第24話 バレンタインデーと誕生日と初デート

 

「そういや、言うの忘れてたけど、私、バレンタインデーが誕生日なんだ~

 すごくない?」


 バレンタインデーの前日、公園練習中にふと思い出したかのように花が野口に言った。


「…花、お前なぁ~そういうのはもっと早めに言っとけよ?マジで。

 伊藤さんから聞いてるから良かったけどよ。」


 呆れた様子で野口は花へボールを蹴った。


「あはは~ごめんごめん。

 しかし、流石はアキだね!

 そういうとこはしっかり抑えれてていいんじゃないかな!!」


 花は誤魔化し気味に笑って、野口へとボールを蹴り返した。


 この頃には花は野口の事を「アキ」、野口は花の事を「花」と呼ぶようになっていた。


 香澄が「あっくん」、その他の皆は「アッキー」と呼んでいたので、彼女専用として、花は「アキ」と呼ぶことにしたのだ。


 野口は無難に「花」と呼ぶことにしたのだった。




「丁度、明日学校休みで、私、サッカーが午前だけだから、午後からどっか行こっか?」

「そうだな。

 俺も部活午前だけだから、昼から遊びに行くか~」


 パス交換しながら、二人は遊ぶ約束をした。


 野口は一旦、ボールを足ですくい上げて、ベンチに座った。


「つっても、何して遊ぶよ?」


 花は野口の隣に座り、楽しそうな顔でう~んと考えていた。


「そだね~何気に二人でどっか行くって、初めてだし、迷うな~

 てか、そういうのはアキがリードすべきじゃないの?」

「…考えるのがめんどくさくなっただけだろ…

 まぁ、なんだ?

 ボーリング、カラオケ、映画、買い物…

 そこらへんがよくあるデートなんじゃないのか?」


 野口は若干呆れながらも、花にデート場所をいくつか提案した。


 花は少し悩んでから、その中の一つに興味が沸き、野口に聞いた。


「映画って、今、何やってるのかな?

 私、ほとんど映画見に行ったことないから、ちょっと見に行きたいな。」

「俺も全然見てねぇわ。

 それじゃあ、映画に行くってことで、何やってるか調べてみるか。」


 そう言って、野口は携帯を取り出して、調べ始めた。


「何系が見たい?

 恋愛、アクション、ホラーとか色々あるけど。」

「ホラー!

 ホラー一択でしょ!!」


 花はすぐさま、野口に答えた。


 野口は笑って、花に言った。


「ははは。やっぱり、花って、ホラーが好きなんだな。

 暗くて狭いところが好きって言ってたし、想像通りだったわ。」

「…私ってホントに分かりやすいって言われるな…

 なんか、ちょっと嫌だわ。」


 花はあまりにも皆に心を読まれるので、少し反省した。


「じゃあ、ホラーでも見るか。」


 そうして、二人は同じ携帯を見ながら、寄り添って、どの映画を見るかを仲良く選ぶのだった。




「お待たせ~」


 バレンタインデー当日、野口が先に待ち合わせ場所に到着しているところに花が笑って声を掛けた。


「おぉ~そんじゃあ、行くか~」


 二人は横並びで歩き始めた。


 花は横からジロジロと野口を見回した。

 野口はあまりにも見られるので、恥ずかしくなり、花に言った。


「何なんだよ?どうした?

 そんな見てきて?」

「いや~今まで制服かジャージ姿しか見たことなかったから、私服のアキが新鮮でさ~」

「そういうことか。

 てか、滅茶苦茶、普通の恰好してきたつもりなんだけど。」

「まぁ~そうだね~普通だね~」


 野口は厚手のジャケットにマフラーを巻いて、ジーパンで一般的な普通の恰好をしていた。


 野口はそれならばと、逆に花を見回した。


「…花の恰好も似合ってるじゃん。

 絶対にスカートは履いてこないだろうなとは思ってたわ。」

「う、うっさい!!

 私だって、スカート履くことくらいあるよ!!」


 花もジーパンで、上はセーターを着てマフラーをしていた。


 そんなやり取りをしながら、二人は映画館へとやってきたのだった。




「とりあえず、予約してたから、直ぐに入れるよ。」


 野口がチケットを買ってきて、花に伝えた。


「アキはそういうところ、しっかりしてるから安心できるよ~」


 花は嬉しそうに野口に言った。


 野口は少し恥ずかしがりながらも、小さな声で呟いた。


「…花に任せたら、すごい時間かかりそうだしな…」

「…なんか言った?」

「いえ~何も言ってませんよ~」


 早速、二人は指定の部屋へと入って行き、隣同士で座った。


 そして、映画が始まった。




 花は映画に夢中になり、グロテスクなシーンも楽しそうにしながら見ていた。


 そんな花をちらりと見た野口は若干引いていた。


 実は野口はホラーがあまり得意ではなく、顔を背けるシーンが多々あった。


 野口が顔を背けると、花の手が目に映った。


 野口は少し悩んだ後、花の手を握った。


 花は手を握られて、初めてビクッと驚いていた。


 どんなホラーなシーンよりも花にとってはビックリする出来事だったのだ。


 でも、花は嬉しくなって、野口の手を握り返した。




「いや~面白かったね~」


 花は本当に楽しそうな顔をしていた。

 野口は少しぐったりしながらも、平静を装って、花に言った。


「そ、そうだな。

 中々怖かったな。」

「そう?別に怖くはなくなかった?」


 花はケロッとした顔をしていた。

 このままでは花に振り回されそうと思った野口は正直に伝えておこうと思った。


「…実は俺、ああいうの弱いんだよ…」

「そうだったんだ!

