いざ、選手権予選へ

第29話 決起集会 ~その1~

 

「今日はトップ下、花で行くから。」


 6月の中旬、フェリアドFCは練習試合に臨んでいた。


 そのスタメンに花が抜擢されたのだ。


「はい!!」


 花は元気よく返事して、よしと気合を入れた。


 この頃には同じポジションの千里子と花はスタメンの座を取ったり、取られたりと半々の状況になっていた。


「私の代わりに出るんだから、死ぬ気で走んなさいよ!!

 てか、直ぐバテて、直ぐ交代しろ!!」


 千里子が花に激励の言葉を送った。


「嫌だよ~

 今度こそ、フルで出てやるんだから~」


 花は不敵な笑みを浮かべて、千里子に言った。


「あはは~行けるとこまでは花で行くけど、千里子もしっかり準備しててよ~

 多分、花は最後までもたないから~」


 川島は二人の様子を見て笑っていた。


「オッケーです!!

 しっかり、アップしときますよ!!」

「じゃあ、私が交代する頃には試合を決めときますよ!!

 サッチー先輩には後処理をお願いします~」

「チリコだってぇ~の!!

 もうカケラも合ってないわ!!」


 花と千里子は恐らくチームの中で一番仲良くなっていたのだった。




 試合は5-0でフェリアドの快勝だった。


 花は前半で交代したが、2G1Aの大活躍だった。


「今日はお疲れ様~

 良かったよ、皆~」


 試合後、川島が皆に今日の試合の総括を話していた。


 花は活躍はしたものの前半で交代させられたのに、少し納得できていない様子だった。


「花の顔見たら、納得できてない子もいるみたいだけど、試合はベンチメンバー含めて全員で挑んでくからね~」


 花はまた見透かされたと恥ずかしそうにした。


「それにいよいよ皆さんお待ちかねの公式戦、選手権予選が8月から始まります!

 3年生の子達は公式戦もない中、本当に今まで私についてきてくれてありがとうね。

 心から感謝してるよ。」


 川島は創立当初からチームに加入してくれていた3年生達に感謝を述べた。


 川島は真面目な顔で話を続けた。


「最初の公式戦が最後の公式戦になっちゃって、本当に申し訳なく思ってる。」

「そりゃ~なんせ、最初の1年目は11人いなかったしね~

 監督がもうちょっと頑張ってたらな~」


 右SHの村上知世が意地悪そうな顔でちゃちゃを入れた。


「だから、謝ってるじゃん!

 でも、ホントありがとね。

 その代わりと言っちゃなんだけど、私が皆を優勝させて、全国に行かせるからさ!」


 川島は自信満々に皆に優勝と言い放った。


 皆もやる気満々と言った表情で川島を見つめていた。


「よし!!

 じゃあ、大会までケガだけには気を付けて、いつも通り頑張っていきましょう!!

