第27話 新田という男

 

「たまには二人でご飯食べなよ。」


 ある日の昼休み、加奈が花と野口に提案した。


「急にどうしたの?

 皆で食べようよ~」


 花はちょっと不満そうに加奈に答えた。


「俺ら丁度、弁当忘れたんだよ。

 だから、久しぶりに食堂で食べようかなと。

 まぁ、二人で精々イチャイチャしとけよ。」


 谷がいつもの冷静な表情で、二人に言った。


「えっ?俺、弁当あるんだけど…」


 菅が空気を読まず、横入りした。

 加奈は笑って、菅に言った。


「ちょっとは空気読もうよ~菅君~

 月一くらいは二人の時間を作ってあげようよ~」

「ん~~まぁ、そうだな。

 せっかくの学生生活。そういう時間も必要だよな。」


 菅は少し考えた後、まぁ仕方がないかと承諾した。


 加奈と谷はよしと小さくガッツポーズをして、花と野口が何か言う前にそそくさと三人は食堂へと向かった。


「…照れくさいけど、確かに二人で昼ご飯食べるのって、よく考えたら、あんまりなかったしね。

 この際、お言葉に甘えよっか。」


 花は折角だからと野口と席を並べて、二人でお弁当を食べることにした。

 野口は疑うような顔で3人を見送っていた。


「…俺には嫌な予感しかしないけどな…」




「…というわけで、「野口別れさせ隊」を結成します!」


 食堂には加奈、谷、菅と1年生の新田と菅原が一緒にご飯を食べていた。


「はっはっは~そりゃ、面白そうだ~

 乗ったぜ~」


 菅は笑って、加奈の提案に乗っかった。


 菅原は先輩だらけで、落ち着かない様子だった。


「え~と、別にいいんですけど、なんでここに僕もいるんですか?」

「そりゃ、流石に1年生、俺一人は心細いだろ~」

「…いや、先輩の彼女を奪う話なんて、正直関わりたくないんだが…

 でもまぁ、俺がいないと太一が暴走しそうだし、良かったかもだけど…」


 菅原は諦めた表情でうなだれていた。


「じゃあ、皆でどうすれば、菅君が花と付き合えるかを考えてみよう~」


 加奈は流石は委員会を任されるだけあって、仕切り上手だった。


 谷は若干引け目を感じている様子だった。


「…俺はちょっとちょっかいかけるだけで良かったんだが…」

「言い出しっぺが何言ってるのよ~

 やるからにはちゃんとしないと~」

「…まぁ、どうせ、無理だろうからいっか。」

「出だしからひどいっすよ!!谷先輩!!

 ちょっとは協力して下さいよ!!」


 新田は谷のいきなりの諦めの言葉に傷ついた。

 谷はしょうがないとため息をついて、加奈に聞いた。


「え~じゃあ、とりあえず、小谷と仲良くなるところから始めたらいいじゃね?

 なんか小谷の好きなことってないの?」

「そりゃ~サッカーでしょ。」

「…それは分かってるけど、他にないのかって話だよ。」


 谷はどんどんと面倒くさくなってきた。


「う~~ん…そうだな~

 そういや、ホラー映画とか好きだね~」

「ホラーっすか!?俺も好きっすよ!!」


 新田が身を乗り出して、嬉しそうに言った。


「あはは~そりゃよかった~

 でも、サッカーが10としたら、ホラーは3くらいの好き度だから、あんまり話弾まないと思うよ~」

「…じゃあ、ダメじゃないっすか…」


 新田は残念そうにうなだれた。


 加奈と菅は喜怒哀楽のはっきりした新田を見て、笑っていた。


「はっはっは~太一は見てて面白いな~

 俺からも助言させてもらうと、サッカーって言ってもやるのと見るのと二種類あるだろ~

 小谷はサッカー見るのも好きなんじゃないのか?」

「そうだよ~

 花は特に海外サッカーをよく見るね~

 レアルマドリードが好きみたい。」

「…俺、あんまりサッカーの試合見ないんすよね~

 どっちかっていうとやる方が好きなんで…

 しかも、バルサファンだし…」

「それは頑張って、これから見るようにすればいいじゃん~

 好きな人のために頑張れない男のこと、花は嫌いだと思うな~」


 加奈は笑いながら、厳しめの言葉を新田に送った。


 新田は加奈の言葉を聞いて、バッと立ち上がった。


「そうっすよね!!