 でも、別に私、遠慮するつもりないからね。

 これからもホラー映画に付き合ってもらうよ~」

「…花はそういう奴だったな…

 …しょうがないか…」


 野口は諦めた顔をして、うなだれた。


 花はそんな野口の様子を見て、少し恥ずかしそうな顔をしながら、野口の手を握った。


「しょうがないから、手を握ってあげるよ。

 これで怖くないでしょ?」


 野口も恥ずかしくなったが、フッと笑って、花に突っ込んだ。


「俺は子供か!」


 そう言いつつも、野口は花の手を離さなかった。




「この後、どうしようか?」


 二人は手を繋いで歩きながら、ブラブラしていた。


 野口は考えていたことがあったが、少しためらいながら、花に言った。


「…俺んち来る?」

「行く!!」


 花はワクワクした顔で即答した。


 野口は花の顔を見て、なんだか可笑しくて、笑った。


「ははは。じゃあ、行くか。」


 二人はずっと、手を繋ぎながら、野口の家を目指すのだった。




「おじゃましま~す!」


 野口の家に到着して、中に入ると、花は元気よく挨拶した。


 すると、二階からドタドタと誰かが下りてくる音がした。


「いらっしゃ~い!!

 初めまして、姉の恵子です~

 よろしくね~花ちゃん。」


 恵子が愛想よく笑って、花を出迎えた。


「始めまして、小谷花です。

 よろしくお願いします~」


 花も愛想よく、恵子に挨拶した。

 野口はめんどくさくなる前に自室に行こうと花に言った。


「じゃあ、俺の部屋こっちだから。」

「えぇ~いきなり、自分の部屋に連れ込むの~

 昭義、やらしいんだから~」

「うるせぇよ!

 そういうこと言われるのが嫌なんだよ!!

 いいから、姉貴も自分の部屋に戻れよ~」

「嫌だよ~私は花ちゃんと話するんだから。」

「ちょっとは空気読めっての!!

 いいから、行くぞ!花!」


 野口は花の手を引いて、強引に自分の部屋へと連れていくのだった。




「…すまんな。うっとおしい姉貴で。」


 部屋をバタンとしめて、とりあえず、野口は花に謝った。


「いやいや、楽しいお姉さんじゃん。

 まぁ、今日は二人きりで渡したい物もあったし、また今度、お話させてもらうよ~」


 そう言って、花はカバンの中から、小さな箱を取り出した。


「はい。チョコレートどうぞ。

 手作りじゃないのは許してよ~」


 花からチョコを受け取った野口は嬉しくて、恥ずかしくて、何故か丁寧にお礼を言った。


「あ、ありがとうございます。

 それじゃあ、俺からも…」


 野口もカバンの中から、小さな袋を取り出して、花に渡した。


「誕生日おめでとう。

 …まぁ、これからもよろしくな。」


 花は嬉しそうな顔をして、ワクワクしながら、もらった袋を開けると、中には可愛らしい毛糸の手袋が入っていた。

 野口は頬をポリポリかきながら、照れくさそうに花に言った。


「花って、スポーツ用の手袋しか持ってないだろ?

 今日も手袋してなかったし。

 だから、私服に合わせられるような手袋をと…」


 花は満面の笑みを浮かべて、野口に言った。


「ありがと!!嬉しいよ!!

 大事にするね!!」


 野口も嬉しそうな花を見て、ホッとした様子で座り込んだ。


「まぁ、一段落ついたし、少し座って休憩しよう。」


 花はニヤリと笑って、あぐらをかいている野口の膝の上に座った。


 野口は慌てて、花に言った。


「お、おい。それははずくない?」

「いいじゃん。別に二人きりなんだし。」


 花は平気そうな顔をして、野口に言った。


 野口も恥ずかしくなりながらも、嬉しかったので、花を抱きかかえるようにした。




 しばらく、二人はくっついて、仲良く談笑していた。


「…私、こうやってくっつくの好きかも…

 なんかこれ安心するわ。」


 花は野口にぬいぐるみのように抱きかかえられながら、リラックスしているようだった。


 野口は一応、花に忠告しておいた。


「…言っとくけど、俺だって男だからな。

 魔がさすこともあるんだぞ。」

「えっ?でも、私、おっぱい小っちゃいよ?」

「…花はホントに何でも話すな…

 俺にとっては女として、一番魅力的だと思ってるんだからな。

 ちょっとは気をつけろよ~」


 野口は呆れながら、恥ずかしそうに花に言った。


 花は野口の話を聞いて、野口の顔を見つめた。


「…それはちょっと、嬉しいかも。

 …魔がさすって、何するの?」


 野口は花に見つめられて、顔を真っ赤にしながらも、思い切って、優しくキスをした。


「…こういうこと…」


 花はキスされた唇を触りながら、ぼ~とした顔で野口に言った。


「…キスって、なんかいいね…

 …すごいフワフワした気持ちになるわ…」


「…なら、もう一回する?」


 野口がそう言うと、今度は花から野口にキスをした。


 花は二回目のキスをした後、嬉しさが爆発して、足をバタバタさせた。


「これいいね!!

 でも、何回もするとありがたさが無くなりそうだから、今日はこれまでにしよう!!」

「…遠足かいな。

 花ははっきりしてて、俺からしてもありがたいわ。」


 二人はそう言って、離れて別々に座るのだった。


「今日は一番、フワフワした気持ちになった誕生日だよ~

 ありがとね~」


 そうして、二人はイチャイチャなバレンタインデーと誕生日と初デートを堪能したのだった。


 続く

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