 では、解散!!」

「はい!!ありがとうございました!!」




「ねぇ?これからファミレスで決起集会的なことしない?」


 千里子が皆に提案した。


「いいねぇ~じゃあ、行ける人~」


 キャプテンのFW律子も千里子の提案に乗り、皆に聞いた。


「はい!!」


 花は楽しそうと思い、迷わず手を上げた。


「花姉さんが行くなら、私も!!」


 香澄も花につられて、手を上げた。


 他の子達は案外クールで、手を上げず、帰り支度を進めていた。


「えぇ~こんだけ~

 汐音と知世も行こうよ~」


 律子は知世と長身FWの汐音に声を掛けた。


「私は門限あるから~」

「ん~私は食べすぎちゃうといけないから~」

「確かに、汐音は良く食べるもんね~

 まぁでも、大勢で行き過ぎても空いてないかもだから、とりあえず、この4人でいこっか~」


 そうして、律子、千里子、花、香澄の4人でファミレスに行くことにしたのだった。




 近くのファミレスに到着した4人はとりあえず、ドリンクバーとポテトフライを頼んで、好きなドリンクを取りに行こうとした。


 すると、律子が花に言った。


「今日のMVPは花だったからね。

 特別に取ってきてあげるよ~

 何がいい?」


 花はMVPと言われて嬉しくて、お言葉に甘えることにした。


「あざます!!じゃあ、コーラで~」

「オッケー。

 じゃあ、待っててね~」


 そう言って、花は一人優雅に椅子に座って待つことになった。




「あれ?花じゃん。」


 花が一人でいると、聞き覚えのある声で話しかけられた。


「ホントだ。花だ~

 こんなとこ出会うなんて奇遇だね~」


 西南FCユースのジャージを着た二人組が花にニヤニヤしながら、声を掛けてきた。



 二人は中学3年生の時、花に陰口を言っていた奴の取り巻きだった。


 花がサッカーをやめた原因とも言える連中でもあった。



 花は昔の事がフラッシュバックして、上手く言葉が出なかった。


「…ひ、久しぶり…」


 二人は花のジャージ姿を見て、嫌な笑顔で花に言った。


「また、サッカー始めたんだ~

 上手かったもんね~

 どこに入ったの?」

「…フェリアドってとこ…」

「ふぇりあど?聞いたことないな~

 そんなとこでまた、王様みたいな感じなんだ~

 今だって一人だし~」


 二人はケラケラ笑いながら、花に言い寄っていた。


「でも、花がいなくなったおかげで、麻衣(まい)がスタメンになってね~

 皆楽しく、全国でベスト4まで行ったよ~

「そうそう。麻衣はユースでも1年生からスタメンだし~

 今は麻衣の方が上手いんじゃないかな~」

「…そうなんだ…」


 花は二人の言葉に申し訳なさそうに俯きながら、ひたすら相槌を打つしかなかった。


 花はそんな自分が情けなく、歯がゆかった。




「ちょっと、何、あんた達?

 邪魔なんだけど?」


 すると、千里子がジュースを持って帰ってきた。


「あぁ~ごめんなさい~

 花と同じチームの人ですか~?

 私達、中学校で花と同じチームだったんで、ちょっと話してたんです~」

「…ふ~ん…そうなんだ。」


 千里子は花の変な笑顔になっている様子を見て、なんとなくイラついた。


「とにかくどいてくれる?

 座れないんだけど。」


 千里子はそう言って、無理やり二人をどかして、花の隣にドカッと座りこんだ。


「何、ちょっと…!」


 二人は千里子の態度にムカッとして、千里子と花に言った。


「やっぱり、類友ってやつ~

 似たような人と仲良くなるもんだよね~

 なんか野蛮っていうか~」

「なっ…!!」


 花は千里子のことまで悪く言われたのが許せなくて、言い返そうとした。


 しかし、千里子が花を制止して、二人に笑いながら言った。


「あはは~そうだね~

 あんたらみたいにネチネチした気持ち悪い奴らが仲良くしてるんだから、類友ってのもあながち間違っちゃないかもね~」

「何?こいつ?

 イラつくんだけど…」

「てか、昔の同僚かなんか知らないけどさ~

 花は今、私達の仲間だから、あんたら関係ないよね?

 だから、さっさとどっかいってくんない?」


 花は千里子の言葉を聞いて、嬉しくて泣きそうになった。


 二人が千里子に言い返せずにいると、後ろから、また花にとって聞き覚えのある声がした。


「あんたら、何やってんの?」

「麻衣!」


 花はそのジャージ姿の少女を見て、昔の事を鮮明に思い出した。



 声の主は花の陰口を言っていた張本人である佐藤麻衣(さとう まい)だった。



「…花。久しぶりだね。」


 麻衣は花を見て、何とも言えない顔で声を掛けた。


「…ひ、久しぶり。麻衣。」



 麻衣は花が決して目を合わせてくれないのを見て、ため息をついた。


「ほら、もう帰るよ。」


 麻衣は二人の背中を押して、帰るように急かした。


 二人は千里子を睨みつけながら、麻衣に押されるがまま、足を進めた。

 千里子はプイッと知らん顔でジュースを飲んでいた。


 すると、麻衣は最後に小さな声で呟いた。


「…結局、サッカー始めれたんだね…」


 そう言って、3人は店を出たのだった。




「お待たせ~って、なんかあったの?

 難しい顔して。」


 3人が去った後、律子と香澄がジュースを持って帰ってきた。


 千里子はイライラした顔で足を組んでブラブラさせていた。


「別に!

 ムカつく奴が来たってだけ!!

 てか、遅いよ!!二人とも!!」

「いや~ちょっとジュース選ぶのに時間かかっちゃって~

 はい。これ、花の分。」


 律子は花の前に黒いジュースを置いた。


 香澄は何も言わず、花の隣に座っている千里子をじ~と見つめて、席を変わるよう促した。


 千里子はため息をついて、花の隣を香澄に譲った。


 一方、元気のない花を見て、律子が花に言った。


「どうしたの?花?

 とりあえず、ジュースでも飲んで、元気だしなよ~」

「…は、はい…」


 花が律子に促されるまま、ジュースを一口飲むと、ブッと噴き出した。


「な、何ですか!?これ!?

 ちょ~まずいんですけど!!」

「あはは~やっぱり、まずかった?

 コーラとコーヒーのブレンド~」


 律子は笑い転げながら、ジュースの中身を花に教えた。

 千里子は呆れながら、律子に言った。


「…律子はホント、こういうの好きだよね~」

「えぇ~だって、面白いじゃん~

 ドリンクバーの醍醐味でしょ~」


 香澄はハンカチで花のこぼしたジュースを拭きながら、呟いた。


「…むせてる花姉さんも素敵…」

「か、香澄ちゃん…それは絶対、嘘だ…」


 花はせき込みながらも、先ほどあった出来事が一気に吹っ飛んだ気持ちになり、思わず笑ったのだった。


 続く

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