第26話 「野口別れさせ隊」結成

 

「ちわっす!!小谷先輩!!」


 通学中、加奈と一緒に歩いていた花が後ろから突然、声を掛けられた。


 驚いて、加奈と花が振り向くと、見知らぬ男子学生がニコッと笑っていた。


「え~と…あれ?誰ですか?」


 花は訳の分からないまま、その男子学生に尋ねた。


 すると、隣にいたもう一人の男子学生が声を掛けた男子学生の頭を叩いた。


「いきなり、声かけるやつがあるか!!」

「…いてぇな!!何すんだよ!!」

「す、すみません!

 僕は1年生の菅原啓太です。

 こいつは同じ1年の新田太一です。

 サッカー部で小谷先輩が野口先輩の彼女さんだって聞いて、つい話しかけちゃったんです。」


 菅原は礼儀正しく、新田のフォローをした。


「あぁ~あの上手かった子達か~

 なんか見たことあるなと思ったら。」


 花が先日の練習で見た二人の1年生だったことを思い出した。


「マジで!?そんな上手かったっすか!?」


 新田が花に詰め寄って、嬉しそうに問い詰めた。


「ま、まぁ、上手かったと思うよ。

 でも、アキに取られまくってたけどね。」


 花はたじろぎながら、笑って、冷淡な言葉を新田に言った。


 新田は花の言葉にぐぬぬと何も言い返せない様子だった。


「もう、いらんこと言う前に行くぞ!太一!!」


 菅原は新田の腕を強引に引っ張って、花と加奈の先を小走りで去って行った。


 残された花と加奈はしばらく、ぼ~としていた。


「…何だったんだろね?あれは。」

「さぁ?

 …でも、何だか楽しくなってきている予感がするよ…」


 加奈はニヤリと笑うのであった。




 その日の休憩時間、加奈は谷に声を掛けた。


「谷君。ちょっといい?」


 谷は携帯をいじっていたが、ポケットにしまって、直ぐに答えた。


「あぁ。俺も丁度、伊藤に話があったとこだ。」


 そう言って、二人は教室の外に出た。


 花は野口と菅と楽しそうに話をしていた。




「…新田の事だろ?」


 廊下に出て、直ぐに谷が加奈に言った。


「そうそう。

 急に今日の朝、声かけてきたんだけど、あれは一体何なの?」


 加奈はどうせ何か知ってるだろうと谷を呼んだのだった。


「…新田はな。

 小谷に惚れたらしいんだ。」

「あらまぁ!」


 加奈は何故か貴婦人みたいな反応をした。


「あれ?でも、彼ら、野口君の彼女って知ってたよ。」

「まぁ、そうは伝えたんだが、惚れたもんはしょうがないと。

 奪われるんならその程度の気持ちだったんだよと、アプローチする気満々なんだよ。」

「す、すごいね。

 中々ポジティブな子だね~

 てか、入部一日目でそこまで話すって~」


 加奈は呆れるよりも、楽しそうな顔をしていた。


 谷は窓の外を見ながら、冷静な顔で加奈に話した。


「新田の言う通り、奪われるんなら、それはそれでしょうがないんだよ。

 でも、昭義は俺と小谷が仲良くしているとこ見て、すげぇアクティブな良いディフェンスをするようになったんだよ。

 だから、今回も新田が小谷にアプローチすることで、あいつがより良いプレイヤーになれるんじゃないかと思ってな。

 それで、俺は新田を応援することにしたんだよ。」

「なるほど。それは面白い。

 …じゃなくて、野口君にとっても良い刺激になるよね。」


 加奈は少し本音が出たが、言い直した。


「でだ。

 女子側にも味方が欲しいから、伊藤にも協力してほしいんだけど…」

「協力しましょう。」


 加奈は谷の提案に即答した。


 谷は加奈があまりにも花のことを考えない発言に少したじろいだ。


「…こう言うのもなんだけど、お前は本当に小谷の友達なのか…」


 加奈は笑って、谷に答えた。


「当たり前じゃん~親友だよ~

 でも、最近の花は幸せそう過ぎて、ちょっと羨ましくなってたんだよね~

 ちょっとは痛い目にあってもいいかなって。

 谷君だって、羨ましくない?あの二人。」


 谷は平然とした顔で加奈に言った。


「いや。全然。

 てか、俺、彼女いるし。」

「えっ?」


 加奈は驚きのあまり、声を失った。


 谷はそんな加奈の様子にムッとした表情になった。


「当たり前じゃん。

 俺みたいにかっこいい奴が彼女いないなんてことねぇよ。

 俺、幼馴染の彼女がいるから、昭義の事も羨ましくもなんとも思ってねぇよ。」

「…よく恥ずかしげもなく、自分の事をそこまで言えるね…

 えぇ~マジで~じゃあ、私だけじゃん!!

 付き合ってないの~」

「まぁ、健太もだけどな。」

「菅君はどうでもいいよ~」


 加奈は菅に平気で失礼なことを言いつつ、落ち込んだのだった。


 谷はそんな加奈を不思議そうに見ていた。


「伊藤だって、モテてるだろ?

 告られたことなんていっぱいあったろうに。

 なんで付き合わないんだ?」


 加奈は俯きながらも谷に答えた。


「…まぁ、正直、告白されたことはあるけどさ~

 タイプの人がいなかったっていうか~

 存在しないっていうか~」

「存在しないって…

 じゃあ、伊藤はどんなタイプの奴が好きなんだよ?」


 加奈は珍しく恥ずかしそうに谷に言った。


「…花みたいな何でも思ったこと言ってくれる子…」


 谷はえぇと若干引いていた。


「…言っとっけど、谷君が思ってるような花に恋愛感情とかはないからね。」


 そう言って、加奈は谷に釘を刺した。


 そして、加奈は顔を上げて、頬杖つきながら窓の外を見た。


「…こんなこと谷君に言ってもしょうがないんだけどさ~

 私、昔から花に憧れてたんだよね~

 それで男子の好きなタイプもそういう人になっちゃったって訳よ~

 困ったもんだよね~」

「…まぁ、確かに小谷みたいな男子はそうはいないな。」


 谷は冷静に加奈に言った。


 谷の言葉を聞いて、加奈はニヤリと笑った。


「でしょ!

 だから、とりあえず、野口君の邪魔をしたいというその楽しそうな案に乗って、多少の憂さ晴らしをしたいと思います!!

 「野口別れさせ隊」の結成だね!!」


 加奈は親指を立てて、舌をペロッと出して、谷に言った。


 谷は加奈が味方になってくれたものの、若干の不安を感じた。


「…うかつに味方にする奴じゃなかったかもしれん…」


 続く

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