第23話 周りの反応
「…というわけで、私と野口は付き合うことになりました~」
冬休みの最終日、花は野口と加奈、谷の3人を自宅に呼んで、これまでの経緯をにやけ顔で話したのだった。
花と野口は付き合うにあたり、まず始めに伝えたい相手にはきちんと説明しておこうと考えたのだ。
「おぉ~おめでと~
まぁでも、遅かったくらいだよね~」
「だな。
今更感が強くて、特に驚きもしないし。」
二人は手をパチパチとしながら、祝福しつつも、なんだか冷静だった。
「なんだよ~
もうちょっと、祝ってくれてもいいじゃん。
なんか拍子抜けだよ~」
花は不満を垂らしつつも、にやけ顔が止まらなかった。
野口は花の様子を見て、頭を抱えて恥ずかしがっていた。
「…お前はもうちょっと、恥ずかしがるとかしてもいいだろに。」
「野口まで、そんなこと言わないでよ~
素直にうれしいんだよ~」
本当に嬉しそうな花を見て、加奈は笑って、野口に言った。
「あはは~
野口君って絶対、花の尻に敷かれるよね~」
谷もうんうんと頷きながら、野口に言った。
「間違いないな。
昭義はドMだしな。」
「やめろ!!
二人して、俺をいじるな!!
いじるなら、小谷でもいいだろうが!!」
野口は恥ずかしくて、たまらない様子だった。
加奈は花の顔を見て、野口に言った。
「…だって、当分、花はこんな感じだろうから、いじってもつまんないんだもん。」
「…いじらずに素直に祝福してくれるって選択肢はないのか…」
「え?だって、いじってほしくて今日呼んでくれたんじゃないの?」
「…そんな訳ないだろうが…はぁ…」
野口はがっくりと肩を落とした。
そんな野口を他所に花はずっと、嬉しそうな顔をしていた。
加奈は野口だけが恥ずかしそうにしているのが、面白くて、笑っていた。
谷はいつもの冷静な表情で野口と花の様子を見ていた。
「…ちなみにおばさんとかおじさんには言ったの?」
加奈がふと気になって、花に聞いた。
「うん。とりあえず、今後、遊びに来るかもだから、言っといたよ。
彼氏できたから~てだけ。」
「また、あっけらかんと言ったね~
なんも言われなかったの?」
「お母さんは「高校生になったんだから、そろそろそういう年頃なんだね~」くらいしか言ってこなかったよ。
お父さんは「相手は誰だ!?」って、しつこく聞いてきたよ。」
「やっぱり、おじさんは可愛い一人娘のことは大事なんだね~」
加奈は出されていた暖かい紅茶をズズズと飲みながら、花に言った。
「どうなんだろね?分かんないけど、野口だって言ったら、「昭義かよ!」って、すごい驚いてた。」
「あれ?おじさん、野口君のこと知ってるの?」
「なんか野口のお父さんとうちのお父さんって、子供の頃からのライバルだったらしいんだよ。
それで野口の事は草サッカーに参加してたから、知ってたんだよ。」
「へぇ~そうなんだ~
すごい偶然もあるもんだね~
「タニーニョとアッキーナ」の話まんまじゃん。」
「…もう思い出させないでくれる?」
文化祭での劇は野口にとっては非常に恥ずかしく、消したい思い出の一つであった。
加奈は意地悪そうな顔をして、花に聞いた。
「…じゃあ、アッキーナと付き合うなんて、おじさん、許さなかったんじゃないの?」
「その呼び方、やめろ!!」
野口は加奈の執拗ないじりに辟易としていた。
花は特に気にする様子もなく、加奈に答えた。
「いや、別に?
野口の事は「礼儀正しくていい奴なんだよな~」とか、「でもな~あいつの息子だしな~」とか、一人で勝手に悩んでただけだよ。
それからはめんどくさいから、無視してたよ。」
「…なんか、おじさんが可愛そうだよ。
もうちょっと、構ってあげなよ。」
加奈は呆れた様子で花に言った。
すると、谷も野口に聞いた。
「お前も家族には言ったのか?」
野口はうんざりしたような顔をして、谷に答えた。
「…言ってねぇ…
だって、言ったら家族総出でいじってくんだもん…
それに俺も親父がうるさそうだし…」
「お前は家族の中でもいじられキャラなのか…
大変だな。」
谷は憐れんだような目で野口を見つめた。
加奈はこれはチャンスとばかりにまた、悪い顔で花に聞いた。
「花はいいの?
