思えば、私がキャプテンやってた時、思ったことを言うだけで、あんまり皆の声とか聞けてなかったんですよね。

 自分でもやってる内にチームの雰囲気悪くなってるの感じましたし。

 だから、陰口言われるのも当たり前かな~って負い目を感じてたんですよ。」

「まぁ、確かに花はそういうとこあるよね~

 キャプテンには向いてないと思うわ~」

「…律子先輩も人の事言えなくないですか?」

「あはは~そこは私のカリスマ性が火を噴いて、皆を上手くまとめてるんだよ~」


 確かに、律子はかなり勝手なことを言っているが、それを許せるキャラであると花は思って、笑った。


「とにかく、私も悪かったと思ってるから、言い返せなくて、いつもの私じゃなくなっちゃったんだと思います。」


 花の話を聞いて、千里子はまだ納得のいっていない顔をしていた。


「…じゃあ、また、あの子達にあったら、同じことになっちゃうってこと?」


 花は千里子に言い返すことが出来ず、笑いながら俯いてしまった。


 そんな花を見て、千里子はため息をついて、腕を組みながら、言った。


「私が花だったら、絶対、負い目なんて感じないね。

 だって、自分は思ったこと言ってるのに、相手が言いたい事言わなかっただけじゃん。

 それを陰でコソコソ言ってる奴らなんかに負い目なんか全く感じないわ。

 ただ、自分についてこれなかったってだけでしょ?

 だから、あんたは負い目なんか感じる必要なんて全くない!

 「陰でごちゃごちゃうるせぇんだよ!!」って言ってやりゃいいんだよ!」


 花は千里子の言ってくれたことが何だか嬉しくて、むずがゆくなった。


「…ありがとうございます…

 パピコ先輩が私と同じポジションのライバルでホント良かった!」

「…もう思いつかないからって、適当すぎるでしょ…」


 すると、突然、香澄が花に寄り添って、声を張り上げた。


「そうですよ!!花姉さん!!!」

「うわ!びっくりした!!」


 思わず、花は持っていたポテトを落とした。


「花姉さんは何も悪くないですよ!!

 あんな奴らに気を遣う必要はありません!!

 というよりも、誰かに気を遣う花姉さんなんて、私は見たくありません!!

 そんなカッコ悪い花姉さんなんて、私は嫌です!!」


 花は香澄の言葉にハッとした。


 何を思ったのか、花はコーヒー入りコーラに口を付けた。


 律子はいっき、いっきと楽しそうにしていたが、千里子は呆れて、香澄は心配そうに花を眺めていた。


 花は一気に飲み干して、ゲホゲホ言いながら、むせた。


 そして、香澄の頭を強めに撫でながら、笑って言った。


「ありがと!!香澄ちゃん!!

 確かに、私が気を遣うなんて鼻から無理だもんね!!

 花だけに!!」

「流石、花姉さん!!上手!!」

「…いや、全然上手くないよ…」


 千里子は香澄の狂信者っぷりにほとほと呆れた。


 すると、律子がポテトフライをモグモグ食べながら、気づいた。


「そういや、選手権予選、頑張って勝ち上がって行ったら、西南FCユースにもあたるでしょ?

 西南FCユースって全国常連だし。

 そん時、今日のリベンジすればいいじゃん?」

「…そうか…

 …麻衣ともその時、勝負するのか…」


 花は真剣な表情で想像しているようだった。


 律子はそんな花を見て、笑って言った。


「その前に負けるわけにはいかなくなったね。」

「はい!!」


 花は元気よく、返事したのだった。




「私の話ばっかじゃなくて、先輩たちの話もして下さいよ。」


 花は自分の中で気持ちの折り合いがついたので、律子と千里子に話をしてもらおうと思った。


「私ら?

 別にいいけど、何を話せばいいのよ?」

「ん~~そうだな~先輩たちはどうして、フェリアドに入ったんですか?

 先輩たち、上手いからもっと他のチームに入れたでしょ?」


 律子は花の質問に笑って答えた。


「私の場合は新設されたってとこが気に入ったの~

 オープニングスタッフ的な?

 なんか、楽しそうじゃん~」

「そ、それだけですか?

 …律子先輩って変わってますよね?」

「あはは~よく言われる~」


 律子の良く分からない回答に花は困惑した様子だった。


「…律子は中学からこんな感じだよ。

 感覚的っていうか、自由っていうか…

 まぁ、そこが羨ましくもあるんだけどね。」


 千里子は苦笑いしながら、花に教えた。


「じゃあ、千里子先輩は?」

「私は律子と違って、ちゃんと色んなチームの体験に行って、吟味したよ。

 その中でもフェリアドを選んだ理由は監督の差かな?」

「ほうほう。」


 花は面白そうと思って、興味津々な顔で聞いていた。


「他のチームの監督は…というか今までの監督もそうだったけど、とにかく言う通りにすれば、オッケーみたいな人が多かったんだよね。

 その点、川島監督は自分で考える余地を与えてくれるじゃん?

 でか、むしろ自分で考えなさいってスタンスじゃん。

 私はそれが気に入って、フェリアドに決めたんだよ。」

「分かる!!

 監督も言ってたけど、自分で考えて、その通りに決まったら滅茶苦茶気持ちいいんだよね~

 私も多分、川島監督じゃなかったら、こんな考えてサッカー出来てなかったと思うし。」

「そうそう。

 まぁでも、それが一番難しくて、しんどいってのはあるんだけどね~」


 千里子と花は楽しそうに川島について話していた。


 香澄は花にくっつきながら、ふと気になったことを聞いた。


「あ、あの。1年目の時って、11人いなかったんですよね?

 私が入った時はもう11人揃ってたから、試合できてましたけど、試合とかなかったのに、それでもフェリアドって魅力的だったんですか?」


 香澄の質問に律子が思い出し笑いした。


「あはは~1年目も面白かったよ~

 監督が必死に試合相手と助っ人探して、無理やり、試合したりしてたし~

 草サッカーのおっさん達ともやったよ~」

「うんうん。

 たま~に監督のツテで滅茶苦茶上手い助っ人の人が来てくれたりしたしね。

 何気にあの人、日本代表だったし。

 1年目も結構楽しかったよね。」

「へぇ~そうなんだ~

 それはそれで面白そ~」


 花と香澄は楽しそうに律子と千里子の話を聞いていた。


 律子は頬杖ついて、ポテトフライを食べながら、言った。


「やっぱり、川島監督はすごいよ。

 知ってる?監督ってパートしながら、教えてくれてるんだよ。」

「えっ!そうなんですか?」

「うん。

 フェリアドの月謝って滅茶苦茶安いでしょ?

 それって、ほとんどがグランド代とかチーム運営費とかで、監督って、ほとんど無償で教えてくれてるんだよ。

 だから、自分の生活費はパートで稼いでるんだよ。」

「マジですか!?

 …それは本当にありがたいことですね。

 でも、なんでもっと月謝取らないんだろ?」


 花は不思議に思っていると、律子が笑ってその質問に答えた。


「やっぱり、まだ女の子のサッカーにそんなにお金を掛けたくないって大人が多いんだって。

 そういう大人の事情で才能のある子が埋もれちゃうのが、どうしても許せないってので、ほぼ無給で教えてるって訳。

 監督らしいよね~」


 川島の思いを聞いて、花と香澄は何だか嬉しくなって、笑った。


「で、でも、そんなこと律子先輩はなんで知ってるんですか?」


 香澄が不思議に思って、質問すると、律子の笑顔が無くなった。


「…いやね…去年のクリスマス合宿の時にさ…

 …珍しく、お酒の入った監督が酔って、話してくれたんだよ…」

「何それ!面白そ~」


 花のワクワクした顔とは裏腹に嫌なことを思い出すかのような顔で千里子が話し始めた。


「…それが、全然面白くもなんともないんだよ…

 …まぁ、サッカーの話ならいいんだけどさ…

 …結婚できないなど、出会いが無いなど…

 …そういう話になると、マジでめんどくさいんだよ…

 …泣くわ、喚くわでさ…」


 花はその話を聞いて、恋愛話は監督には御法度の理由が分かって、苦笑いした。


 律子が話を終わらせようとパッと笑顔に戻って、言った。


「ま、まぁ、あれ以来、監督も反省してお酒飲まないようにしてるらしいし、とにかく、いい監督だよって話~」


 すると、千里子がニヤリとして、花に言った。


「だから、花、彼氏の話とか絶対、監督にしちゃダメだよ。」

「そ、そんなのしませんよ!!」

「あはは~でも、私達には言ってくれてもいいよ~

 花の彼氏ってどんな人なの~?」

「べ、別に普通ですよ!普通!!」

「あっくんはいい人ですよ。

 優しいし。」

「あっくんってどゆこと!?

 なんで香澄が知ってるのさ?」

「花姉さんの彼氏さんは私の幼馴染なんです。」

「香澄ちゃん、別に言わなくていいから!!

 ややこしくなる!!」


 その後は一方的に花がいじられる女子トークが繰り広げられたのだった。


(決起集会じゃなかったのか…)


 花はうんざりした様子で、律子と千里子の質問攻めに対応するのであった。


 続く

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