第21話 新年への思い
「あぁ~~~やっちゃたよ~~~」
大晦日の晩、もうすぐ年が明ける頃、花は自室の机に突っ伏して、うなだれていた。
「どうしたの?
最近では珍しく、うなだれてんじゃん。
野口君となんかあったの?」
花の家に遊びに来ていた加奈が漫画を読みながら、何気なく核心を突いた。
「…私ってそんなに分かりやすい?
監督にも良く心読まれるんだけど…」
花は何だか怖くなって、加奈に聞いた。
加奈は笑って答えた。
「あはは~やっぱりそうだったんだ~
私は花とは長い付き合いだからね~
顔見ただけで、大体分かるよ~」
花はため息をついて、半分諦めたような顔をした。
「…じゃあ、ちょっと聞いてよ…
…野口と言い争いってか…一方的に言っちゃったというか…」
そうして、花は先日の野口とのやり取りを説明し始めるのであった。
「ん~~それは花が悪いね。」
花の話を聞いた加奈はバッサリと花を切り捨てた。
花は泣きそうな顔をして、小さな声で呟いた。
「…やっぱり、そうだよね…
…私、こんなだから、中学の時も暴れちゃったわけだし…」
「まぁ、思ったことを口にするのは一概に悪いとは言わないけどね~
ただ、サッカーの楽しみ方なんて人それぞれなんだし、自分の考えを押し付けるようなことは言っちゃダメなんじゃないかな~と私は思ったよ。」
加奈は腕を組んで、懇切丁寧に花に説明した。
花はテーブルに頭を打ち付けて、反省した。
「…分かってるんだよ…私が悪いってことは…
…でもさ…私、考えを押し付けようとして、言ったわけじゃないんだよ…
…言い方は悪かったと思うけどさ…」
「じゃあ、なんでそんなこと言ったのさ?」
花は顔を上げて、少し恥ずかしそうにして、俯きながら、答えた。
「野口の本心を聞きたかったというか…
野口が考えてる事を知りたくなったというか…
野口の事をもっと知りたいと思っちゃったというか…
…それで、つい…」
加奈は花の顔が真っ赤になってるのを見て、つい笑ってしまった。
「あはは~ホント花って、バカだよね~」
花は反論できず、ぐぬぬとこらえていた。
加奈はそんな花の頭を撫でながら、優しく花に言った。
「私は花はそれでいいと思うよ。
思ったことをまっすぐに伝えてくれるのって、私にとってはすごい嬉しいもん。
そんだけ、信頼されてるんだってさ。
そりゃ、自分の嫌なところを突いてくる時はムカついて、喧嘩したりもするけどさ。」
「…最後のはフォローになってないよ…」
「そういうことじゃなくてさ~
それって、私のこと良く知ってるってことじゃん。
ムカつくけど、自分の悪いところまで知ってるってことが嬉しくもあるんだよ。
野口君もきっとそうなんじゃないかな?」
花は加奈の言葉を聞いて、なんだか嬉しくて、気恥ずかしかった。
加奈は笑いながら、最後に花に提案した。
「だから、野口君ともう一回話してみなよ?
案外、そんなに気にしてないかもよ?」
花はしばらく、考えた後、決心したように顔を上げた。
「…うん!!そうする!!」
加奈はヨシヨシと花の頭を撫でて、そう言えばと花に聞いた。
「それから公園練習はしてないの?」
「あいつ、年末年始は広島のおばあちゃんちに行ってるんだよ。
だから、話するとしたら、あいつが帰ってきてからだね。」
「メールで伝えたらいいじゃん?」
「いや、直接話したいから、いいや。
なんとなくだけどさ。」
花がいつもの様子に戻ったようで、加奈は安心した。
「あんた達~年越しそば出来たよ~」
すると、1階から春子の声が聞こえてきた。
「は~~い。今行く~」
花は返事して、加奈と二人で一階に降りて行ったのだった。
「はぁ~~~」
一方、野口も親戚一同と年越しそばを食べながら、大きなため息をついて、うなだれていた。
(…なんで、あんな態度とっちまったんだ…俺は…)
あれから、野口も悩みまくっていたのだった。
「昭義!!もうすぐ新年だってのにため息なんてついて、どした~?
嬢ちゃんと喧嘩でもしたか?」
ベロンベロンになっている哲男が野口にちょっかいを出しに来た。
野口はギクッと反応してしまった。
すると、姉の恵子と姪っ子達も野口の傍に集まってきた。
「何?昭義、彼女できたの!?」
「あき兄ちゃん、彼女いるの~
どんな人~」
「写真ないの?写真?」
野口はうんざりした様子で、否定した。
「そんなんじゃないって!!
彼女なんていないから!!」
哲男は野口と肩を組んで、酒臭い息を野口に浴びせながら、グチグチと言い始めた。
「嬢ちゃんは可愛いぞ~~
サッカーもうめぇしな~~
賢人の娘ってとこだけが、ちょっとあれだがな~~
ん?てか、おめぇが嬢ちゃんと結婚したら、あいつが親戚になるってことか?
そりゃダメだ!!
ダメだぞ~~昭義~~」
「あぁ~~もううっせぇな~~
そんなんじゃねぇっての!!
酒くせぇから、あっち行けって!!」
野口は悩んでいる暇もなく、親戚一同からいじられまくっている内に年が明けていた。
「ほら、年が明けちまっただろが~~
はい!!明けましておめでとうございます!!」
野口は早く話を終わらしたくて、無理やり新年の挨拶をした。
「あけおめ~~ことよろ~~~」
親戚一同が新年の挨拶を始めたところで、ようやく野口へのいじりが終わった。
「よっしゃ~~初詣行くぞ~~」
「おぉ~~」
野口の親戚はテンションが高かった。
毎年、野口は親戚と共に近くの小さな神社に初詣に行っていた。
神社に向かう途中、野口は携帯のメール画面を開いていた。
しかし、何やら迷っている様子だった。
しばらく、歩きながら考えた後、意を決して、野口は送信ボタンを押した。
花も加奈と一緒に近くの神社に初詣に来ていた。
その道中、花の携帯にメールが届いた。
野口からのメールだった。
花は少し不安になりながら、加奈に見られないようこっそり、メールを開いた。
「明けましておめでとう。今年もよろしく。
1月3日の夜、いつもの公園で話したいんだけど、大丈夫か?」
花は本当に律儀な奴だなと思わず笑ってしまった。
そして、花はそのメールにすぐ返信した。
「あけおめ~ことよろ~
1月3日、大丈夫だよ。
私も話したかったから。」
花は思わずにやけ顔になっていた。
加奈がその様子に気付いて、ニヤリと花に言った。
「…野口君からメール来たんだね?」
花はびくっとして、加奈に言った。
「もう!!いちいち、当てなくていいから!!」
そうして、花と加奈はお賽銭を投げて、今年一年の願いを祈った。
遠く広島の地での野口も同様に祈っていた。
花と野口の祈りは一緒だった。
(どうか、野口と仲直りできますように…)
(どうか、小谷と仲直りできますように…)
花は祈り終わって、賽銭箱から背を向けた時、忘れてたとばかりにもう一度、お賽銭を投げ入れた。
(サッカーももっと上手くなりますように!!)
野口も花と全く同じことをしたのだった。
続く
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