野口君だけ家族に秘密にしてるんだよ~
自分の事、隠されてるんだよ~
普通、彼女だったら、秘密にされると怒るもんなんじゃないの~」
花は全く持って気にする様子もなく、加奈に言った。
「何とも思わないよ?
野口の家にも遊びに行こうと思ってるし、どうせ、そん時、ばれるでしょ?
その時、いじられるのは野口だもん。」
「…お前は彼氏にも優しくないんだな…」
花の冷淡な一言に、加奈と谷は思わず、吹き出してしまった。
加奈は笑いが落ち着いた後、花に言った。
「そう言えば、さっきからずっと野口、野口って言ってるけど、彼女になったんだったら、下の名前で呼べば?」
花は加奈に言われて、今日、初めて恥ずかしそうな顔になって、加奈に言った。
「…それはちょっとはずい…
…ずっと、野口だったし…」
加奈はまたもやチャンス到来とばかりに再び、悪い顔をするのだった。
「じゃあ、野口君から「花」って、呼んであげなよ~
そしたら、花も「昭義君」とか呼ぶようになるでしょ~」
野口はまたもこちらに飛び火してきて、うんざりした様子で言った。
「…そういうのは追々考えてくから、少しは放っておいてくれよ…
そもそもまだ付き合って、数日しか経ってねぇのに。」
「あはは。まぁ、そうだよね~
まだ、名前呼びは早いか~
でも、花の事だから、気づいたら、下の名前で呼んでそうだけどね~」
加奈は笑って、今回は許してあげることにしたのだった。
「…あっ。花、大事な人忘れてない?」
加奈は思い出したかのように花に聞いた。
花は分かってると言った顔で、加奈に言った。
「…香澄ちゃんだよね…
どうすっかな~こればっかりはすごい言いづらいんだよね~」
「なんでだよ?
香澄には言ってあげろよ。
仲良いんだし、何をためらうことがある?」
野口は不思議そうな顔で花を見た。
花と加奈はこの男は何も分かっていないと、呆れた顔で野口を見た。
「まぁ、私の方からちゃんと伝えるよ。
…最悪、野口が刺されたとしても…」
「…うん…野口君、夜道には気をつけなよ?」
野口は二人の話を聞いて、少し怖くなった。
「…お前ら、香澄のことなんだと思ってるんだ…」
そうして、4人は花と野口の今後について、色々と楽しく話すのだった。
「じゃあ、今日はこれでおしまい!
お疲れ様~」
「ありがとうございました!!」
冬休み空けのフェリアドFCの練習後、花は香澄に声を掛けた。
「香澄ちゃん!
今日、途中まで一緒に帰らない?」
香澄は目を輝かせて、花に言った。
「もちろん!!喜んで!!」
そして、二人は一緒に歩いて、駅の方へと歩いていくのだった。
香澄はいつも通り、花と腕を組んで、引っ付いて歩いていた。
嬉しそうな香澄の顔を見ると、花は中々言い出せなかった。
しばらく、歩いた後、花は意を決して、香澄に言った。
「…じ、実は私、野口と付き合うことになったの!!」
すると、香澄は腕を組んだまま、花の顔を見つめて、笑って、花に言った。
「そうなんですか!!
良かったじゃないですか!!」
花は香澄の反応が思っていたものと違って、困惑した。
「え、えっと、香澄ちゃんはいいの?
私に彼氏ができたのって、許してくれるの?」
花は思わず、気にしていたことをストレートに香澄に聞いた。
「あはは~何言ってるんですか~当たり前じゃないですか~
あっくんはいい人だし、私は花姉さんが幸せになるなら、それが嬉しいんですよ~」
香澄は笑いながら、花に言った。
花は拍子抜けな感じだったが、香澄が素直に祝福してくれたのが嬉しかった。
花は香澄の頭を優しく撫でながら、香澄に言った。
「ありがと!香澄ちゃん!!
なんか良かったよ~
香澄ちゃん、私に彼氏が出来たら、怒るんじゃないかって思ってたから~」
「あはは~何でですか~
そんなことある訳ないじゃないですか~」
「そうだよね?ごめんごめん~」
二人が笑って話していると、香澄がボソッと呟いた。
「…ただ、花姉さんを泣かせるようなことがあれば…
…私はどうなるか分かりませんよ…」
花は香澄の呟きが聞こえて、ぞくっとした。
そして、夜空を見上げて、思った。
(…野口…やっぱり、あんた、危ないかも…)
続く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます