二年生突入

第25話 新入生

 

「…可愛い子はいねが~可愛い子はどこだ~」


 4月の入学式、新一年生の新田太一(にった たいち)が可愛い女の子を探していた。


「やめろよ。太一。はずいだろ。」


 同じく新一年生の菅原啓太(すがはら けいた)が小声で新田を注意した。


「別にいいじゃん。

 なんで俺たちがこんな弱小学校に来たのかって、女の子にモテるためだろ?」

「…違うだろ…はぁ…お前がユースに入ってれば、もっとマシだったろうに…」

「う、うっせぇな…それはまぁ、しゃあないだろが…」

「とにかく、恥ずかしい真似だけはすんなよ。」


 菅原は頭を抱えていた。


 一方、新田はウキウキした顔で女の子を物色するのだった。




「皆一緒のクラスになってよかったよね~」


 4月の中旬、2年生になったばかりの頃、昼休みにお弁当を食べながら、加奈が嬉しそうに言った。


「そうだよね~誰か一人くらい違うクラスになってもおかしくなったのに。」


 花もお弁当のウインナーを頬張りながら、嬉しそうだった。


「確かに。昭義だけ違うクラスとかの方が面白かったのに。」

「…なんでそんなこと言うかね?

 お前らって、俺に冷たくね?」


 花と加奈と一緒にお弁当を食べていた谷と野口が軽快なやり取りをした。




 花と野口が付き合ってからは自然とこの4人でお昼ご飯を食べるようになっていた。


 そして、4人とも2年生になっても同じクラスになったのだった。


 しかし、2年生になって、新たなる一人がそこに加わっていた。




「俺も同じクラスになったし、これからは楽しくなりそうだな!!」


 文化祭の「アッキーナとタニーニョ」の王様役だったサッカー部員、菅健太(すが けんた)が楽しそうに笑っていた。


「…いつの間にか、変な奴が一人増えてるけどな…」


 野口はうんざりしたような顔で菅に言った。


「はっはっは~何言ってんだよ!アッキー!

 お前らだけ、女の子に囲まれてウハウハな昼休みなんて過ごさせるわけねぇだろがよ~」

「…別にいいんだけど。

 健太はうるさいからな。」

「まぁ、昭義は小谷と二人で食べたいんだよな。

 健太だけじゃなくて、俺らも邪魔なんだろ。」

「えっ!そうなの!?

 野口君ひど~い。」

「そうだぞ!アッキー!

 俺ら、友達じゃんか!!」

「…俺にとっては、俺をいじる奴が一人増えただけなんだよな…」


 野口は皆にいじられて、本当にめんどくさそうだった。


 花はそんな野口を笑って見ていた。




「サッカー部は一年生入ってくるの?」


 花が何とはなしに野口達に聞いた。


「おぉ~そりゃな~

 サッカーは人気スポーツだし。

 5、6人は入ってきそうだよ。」


 菅が元気よく花に答えた。

 加奈はうらやましそうに野口達を見た。


「いいなぁ~先輩って呼ばれるんだよね~

 私、帰宅部だから、1年生との接点が少ないんだよね~

 花だって、フェリアドに1年生入ってくるでしょ?」

「多分、入ってくるんじゃないかな?

 まだ、良く知んないけど。

 でも、どうせ、加奈また委員会入るんだから、そこで先輩面できるでしょ。」

「まぁそうかもだけど、委員会ってそんなしょっちゅうあるもんじゃないしさ~

 普通にうらやましいわ~」


 加奈は少しふてくされ気味に卵焼きを頬張った。


 花がふと思い出したかのように、野口に言った。


「そういや今日、私サッカー休みだから、アキ、一緒に帰ろうよ。」

「了解。それじゃあ、宿題でもして待っててくれ。」

「おう!陰ながら、練習見守ってあげるよ~」


 そんな二人のやり取りをニヤニヤしながら、加奈と菅が見ていた。


 そして、谷はいつもの冷静な表情で二人に言った。


「お前ら、よくこの中でイチャイチャできるな?

 本当はいじられたいんだろ?」

「ちげぇよ!!

 花が何も考えずに言っちゃうんだよ!!

 お前らが慣れてくれよ!!」

「何よ~私のせいなの~」


 花がムッとして、野口に言った。


「いや、そういうわけじゃないけど…」

「野口君ひど~い。」

「アッキーさいて~」


 加奈と菅は笑いながら、野口をいじるのだった。


「…ホント、もう…勘弁してくれ…」


 野口は疲れ果て、うなだれるのであった。




 放課後、新入生が早速サッカー部に入部してきた。


 その中に新田と菅原もいた。


「じゃあ、軽く自己紹介してもらおうか。」


 キャプテンの3年生、飯田徹(いいだ とおる)が練習前に1年生に自己紹介を命じた。


 1年生たちが緊張しながらも、初々しく自己紹介を続ける中、新田の番がやってきた。


「新田太一です!!FWです!!