 何事も頑張れば、何とかなる!!

 俺、今から小谷先輩と話してくるっす!!」

「ちょっと待て!!太一!!

 まだ、何も決まってないだろ?」

「じゃあ!あざます!!」


 そう言って、菅原の静止も聞かずに昼ご飯をササッと食べて、食器を片して、新田は走って、食堂を出て行った。


 加奈と菅は新田の行動に笑い転げていた。


「あの子、ホント面白いね~

 たまらんわ~」

「太一の奴、猪突猛進とはこのことだな~

 楽しい奴がサッカー部に入ってきたもんだ~」


 一方、谷と菅原は呆れていた。


「…新田っていつもああなの?」

「…はい…だから、ついていくのも一杯一杯ですよ…」


 昼ご飯を食べ終わっていた菅も立ち上がった。


「俺、面白そうだから、見てくるわ~

 後でどんな感じだったか教えてやるよ。」

「よろしく~」


 そして、菅も食堂を後にした。


 加奈と谷、菅原はまだ昼ご飯を食べ終えていなかったので、食堂に残ったのだった。


 谷はラーメンをすすりながら、ふと気になっていたことを菅原に聞いた。


「そういや、新田ってクラブチーム入ってたのに監督と喧嘩してやめたんだよな?」

「えぇ~そうなんだ~

 中々やんちゃだね~」

「…そうなんですよ。

 まぁ、見ての通りの性格の奴なんで…」


 菅原は恥ずかしそうに答えた。


「でも、お前までやめる必要なかっただろ?

 菅原はなんでやめたんだ?」


 谷の質問に菅原はうどんをすすった後、微笑みながら、言った。


「…太一がサッカーに関しては何も間違ったことを言う奴ではないから…ですかね?」

「良く分かんないんだけど、どゆこと?」


 加奈はサンドイッチをモグモグしながら、不思議そうな顔で菅原に聞いた。


 菅原は持っていた箸を置いて、話し始めた。


「監督がですね。ちょっと嫌な監督だったんです。

 負けた試合では点を取られたDFを責めて、勝った試合ではDFを特に褒めないとか。

 ミスした特定の人を一方的に責めるとか。

 なんか全体が見えてない監督だったんですよね。」

「クラブチームの監督なのに、それは中々ひどいな。」


 谷は同情するように菅原に言った。


 菅原は笑って、話を続けた。


「まぁ、元プロらしいんですけど、その肩書だけで監督やってるような人でしたから。

 ある日、試合に負けて、ミスした選手がいつも通り、怒られてたんです。

 それで太一が我慢できずに監督に言ったんです。

 「そいつがミスしたのは他のフォローが遅かったからで、そいつだけの責任じゃないでしょ!」、「試合に負けたのは俺が点を取れなかったせいでもあるし、チーム全体の責任でしょうが!」って、滅茶苦茶キレたんですよ。

 それからは監督と太一の激しい言い合いになって、結果、太一はそのまま勢いに任せてやめたんです。」


 加奈は菅原の話を聞いて、思わず笑ってしまった。


「あはは~すごいね~新田君って。

 傍から見てたら面白いわけだわ~」

「巻き込まれる身にもなってほしいですけどね。」


 言葉とは裏腹に菅原は笑っていた。


「で、俺も太一は何も間違ったこと言ってないと思って、一緒にやめたんです。」


 菅原は話し終えて、再び、箸を持って、うどんをすすった。


「なるほどな。

 そりゃ、菅原も大変だったな。」

「いやまぁ、太一とサッカーするのが楽しくてやってるとこありますしね。

 世話係みたいになっちゃってるのは不本意ですけど。」

「…菅原って、滅茶苦茶いい奴だな。」


 谷は菅原に思わず、拍手した。


「うん。菅原君はきっといいお父さんになると思うよ。」


 加奈もつられて、菅原に拍手した。


「…やめてもらっていいですか。

 すごい恥ずかしいんで。」


 菅原はこの人たちはいじることが大好きなんだなと、少しイラッとしたのだった。


 続く

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