 レギュラー狙ってくので、よろしくお願いします!!」


 新田は胸を張って、自信満々に言った。


 おぉと元気のいい1年生が入ってきたとサッカー部員たちが唸っていた。


 そして、次に菅原の番が来た。


「菅原啓太です。ボランチやってました。

 よく「すがわら」って間違われるんですが、「すがはら」です。

 でも、正直どっちでもいいので、気軽に呼んでください。

 よろしくお願いします。」


 新田とはうって変わって、落ち着いた様子で菅原は自己紹介をした。


 おぉとちゃんとした1年生が入ってきたとサッカー部員たちが唸っていた。


 そして、自己紹介が終わり、練習が始まった。




 1年生はボール拾い等の雑用をしないといけないといった風習は無く、普通に初めから練習に参加していた。


 アップのランニングから入り、基礎練、ポストシュート練習等をこなしていった。


 その中で新田と菅原は1年生の中でも群を抜いて上手く、かなり目立っていた。


 宿題を終えた花が教室の窓から、サッカー部の練習を見ていて、思わず呟いた。


「あの二人、上手だな~

 将来有望じゃん。」




 次に、1対1で相手を抜いてからのシュート練習に入った。


(よっしゃ!!来た来た!!)


 新田は自信に満ち溢れた表情で自分の番を待った。


 そして、新田の番のDF役は野口だった。


 花はそれをワクワクしながら、見守っていた。


(1年生なんかに負けんなよ~アキ~)


 新田がボールを一旦、野口にパスして、野口がダイレクトで新田へとボールを返してから、勝負は始まった。


 野口はすぐさま、いつもの自分の間合いを取れるよう距離を詰めた。


(おぉ…いきなり結構くるな…この人…)


 新田は距離を詰められて、少し慌てたが、落ち着いて、ボールをトラップして、右のインサイドで細かくドリブルをした。


 野口は細かいボールタッチだったので、うかつには足が出せなかったが、徐々に距離を近づけながら、サイドへと追いやって行った。


 新田はこのままではと、右足を軽く踏み込むフェイントを入れて、一気に縦勝負に出た。


 が、野口は読み切って、新田とボールの間に体を入れて、きれいにボールを奪い取った。


 新田はボールを取られて、呆然としていた。


(…くそ!!)


 新田は悔しそうにもう一度、攻めの方に並んだ。


 そして、野口の順番に合わせるように順番を交代してもらって、再度、野口に挑戦した。


 しかし、今度も野口が華麗にボールをかすめ取った。


 新田はその後もむきになり、何度も野口に挑戦するのであった。




「…ちっくしょ~結局、一回も抜けなった…

 なんで、あんな人がこんなとこにいるんだよ!!」


 新田はトンボを掛けながら、菅原にキレていた。


「俺にキレられても…

 でも、確かに野口先輩と谷先輩はちょっと別格だったね。

 まぁ、世界は広いってことだよ。」


 菅原は冷静に分析していた。


 すると、同じくトンボをかけていた野口が二人に近寄ってきて、話しかけた。


「二人ともすげぇ上手いな。

 どっかチーム入ってたのか?」


 新田はぷいっとそっぽを向いて、無視した。

 あれっと野口が思ったところに、菅原がため息をついて、説明した。


「…すみません。

 太一の奴、野口先輩が抜けなかったから、不機嫌なんです。

 僕らは中学まで同じクラブチームに入ってたんです。

 所謂Jリーグの下部組織的なとこです。」

「えぇ!めっちゃすごいじゃん!!

 そりゃ上手いわけだわ~

 でも、なんでこんなとこに?」


 野口は不思議そうな顔で聞いた。

 菅原は笑いながら、野口に言った。


「ははは。それがですね。

 こいつが監督と喧嘩して、やめちゃったんですよ。

 で、僕も太一とじゃないとつまんないんで、一緒にやめたんです。

 確かにそんなにいい監督ではなかったですしね。」

「へぇ~そうなんだ。

 なんか、花みたいなやつだな。」

「はな?」

「い、いや。なんでもない。

 とにかく、二人みたいな上手い子が入ってくれて良かったよ。

 これからもよろしくな~」


 そう言って、野口に先に走り去っていった。


「いい人じゃん。野口先輩。」

「…ふん!ああいう人程、根暗なんだよ。きっと。」

「…お前はよっぽどだな。」




 そうして、片づけが終わった後、新田がふと野口の方を見ると、花と一緒に楽しそうに喋っていた。


 新田がぼ~としているので、菅原が不思議そうに新田に言った。


「どうした?太一?」

「…あれ、見ろよ…」


 そう言って、新田は野口の方を指さした。


「ん?あぁ~野口先輩の彼女かな?」

「あの子、すげぇ可愛くない?

 めっちゃ好みなんだけど!!」

「えぇ~でも、どう見てもあれ付き合ってるだろ?」

「関係ねぇよ!!

 好きになったもんはしょうが無いだろ!!」


 新田はいきなり好きと言い切ったのだった。

 菅原はうんざりした様子で新田に言った。


「えぇ…太一ってホント惚れっぽいよな…

 やめとけって~先輩の彼女はまずいだろ~」


 すると、谷が後ろから近寄ってきて、二人に声を掛けた。


「…いや。悪くないかもしれん。」


 二人は驚いて、ビクッとなった。


「た、谷先輩!何言ってるんですか!

 どう考えてもダメでしょ!!」


 菅原は慌てた様子で谷に言った。


 谷はニヤリと笑って、二人に言った。


「昭義のためにもその方がいいかもしれんな…」


「はぁ?」


 新田と菅原は何が何やら分からなかった。


 続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る